Nの皆さんへ⑤
「いざという時には、これで連絡を取る」
ラカールがそう言った。
見ると、彼はソラに銃を見せた。
「これは…」
「連絡用の銃だ。丸めた紙を遠くまで飛ばすことができる」
森を抜けた先に、その村はあった。
瓦礫と化した家々。
焼け焦げた木材。
崩れた井戸。
風が吹くたび、灰が舞い上がる。
ソラは足を止めた。
「……ここがフジ村か」
ラカールは周囲を見渡しながら短く答える。
「ああ。間違いない」
その時だった。
「へぇ」
軽い声が後ろから飛んだ。
二人が振り向くと、そこに一人の少女が立っていた。
肩まで伸びた黒髪。帽子をかぶっているが鋭い目つき。どこか気だるそうな立ち方。
アオミ・アヤセだった。
「これが噂の紅剣持ち?」
ソラを上から下まで眺める。
「設定は重いのに、持ち主は軽そうだね」
ソラの眉がぴくりと動く。
「普通、そんなこと言う?」
アオミは肩をすくめる。
「事実でしょ」
でもいい。ここでいくら叩かれようと後で見返せばいいだけの話だ。
(口よりも結果が命だ)
ラカールが間に入る。
「無駄口はいい。任務だ」
アオミは小さく笑った。
「はいはい、副隊長様」
三人は村の中へ進んだ。
---
最初に見つけたのは、遺体だった。
倒れたままの村人。
血は乾き、黒く変色している。
ソラは目を逸らさなかった。
「……遅かったな」
ラカールが呟く。
その時。
ギシ、と音がした。
三人の視線が同時に一つの小屋へ向く。
「中だな」
ラカールが低く言う。
ゆっくりと歩み寄る。
扉の前で一度止まり、呼吸を整える。
そして――踏み込んだ。
その瞬間。
上から、影が落ちた。
「一匹目、捕捉」
「――っ!」
反応するより早く、黒い影がラカールへ叩きつけられる。
衝撃。
床が砕ける。
「遅かったな。もう少し早けりゃ解体の工程も見せてやれたってのに」
やけに感情的な声とともに現れたのは、黒い装甲の人影。
胴体にNo.13。
機械人間No.13だった。
「紅剣を確認」
無機質な声。
ラカールが瓦礫の中から立ち上がる。
「理式、歪算――」
空間が歪む。
だが。
No.13はその歪みごと拳を叩き込んだ。
「なっ――」
ラカールの身体が吹き飛ぶ。
壁を突き破り、外へ。
「2匹目、視認」
No.13の視線がソラへ向く。
一直線に突っ込んできた。
ソラは歯を食いしばる。
(抜きはしない)
母とカルの墓。廃墟と化した故郷。
拳が振り落とされる。
横にずれ、一撃目はかわす。
二撃目は腕で防ぐ。
三撃目で、吹き飛ばされた。
地面を転がる。
「……クソッ」
立ち上がる。
だがもう、足が追いつかない。
No.13が迫る。
その時。
乾いた音が響いた。
パンッ――
弾丸がNo.13の肩を撃ち抜く。
アオミだった。
片手に銃を構えている。
「交代だ」
淡々とした声。
「その理式、私が壊すよ」
銃口が光る。
次の一発。
13号の胴体を貫通する。
No.13の動きが止まった。
「……異常事態だな」
13号は膝をつく。
アオミが近づく。
「終わりよ」
銃を突きつける。
沈黙。
そして。
No.13はゆっくりと両手を上げた。
「降伏を選択する」
---
夕方。
三人は遺体を埋めていた。
黙々と、土を掘る。
ソラも、アオミも、言葉はない。
最後の土をかけたあと。
アオミは手を合わせた。
無意識だった。
ソラはそれを見ていた。
「……祈るんだな」
アオミは一瞬だけ止まる。
「別に」
視線を逸らす。
「ただの癖」
ソラはそれ以上言わなかった。
焚き火の前。
ソラは焼き魚を口に入れた。
アオミが言った。
「私は、小説家になる」
ソラが顔を上げる。
「は?」
「この戦いを後世に残す」
淡々とした口調。
「だから、事実だけを書く」
「感情は?」
「いらない」
即答だった。
ソラは少し笑った。
「それ、面白いのかよ」
アオミは少しだけ考えた。
「分からない」
正直だった。
---
夜。
小屋の中。
ラカールは椅子に座り、目の前の存在を見ていた。
拘束されたNo.13。
「質問だ」
ラカールが言う。
「お前、名前はあるのか」
少しの沈黙。
そして答えた。
「……ブレード・キング」
ブレード・キング。
「自分でつけた。俺は王様さ。少なくとも自分の中では」
ラカールは眉をひそめる。
「機械が名前を持つか」
ブレードは笑った。
わずかに。
「俺はな」
ゆっくりと言う。
「人間を媒体に、感情を与えられた」
沈黙。
(人間を媒体だと…?)
「わかるか?」
顔を上げる。
「俺は機械人間であって、機械人間じゃねぇ」
ラカールは黙って聞いていた。
「……くだらん哲学だな」
「そうか?」
ブレードは笑う。
「じゃあ一つ、現実を教えてやる」
ラカールの目が細まる。
「俺の救援が来る」
空気が変わる。
「上位個体だ」
ラカールは静かに聞く。
「番号は?」
ブレードは答えた。
「No.2」
その瞬間。
外で風が鳴った。
まるで、何かが近づいているかのように。
---
その時。
風が止んだ。
音が消える。
闇の向こう。
ゆっくりと、何かが歩いてくる。
重い足音。
規則的な、圧。
姿が見えた。
黒い装甲。
だが、13号とは違う。
“密度”が違う。
「対象確認」
機械の声。
「天哭紅剣」
ソラの背筋が冷える。
「回収を開始する」
No.2号が、一歩踏み出した。

