【小説】マイ・リトルレナ第3話③
レナと出会って数日がたった。
私は今、廃墟に住んでいる。
壁の隙間から吹く風。その風の度揺れる柱。抜けた天井からこぼれる月明かり。
すべてにおいて調和のとれている空間。
ネズミやゴキブリが床を張っていようと、目の白くなった老犬が息絶えていようと、私はここが好きだ。
あの家が、いや、あの牢が地獄ならここは天国だ。
今思えば私はこの頃から感覚が麻痺していたのかもしれない。
レナという存在が現れたことによって私の価値観が、感覚が、思考が変わってしまったのかもしれない。
それでもよかった。
レナがいれば。楽しかった。
すべてが、、、レナ一色になってしまったようだった。
そういえば、私の小さい頃の記憶がない。あるのは小3辺りから。それでもポツポツとしかなかった。
今まで気にしたことがなかった。歪みに記憶が消えていくような、溶けていくような、そんな感じだった。
“私“という存在に違和感が生まれる。思い出せそうで思い出せない。
ナニかが引っ掛かる。いや、ナニかが私の記憶を塞き止めている。
私が、私の存在が、浮いているようだった。
私は、、、存在していいのだろうか。
その夜。私は夢を見た。
ここは・・・加々美沢海岸・・・?
私とレナは加々美沢海岸の岬に立っていた。
いや、私じゃない。
顔も声も体も私のモノだ。
だか、何かが違う。
私は、、、今どこにいる?
何も聞こえない。触れない。声を出すこともできない。
私の中・・・?
変にリアルで不気味な夢だ。夢には思えないくらい繊細だ。
こわい
私じゃないナニかが私のレナとしゃべっている。
手の届かない、喉の奥の方がむず痒い。
ナニかが、レナに触れる。
触れたところから、レナが腐ってゆく。溶けてゆく。
こわい。
そこで私の記憶は、意識は止まっている。
目が覚めたらそこは、廃墟じゃなかった。
加々美沢海岸の岬の下、海水で抉られ、部屋のようになっている場所だ。
ふと、下に目をやる。
ここで初めて私は座っていたのか、と自覚する。
だいぶ感覚がやられているようだ。
道理で目線が低い位置にあると思った。と、納得する。
ぬるりという微かな感覚と共に、頭の霧が晴れる。
レナが、私の膝の上で頭から血を流しながら横たわっていた。
そこでまた、私の意識が途切れた。