【読み切り小説】ずっと。
灰の匂いのする、暗闇にうずくまって。
私は今日も待っている。
あの人を、待っている。
□■□
「わぁ、綺麗だね……!」
「高ぇ……」
私は今、展望台の上に立っている。
柵に身を乗り出して、昼間の街を一望する。
桜花爛漫。
絵に描いたようなこの景色には、その言葉がぴったりだ。
春風が吹いて、私のロングヘアーをサラサラとなびかせる。
「来年も、またここで見たいね」
となりにいる彼に笑いかけた。
彼……蓮くんは、はじかれたように顔を上げる。
「え、ああ。俺もまた来たいよ、紗良」
「ふふっ、嬉しい」
幸せだな。
中学校にたくさん友達が出来て。
大好きな、彼氏もいて。
毎日が楽しい。
__でも、そんな毎日は、急に失われるんだ。
□■□
「じゃ、俺塾あるから」
「うん、楽しかったよ!」
盛り上がったお花見も終わってしまい、私は来た道を引き返す。
静まり返った道に、じゃり、じゃり、と音が響く。
……なんか、一人って怖い。
蓮くんについていけば良かったかも……。
なんて、後悔し始めたときだった。
「あの、今日っていつ?」
「ひっ」
後ろから話しかけられて、背筋が凍る。恐る恐る振り返って、
「ひぇっ!」
また悲鳴を上げて、尻もちをついてしまった。
で、でた……!
長い黒髪をいじって、恥ずかしそうにこちらを見ている……同い年くらいの女の子。その体は半透明で、宙に浮いている。
制服が私と同じだ。この子の顔も、どこかで見たような……。
(どこかで……。)
首をひねっている私の手を、女の子がつかんだ。立ち上がらせようとしたのか。しかし、不自然に白い手は私の手をすり抜ける。
「えっ」
「あっ、分かった、安心して。私が幽霊だからだ」
「安心できない!」
幽霊……やっぱり幽霊……!幽霊って存在するんだ。とりあえず逃げよう。後さずったのだが。
「あなた、彼氏と別れたら?」
その言葉に、足がとまる。
ワカレタホウガイイカト……。言葉を理解するのに、数秒かかった。さらに、幽霊が口を開く。
「あの彼氏、浮気してる」
「な……分からないくせにやめて!」
思わず幽霊だということも忘れ、詰め寄った。
蓮くんが浮気なんてしてるわけがない。会ったばかりの幽霊に言われるなんて、すごく腹が立った。
幽霊の目は、本気そのもの。
「分かるよ。私は、彼氏に浮気され、殺されたんだから」
えっ………。
□■□
それから、幽霊は亡くなった頃の話をしだした。ついでに、雲と呼んで、と。雲が亡くなったのは、今年の3月26日。
今日は3月25日……あれ?
「彼氏とは、そのころ一緒にお花見に行ったりもして。仲が良かったの」
「あぁ……」
なんとなく、今の私と状況が重なっている。
「でも、3月26日。あいつはこう言った」
寂しそうに目を伏せて、言う。
「うざいんだよ!お前なんかみたいな彼女、いらねぇから!」
「ひっど……」
思わぬひどい言葉に、絶句する。何、その彼氏。
「それで、ここから突き落とされちゃった」
崖から見下ろす。結構、ここは高いから……。落ちたら間違いなく、死んでしまうだろう。
雲にかける言葉が見つからない。
「あっ、重く受け止めないで。ただ、あなたに忠告」
「えっ、と。忠告?」
「あいつの態度、見た?浮気してるよ」
私たちのこと、見てたの?
「でも、浮気なんてしてないよ、大丈夫」
「だけど」
「この話はおしまい、ゲームでもしようか!」
無理やり話を切り替えちゃったのは……浮気しているのかも。雲の話を聞いて、不安になったからなのかもしれない。
□■□
昨日、ゲームの話で盛り上がった私たちは、すっかり打ち解けていた。幽霊と仲良しって、変なの。
今は、茂みに隠れて雲の様子をうかがっていた。ただただ、空をボーっと眺めている。
驚かすには絶好のチャンス。
茂みから飛び出そうとした。
……の、だが。
「うざいんだよ!お前なんかみたいな彼女、いらねぇから!」
聞き覚えのあるセリフと共に、目の前に彼が……蓮くんが、現れる。
え__。
言葉を発する前に、もう私は崖から突き落とされていた。
「真実を言うね。私の名前は出雲紗良……あなたの幽霊。警告しに来たんだけどね、ムダだった」
耳が、雲の言葉を拾う。
ああ、そういうことだったのか。
私は落ちていく。
視界が真っ赤に染まった。
□■□
三年たった今でも、私はあの崖にいる。誰にも見えないと分かっているのに。何にもならないと分かっているのに。
ずっと、誰かを待っている。
ずっと。
ずっと。
ずっと………。
【挨拶】
そういえば、こういう系書くのはじめてです。バッドエンド好きかも……!
↓ラムネくんなのだ様の、小説大会に出させていただいております。
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(っ.❛ ᴗ ❛.)っアカウント消しちゃったけどまだまだ応援中‼
妃舞‼………さん‼お互いがんばりましょう‼