小説 私には6人の記憶だけがない。【騎士A】 day3
入院生活3日目、さすがに少し慣れてきた。今日は後輩が来るとそうま先輩は言っていた。
「(名前)先輩、おはようございます!」
「おはよう…てるとくん、だよね?」
「はい!桃里てるとです!」
「今日は私のためにありがとう。」
「僕も会いたかったから大丈夫です!あ、先輩!暇つぶしに最高なもの持ってきたんですよ。」
暇つぶしに最高…?なんだろう。
「デレデレデレデレ…じゃーん!ニンテ〇ドースイッチです!」
「お、いいねニン〇ンドースイッチ。何のゲームする?」
「マ〇カしましょ、マ〇カ!」
「よし、じゃあマリ〇しよっか。」
「やったー!僕ドンキーコ〇グで!」
なんだこの生物は。可愛いな。てかド〇キーコングは草。
「え、待っててるとくん強くない?」
「僕は6人の中でも一番うまいほうですよ?」
「マジか…本気出さないと。」
「ちょっと待って赤甲羅投げないでくださいー!!!」
「…勝った。」
「うう…負けた…もう一回!」
てるとくん、まだまだね!
「くそぉ…」
それからずっと二人で遊んだ。結果は引き分け。ゲームをしているてるとくんは表情豊かで、ゲームが好きだというのが伝わってきた。
「あ、もう帰らないといけない時間だ…」
そっか、今日は楽しかったよ。ありがとう。
「僕も楽しかったです。…(名前)先輩。」
ん?なに?
「…いや、やっぱりなんでもないです。明日はしゆん先輩が来るって言ってました!それじゃ!」
…あ、帰っちゃった。何を言おうとしてたんだろう。
(やっぱり後輩ってかわいいよね。また遊びたいな。)
「…はあ、やっぱり子供だって思われてるよね…」
『先輩は、僕の事男として見てますか?』
僕が言いかけたのはこれ。僕はいつもこうだ。声や性格のせいかもしれないけど、いつも、特に好きな人には子ども扱いされてしまう。
「僕だって男なのに…」
そう。僕だって男だ。バカみたいなことだってするし、ゲームだってする。…恋だって、例外じゃない。
でも、僕の気持ちを言っても(名前)先輩は困るだけだ。だって僕は眼中にも入ってないんだから。
ゲーム画面を開いた。『リセットしますか?』の問いに『はい』のカーソルを合わせる。
「先輩と同い年だったら、また違ったのかなあ…」
絶対にかなわない願い。伝えてはいけない思い。ゲームのデータと一緒にリセットした。