Nの皆さんへ⑤

7 2026/03/22 12:21

「いざという時には、これで連絡を取る」

ラカールがそう言った。

見ると、彼はソラに銃を見せた。

「これは…」

「連絡用の銃だ。丸めた紙を遠くまで飛ばすことができる」

森を抜けた先に、その村はあった。

瓦礫と化した家々。

焼け焦げた木材。

崩れた井戸。

風が吹くたび、灰が舞い上がる。

ソラは足を止めた。

「……ここがフジ村か」

ラカールは周囲を見渡しながら短く答える。

「ああ。間違いない」

その時だった。

「へぇ」

軽い声が後ろから飛んだ。

二人が振り向くと、そこに一人の少女が立っていた。

肩まで伸びた黒髪。帽子をかぶっているが鋭い目つき。どこか気だるそうな立ち方。

アオミ・アヤセだった。

「これが噂の紅剣持ち?」

ソラを上から下まで眺める。

「設定は重いのに、持ち主は軽そうだね」

ソラの眉がぴくりと動く。

「普通、そんなこと言う?」

アオミは肩をすくめる。

「事実でしょ」

でもいい。ここでいくら叩かれようと後で見返せばいいだけの話だ。

(口よりも結果が命だ)

ラカールが間に入る。

「無駄口はいい。任務だ」

アオミは小さく笑った。

「はいはい、副隊長様」

三人は村の中へ進んだ。

---

最初に見つけたのは、遺体だった。

倒れたままの村人。

血は乾き、黒く変色している。

ソラは目を逸らさなかった。

「……遅かったな」

ラカールが呟く。

その時。

ギシ、と音がした。

三人の視線が同時に一つの小屋へ向く。

「中だな」

ラカールが低く言う。

ゆっくりと歩み寄る。

扉の前で一度止まり、呼吸を整える。

そして――踏み込んだ。

その瞬間。

上から、影が落ちた。

「一匹目、捕捉」

「――っ!」

反応するより早く、黒い影がラカールへ叩きつけられる。

衝撃。

床が砕ける。

「遅かったな。もう少し早けりゃ解体の工程も見せてやれたってのに」

やけに感情的な声とともに現れたのは、黒い装甲の人影。

胴体にNo.13。

機械人間No.13だった。

「紅剣を確認」

無機質な声。

ラカールが瓦礫の中から立ち上がる。

「理式、歪算――」

空間が歪む。

だが。

No.13はその歪みごと拳を叩き込んだ。

「なっ――」

ラカールの身体が吹き飛ぶ。

壁を突き破り、外へ。

「2匹目、視認」

No.13の視線がソラへ向く。

一直線に突っ込んできた。

ソラは歯を食いしばる。

(抜きはしない)

母とカルの墓。廃墟と化した故郷。

拳が振り落とされる。

横にずれ、一撃目はかわす。

二撃目は腕で防ぐ。

三撃目で、吹き飛ばされた。

地面を転がる。

「……クソッ」

立ち上がる。

だがもう、足が追いつかない。

No.13が迫る。

その時。

乾いた音が響いた。

パンッ――

弾丸がNo.13の肩を撃ち抜く。

アオミだった。

片手に銃を構えている。

「交代だ」

淡々とした声。

「その理式、私が壊すよ」

銃口が光る。

次の一発。

13号の胴体を貫通する。

No.13の動きが止まった。

「……異常事態だな」

13号は膝をつく。

アオミが近づく。

「終わりよ」

銃を突きつける。

沈黙。

そして。

No.13はゆっくりと両手を上げた。

「降伏を選択する」

---

夕方。

三人は遺体を埋めていた。

黙々と、土を掘る。

ソラも、アオミも、言葉はない。

最後の土をかけたあと。

アオミは手を合わせた。

無意識だった。

ソラはそれを見ていた。

「……祈るんだな」

アオミは一瞬だけ止まる。

「別に」

視線を逸らす。

「ただの癖」

ソラはそれ以上言わなかった。

焚き火の前。

ソラは焼き魚を口に入れた。

アオミが言った。

「私は、小説家になる」

ソラが顔を上げる。

「は?」

「この戦いを後世に残す」

淡々とした口調。

「だから、事実だけを書く」

「感情は?」

「いらない」

即答だった。

ソラは少し笑った。

「それ、面白いのかよ」

アオミは少しだけ考えた。

「分からない」

正直だった。

---

夜。

小屋の中。

ラカールは椅子に座り、目の前の存在を見ていた。

拘束されたNo.13。

「質問だ」

ラカールが言う。

「お前、名前はあるのか」

少しの沈黙。

そして答えた。

「……ブレード・キング」

ブレード・キング。

「自分でつけた。俺は王様さ。少なくとも自分の中では」

ラカールは眉をひそめる。

「機械が名前を持つか」

ブレードは笑った。

わずかに。

「俺はな」

ゆっくりと言う。

「人間を媒体に、感情を与えられた」

沈黙。

(人間を媒体だと…?)

「わかるか?」

顔を上げる。

「俺は機械人間であって、機械人間じゃねぇ」

ラカールは黙って聞いていた。

「……くだらん哲学だな」

「そうか?」

ブレードは笑う。

「じゃあ一つ、現実を教えてやる」

ラカールの目が細まる。

「俺の救援が来る」

空気が変わる。

「上位個体だ」

ラカールは静かに聞く。

「番号は?」

ブレードは答えた。

「No.2」

その瞬間。

外で風が鳴った。

まるで、何かが近づいているかのように。

---

その時。

風が止んだ。

音が消える。

闇の向こう。

ゆっくりと、何かが歩いてくる。

重い足音。

規則的な、圧。

姿が見えた。

黒い装甲。

だが、13号とは違う。

“密度”が違う。

「対象確認」

機械の声。

「天哭紅剣」

ソラの背筋が冷える。

「回収を開始する」

No.2号が、一歩踏み出した。

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