空想小説「青鬼」 外伝 第2日 名前
氷河「…っは…っ!」
大体5時過ぎ、俺は妙な夢から目が覚めた。俺の友人がいたのは覚えているが…そこから先は朧気だ。
氷河「…お腹空いたな…アークアにでも行っておにぎりでも買おうかな…」
…そう思ったが、あそこは確か大体10時過ぎの開店のはず。大人しく24時間営業のコンビニのファイブナインにでも行こう。
氷河「紅鮭美味し〜♪」
俺は具の中で紅鮭が1番のお気に入りだ。ちなみに2番は炙りたらこ。大抵はこの2つの味で事足りる。それくらい自分にとって至福の味だ。
氷河「…さて…鱗葉市民公園に行こうかね。」
鱗葉市民公園は、俺が落ちた川のある公園。俺の実家からは遠いが、馴染みのある公園だ。
俺が青美村に飛ばされたのは9月の上旬頃。そこから30年…じゃなくて1ヶ月後の10月の朝は涼しい。頭も冴えてくる。たまには能力で空を飛んだり、空間移動を使わずに、歩きで行くのも悪くない。
氷河「さて…着いたわけだが…こんな時間には人なんかいないよな…」
辺りを見渡すが、人がちらほらいるだけでほとんど人はいない。そりゃ朝の5時過ぎだ。大抵はいない。そのまま公園に居続け、いつの間にか夕暮れになっていた。
氷河「…うん?何だあの小さな集まり…」
ふと、遠くを見ると、人の目につかなさそうな端っこに小さな集まりがある。俺はそこに行ってみる事にした。
男A「おぅおぅ、早く買っちゃいなよ〜!」
男B「金持ってんだろ〜?」
男C「今だけだぜ〜?これを逃したらもう買えねぇぞ〜!」
氷河「…押し売りか…被害者は誰だ…?」
近くまで来た俺は男の会話からそう思った。俺は被害者を隙間から探した。
??「あ、あの…俺、急いでるんですけど…」
氷河「…!!颯…兄…!?」
俺は被害者を見て驚愕する。そこにいたのは颯兄(はやにい)…水霏 颯輝(みずひ はやて)だった。その人は俺の幼稚園からの幼馴染…そして、俺の…想
男A「うん?なんだい、君は?」
男B「お前も金持ってんだろ〜?」
男C「いいものあるよ~!今だけ1万円で買えるよ〜!」
男達は俺を見ると、俺にもたかってきた。俺はこれを見て確信した。俺の見てた夢はこれだ。…にしても、俺はいつから予知夢なんてできるようになった…?美氷のカートリッジを付けてないのに…ってか、そもそも美氷のカートリッジにはそんな能力は無いはず…なんせか8割攻撃全振りだし…
男A「ほらほら、こっち〜!こっちで取引しよ〜ね〜!」
男の1人が俺と颯兄の腕を掴み、何処かへ連れ去ろうとする。俺はその瞬間、戦いの気が入った。
男A「ウガッ!?」
俺は手を振り払い、顔面を蹴り飛ばす。
氷河「気安く触んなよ、押し売り野郎が…」
男C「あぁ!?んだよこいつ!!やるぞ!!」
男B「金巻き上げんぞ!!」
氷河「…やるか。」
相手が乗り気になったのなら、後は簡単。いつもはナイフを使って戦うが、そんな事をしようもんなら銃刀法違反になる。殴りでも十分戦える。速攻で終わらせよう。
颯輝「え…えぇ…!?」
俺は1分も立たないうちに男3人を気絶させた。その光景を前に、颯兄は唖然とする。
氷河「…大丈夫か?」
俺は颯兄の元へ行って声をかける。
颯輝「え、あぁ、はい…」
???「颯輝ー!」
氷河「うん?」
向こうから誰かが走ってきた。敵ではなさそうだ。
颯輝「あ、母さん!」
氷河「え、母さん?君の?」
颯輝「うん!」
驚いたな。そう言えば、俺は颯兄の母さんには会った事がなかったな。お初にお目にかかるな。
颯輝母「大丈夫?あなたの友達から絡まれているっていうのを聞いて、すぐに来たのよ!」
颯輝「ごめん、母さん…心配かけて…」
颯輝母「いいの、無事なら何よりよ!ところで、その子は…?」
氷河「あ…たまたまここにいたんで、押し売り野郎をボコしてただけっす…」
俺はあまりこういう場面は好きじゃない。[感謝]という行為に対して、俺の中に嫌悪感があるんだ。
颯輝母「お礼がしたいわ!何か言ってみて!」
氷河「お、お礼…?いや別にそんな…」
俺がどもっていると、颯輝が口を開いた。
颯輝「なぁ君、お腹すいてない?」
氷河「…え?何で?」
唐突な話題だったから俺は理由を聞く事にした。
颯輝「だって君、さっきの男を倒した後、小声で『お腹すいたな…』って言ってたし。」
氷河「えっ…聞こえてたのかよ…」
…颯兄の奴、耳が良かったとはな。そういや、確かに朝以降ご飯食べてなかったな…
颯輝母「じゃあ、決まりね!あなたが望むならいいものを用意するわ!」
氷河「いや、あの…俺は…」
颯輝「俺からも頼む。母さんのお礼を受け取って貰えないかな?母さんは義理堅い人だからさ、恩は返さないと気が済まないんだよ。」
…俺は感謝には嫌悪感があるが…他人の頼みを断るのは…苦手だ。
氷河「…しゃーねぇな…じゃあ、お言葉に甘えて…」
結局、俺は受け入れるを選んだ。どうなる事か…
颯輝母「よかったらあなたの家族も連れてくる?」
氷河「いや家族とはもう6年以上会ってないです。」
…とっさについた嘘だった。30年は長すぎるから÷5して6年と言った。
颯輝母「え、えーと、君はどこで暮らしているのかな?」
氷河「外で寝てます。」
颯輝母「つ、つまり…家族の居ないホームレスって事??」
氷河「う、うーん、まぁ、そうなるんすかね…」
颯輝母「ま、まぁとりあえずお礼のご飯を用意しないとね。私はご飯を買ってくるから、颯輝は家へ案内してくれる?」
颯輝「分かった。君、こっちだよ。」
氷河「あ、あぁ…」
俺は颯兄についていった。一応家の場所は知ってるのだが…今は赤の他人。従っておこう。
颯輝母「ただいまー!」
家について数十分後、颯兄の母さんが帰ってきた。
颯輝「随分張り切ったね、母さん…」
颯兄の母さんの両手には袋が沢山あった。
氷河「な、何を買ったんですか?」
颯輝母「お寿司!」
氷河「はい!?え、お寿司!?」
颯輝母「あら、嬉しかった?」
氷河「いや、それ以前に!高いじゃないですか!お寿司って…」
颯輝母「いいの!颯輝も食べたいってこの前言ってたし!」
氷河「そ、そうなんですか…」
颯輝「さ、食べよう!」
氷河「え、あ…あ、あぁ…」
俺は3人でお寿司を食べ始めた。食べている最中、颯兄の母さんが口を開いた。
颯輝母「…ねぇ。1つの提案があるのだけれど…」
氷河「提案?」
颯輝母「私達の養子にならない?」
颯輝「えっ!?」
唐突にそんな事を言われ、俺は目を見開く。
氷河「養…子?」
颯輝母「えぇ。私があなたの母親になって、颯輝はあなたの兄になる。家族とはもう会ってないみたいだし、ホームレスとして暮らすよりかはマシな生活を送らせてあげられるわ。」
颯輝「いやいや、今日初めて会った子だよ?大丈夫なのか…?」
颯輝母「でもいい子じゃない!見ず知らずの颯輝を助けてくれたのよ?それに、颯輝も『弟が欲しい』って言ってたじゃない。」
氷河「そんな…俺は…ここにいる権利なんか…」
俺は遠慮がちに言った。俺はどのみち1週間後には帰らないといけない…それに、俺の言葉は殆どが嘘…虚言者となんか一緒には居たくないだろう。
颯輝母「権利はあるわよ!あなたも私の息子同様に育てるわ!」
颯輝「でも、母さんって仕事で忙しいんじゃ…」
颯輝母「これからは仕事の時間を少し減らして貴方達兄弟の世話をするから!」
颯輝「それはそれで大丈夫なのか…?」
颯輝母「まぁ、そんなだから、ね!だから君もここにいていいのよ!」
俺はもう、逃げる事は出来ない…そう思った俺はもう諦める事にした。
氷河「…わかりましたよ…ただ、俺が突然いなくなっても騒がないで下さいね。」
颯輝母「決まりね!じゃあ、君の名前を教えてくれる?」
いや、後半の言葉全スルーかよ…それより、名前だな…
氷河「俺の名前…せt…いや…」
俺は雪と言いかけて黙った。この名前じゃ嘘っぽくなる。かといって昔の名前も使えない…それに男っぽい名前…それなら…
涼夜「銀雪 涼夜(ぎんせつ りょうや)です!」
颯輝母「部屋は、颯輝の隣が空いてるから、そこを使うといいわ。今までの疲れをゆっくり取って行って。これからは家族としてよろしくね、涼夜君!」
颯輝「俺からもよろしくな!」
涼夜「…あぁ!」
俺は、この故郷の世界で、久々に笑った。
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