残滓。【4】
「話が、あるの」
「……え?」
そんなふうに真剣に見つめられたことが、かつてあっただろうか。
君は話を切り出したきり、黙ってこちらを見つめている。その瞳を見つめ返しながら、ふと思った。チワワの様な愛らしい瞳、鹿の様にしなやかな脚。それなのに何処か背筋をスッとさせる様な眼差し。そうまるで……蛇の様な。
きっと見つめあっていたのは3秒にも満たないはずで、それでも僕にはそれが10分にも20分にも感じられた。
「……んーん、やっぱりいいや」
へら、と笑って顔を逸らした君の頬を伝ったそれは、僕の見間違いだったのかのしれない。さらりと流れた黒髪の毛先が描く軌道に、目が惹きつけられる。
それきり、僕らは夏が過ぎるまで一度も会わなかった。
きっとその夏は、一生に一度きりの、鮮やかな嵐の様な夏だったんだ。
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