【小説】アガパンサス #3
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放課後、僕は下足室に急いだ。
一夏は昨日、あの手紙を読んだのだろうか。
彼女の下駄箱に手紙が入っているか否かで結果が明らかになる。
下足室に人がいなくなったことを確認すると、すぐに一夏の下駄箱へ手を伸ばした。
心臓がドクドクと脈打つ。僕は下駄箱の蓋を開けた。
中に入っていたのは、赤色を基調とした可愛らしい一夏の靴のみだった。
「まさか…」
そう呟いた途端、背後から声がかかった。
「え、何してるの」
咄嗟に声のする方を振り返ると、そこには一夏が立っていた。
もう遅いと分かっていながらも、一夏の下駄箱の蓋を閉めた。
「あ…ご、ごめん」
カラカラになった喉の底から謝罪の言葉を絞り出した。
「やだなー、義人ってば。私の靴が見たかったなら言えばいいのにー」
一夏の声が寂しい下足室に響き渡った。
一夏は下駄箱の蓋を開け、靴を引っ張り出して履いた。
「じゃあまた明日ね」
一夏は下足室の出口へ向かって走り出した。
「ほんとごめん」
ちょうど扉を開けて外に出るところだった一夏は、キョトンとした顔でこちらを向いたが、すぐに優しい笑顔をして言った。
「ううん、大丈夫。いつか靴の感想教えてね」
**
「それじゃさよなら!」
「さようなら!」
顧問の先生が挨拶をすると、私を含めた部員のメンバーが一斉に挨拶を返した。
もう10月の終わりだというのにも関わらず、部活動が終わったのは18:00過ぎ。
すっかり辺りは暗くなり、冷え込んできている。
カバンを持っている肩が痛むし、今日は早く帰って眠ってしまいたい。
そんなことを考えながら履いていたシューズを上靴へ履き替えた。
「山瀬って学校以外だと実はチャラいらしいよー」
「え、マジで!? 普段と全然違うじゃん!」
友達と共に渡り廊下へ行くと、そんな声が聞こえてきた。
話す内容はほぼ毎回同じなのに、飽きないのだろうか。
クラスの男子の裏話、先生の悪口、どれもテッパン中のテッパン、ベタ中のベタの話題。
下足室に着くと、ほとんどの友達が違う列に向かってしまった。クラスが違うためだ。
早く話したい一心で、さっさと靴を履き替えようと下駄箱を開けると、何かが靴と一緒に下駄箱に入っているのに気付いた。
入っていたのは、少し小さめの折り曲げられた紙切れだった。
なにこれ?手紙?
少し頭が混乱する。
折り曲げられた紙を開いてみると、いっぱい文字が書いてあった。多分手紙かな?
とりあえず、これは家に帰ってから明るい電気の下で見てみよう。
そう思って手紙をポケットに入れた。
帰ったら忘れずにポケットから出さなきゃ。このまま洗濯したらお母さんがどんなに怒ることか。そう想像して少し身震いした。
「いちかー。早くー!」
「ごめん! 今行く」
友達のイライラしたような声を聞き、私はあたふたと下足室の出口へ駆け出した。
「どうした? 何かあった?」
友達の元へ行くと、真っ先にそう質問を投げかけられた。
「いや、何も」
そう言いながら、ポケットに手を入れ存在を確認するかのように手紙を触った。
*
家に帰り着き、自分の部屋へ行くと、真っ先に手紙を取り出した。
一体誰からの手紙だろうか。
一行目を読んでみた。几帳面な字だけど、女子っぽくはない。
三行目に『僕はあなたが好きです。』とあった。
薄々感じてたけど、やっぱラブレターか。
うーん、と少し考え込んだ。
こんな手紙をもらったのは初めてだから、何をすればいいのかさっぱり分からない。でもこういうのって、大体どこかに呼び出されるんじゃなかったっけ…?
最後まで目を通して見たけど、それらしき呼び出しの文は一切なかった。
「『好きです』って言っただけ…!? 『なのでどうたらこうたら〜』みたいなのはないの!?」
つい声に出た。それくらいビックリした。
ニュースでは、明日には日本はなくなると言っていた。
もしかしたら、このタイミングということは、想いを伝えてやり残したことをやったってことなのかな?
嬉しいような、悲しいような気持ちになる。
「あっそうだ送り主…」
まだ送り主を見ていなかったことに気づき、手紙の1番最後の行に目をやった。
そこには『義人』とだけ書いてあった。
義人といえば、隣の席の男子である。
色恋沙汰とかは全くなくて、どちらかといえば1人で淡々と毎日を生きているようなイメージ。
それでも固い見た目とは反対にユーモアに溢れた男子だ。
異性として意識したことが全くないといえば嘘になる。
背が高いところとか、授業で分からないところを教えてくれるところで、男子だなと思わされる時もあるにはある。
でも好きという感情はなかった。
「嫌い」「普通」「好き」のカテゴリがあるとしたら、「好き」よりの「普通」に入るくらいだ。
「好き」よりの「普通」の階級に入る人は私の周りには沢山いるし、特別な存在ではない。
こういうのってどう返事すればいいんだろう。
それでも、明日には隕石がぶつかるらしいし、もし日本が無事なら考えようかな…。
そう思って、手紙を机の上に置いた。
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トピ画作りました。
タイトルは「アガパンサス」に決まりました。よろしくお願いします。
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