暑い夏の日の実録+フィクション
ある日の昼休み、咲火中学校2年 松久葉 知栄 はいつものように女友達と話していた。知栄は俗にいう男らしい女子。髪こそロングなものの選択制の制服はスラックスを着用している。
リーダー気質の強い知栄は学級委員ではないがクラスをまとめ、男子に正面から立ち向かえて、何なら男子に恐れられている。
そんな知栄が窓際で女友達と話をしていると、
ガタガタ、ガシャン!
と、机が動く音がした。
『あいつらまた走り回ってんのか!』
バッと教室の後ろを振り向くと、小学校から仲が悪くはない(気が合う)バスケ男子 勝浦 洸 と癇癪を起こしてしまうと手のつけづらい普段は無口な男子 大冷 真 が掴み合い(殴り合い?)の喧嘩をしていた。
冷静になるより先に反射的に机の隙間を縫って二人のもとへ。知栄が駆けつけるより前から側にいた他の男子が少し二人を引き離していた。
その間に入り、右腕を広げる。正面の洸が「どけよ」と言って知栄とロッカーの間を通ろうとする。それを良いことに洸の右手首を両手で掴み真から離れる方向へと引っ張った。
「先生呼んでこようか」
「うん。よろしく」
学級委員でしっかりもの、女子からお母さんと慕われる佑果が声を掛けた。それに返事をして、無理やり前に進もうとする洸を引き留める。
「落ち着けって…」
「離せよ!」
その言葉を受けて、手首を掴むのを止めて腕を左脇に挟み込む。一瞬知栄の右手が離れたが即座に左手で掴み直した。
一方で相手方の真は周りの男子が三人がかりで止めていた。だが少しづつ知栄を引きずり、洸は真への距離を積めていく。
知栄が必死に腕にすがり付き続けたら、もう手が出たら届いてしまう。というその距離で
「もういい、めんどくせぇ」
と、洸が真から距離を取った。知栄が安堵し、二人の戦意が薄れたそのタイミングで先生たちが来た。
その後は二人に先生たちが声をかけ、話を聞くため廊下へと連れ立っていった。
「何があったんだろうね?」
「知んないけど、止めて欲しいわ」
「お疲れ~」「知栄は相変わらずだね」と労う女子に笑い、次の授業の教科書を準備する。喧嘩があったから何て理由で次の授業が無くなることはない。
『真あいつ小学校の時も掴み合いしててあたしが止めてた記憶あるなあ。てか左腕地味に痛い…ちょっと赤いし。』
ため息をつくけど、冷静になるとそれだけですんでいるのはありがたいと思う。男子の力なら文化部で運動は苦手、力のない知栄くらい簡単に振りほどけたはずだ。
『やっぱちゃんと優しいんじゃん…』
授業が終わって、洸たちも戻ってくると目があって思わず笑みがこぼれそうになる。笑ったら怒りを買いそうだからポーカーフェイスなんとか保った。ありがとうって言おうかな。とも思ったが、喧嘩してたのはあいつらだし何より話しかけづらい。
まあいいか。丸く収まって(?)よかったけど、今後は喧嘩しないで貰いたい。せめて口喧嘩にしてくれよ。あの時期になると思い出しては苦笑いをしてしまう暑い夏の日だった。
この物語は実話を元にしたフィクションです。どこまでが本当かはご想像におまかせします。
なお、学校名や登場人物の名前は作者がテキトーに考えました。実話とは全く違う名前となっています。