【小説】アガパンサス #3

3 2022/11/06 15:27

前回↓

https://tohyotalk.com/question/421619

放課後、僕は下足室に急いだ。

 一夏は昨日、あの手紙を読んだのだろうか。

彼女の下駄箱に手紙が入っているか否かで結果が明らかになる。

下足室に人がいなくなったことを確認すると、すぐに一夏の下駄箱へ手を伸ばした。

 心臓がドクドクと脈打つ。僕は下駄箱の蓋を開けた。

中に入っていたのは、赤色を基調とした可愛らしい一夏の靴のみだった。

「まさか…」

そう呟いた途端、背後から声がかかった。

「え、何してるの」

咄嗟に声のする方を振り返ると、そこには一夏が立っていた。

 もう遅いと分かっていながらも、一夏の下駄箱の蓋を閉めた。

「あ…ご、ごめん」

カラカラになった喉の底から謝罪の言葉を絞り出した。

 

「やだなー、義人ってば。私の靴が見たかったなら言えばいいのにー」

一夏の声が寂しい下足室に響き渡った。

 一夏は下駄箱の蓋を開け、靴を引っ張り出して履いた。

「じゃあまた明日ね」

一夏は下足室の出口へ向かって走り出した。

「ほんとごめん」

ちょうど扉を開けて外に出るところだった一夏は、キョトンとした顔でこちらを向いたが、すぐに優しい笑顔をして言った。

「ううん、大丈夫。いつか靴の感想教えてね」

**

「それじゃさよなら!」

「さようなら!」

顧問の先生が挨拶をすると、私を含めた部員のメンバーが一斉に挨拶を返した。

 もう10月の終わりだというのにも関わらず、部活動が終わったのは18:00過ぎ。

すっかり辺りは暗くなり、冷え込んできている。

カバンを持っている肩が痛むし、今日は早く帰って眠ってしまいたい。

そんなことを考えながら履いていたシューズを上靴へ履き替えた。

「山瀬って学校以外だと実はチャラいらしいよー」

「え、マジで!? 普段と全然違うじゃん!」

 友達と共に渡り廊下へ行くと、そんな声が聞こえてきた。

話す内容はほぼ毎回同じなのに、飽きないのだろうか。

 クラスの男子の裏話、先生の悪口、どれもテッパン中のテッパン、ベタ中のベタの話題。

下足室に着くと、ほとんどの友達が違う列に向かってしまった。クラスが違うためだ。

早く話したい一心で、さっさと靴を履き替えようと下駄箱を開けると、何かが靴と一緒に下駄箱に入っているのに気付いた。

 入っていたのは、少し小さめの折り曲げられた紙切れだった。

なにこれ?手紙?

少し頭が混乱する。

 折り曲げられた紙を開いてみると、いっぱい文字が書いてあった。多分手紙かな?

 とりあえず、これは家に帰ってから明るい電気の下で見てみよう。

そう思って手紙をポケットに入れた。

帰ったら忘れずにポケットから出さなきゃ。このまま洗濯したらお母さんがどんなに怒ることか。そう想像して少し身震いした。

 

「いちかー。早くー!」

「ごめん! 今行く」

友達のイライラしたような声を聞き、私はあたふたと下足室の出口へ駆け出した。

「どうした? 何かあった?」

 友達の元へ行くと、真っ先にそう質問を投げかけられた。

「いや、何も」

そう言いながら、ポケットに手を入れ存在を確認するかのように手紙を触った。

*

家に帰り着き、自分の部屋へ行くと、真っ先に手紙を取り出した。

 一体誰からの手紙だろうか。

一行目を読んでみた。几帳面な字だけど、女子っぽくはない。

三行目に『僕はあなたが好きです。』とあった。

薄々感じてたけど、やっぱラブレターか。

うーん、と少し考え込んだ。

 こんな手紙をもらったのは初めてだから、何をすればいいのかさっぱり分からない。でもこういうのって、大体どこかに呼び出されるんじゃなかったっけ…?

 最後まで目を通して見たけど、それらしき呼び出しの文は一切なかった。

「『好きです』って言っただけ…!? 『なのでどうたらこうたら〜』みたいなのはないの!?」

つい声に出た。それくらいビックリした。

 ニュースでは、明日には日本はなくなると言っていた。

もしかしたら、このタイミングということは、想いを伝えてやり残したことをやったってことなのかな?

嬉しいような、悲しいような気持ちになる。

 

「あっそうだ送り主…」

まだ送り主を見ていなかったことに気づき、手紙の1番最後の行に目をやった。

 そこには『義人』とだけ書いてあった。

義人といえば、隣の席の男子である。

 色恋沙汰とかは全くなくて、どちらかといえば1人で淡々と毎日を生きているようなイメージ。

 それでも固い見た目とは反対にユーモアに溢れた男子だ。

異性として意識したことが全くないといえば嘘になる。

背が高いところとか、授業で分からないところを教えてくれるところで、男子だなと思わされる時もあるにはある。

 でも好きという感情はなかった。

「嫌い」「普通」「好き」のカテゴリがあるとしたら、「好き」よりの「普通」に入るくらいだ。

「好き」よりの「普通」の階級に入る人は私の周りには沢山いるし、特別な存在ではない。

 こういうのってどう返事すればいいんだろう。

それでも、明日には隕石がぶつかるらしいし、もし日本が無事なら考えようかな…。

そう思って、手紙を机の上に置いた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

トピ画作りました。

タイトルは「アガパンサス」に決まりました。よろしくお願いします。

次回↓

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その他2022/11/06 15:27:32 [通報] [非表示] フォローする
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