東方SCPの小説を供養3話〜4話
SCP-408(幻想蝶)達に呼ばれてついていくとコンドラキは倒れている少女を見つけた。大きなたんこぶができているからおそらく頭を強打したのだろう。
「敵かどうか確認したか?」
コンドラキが聞くと幻想蝶達は気まずそうに《シテ ナ イ》と文字を作った。
「ったく。おーい?お前さん大丈夫か?ツンツン」
コンドラキがそこら辺に落ちていた棒で突くと少女(リグル・ナイトバグ)は目を覚ました。
「うわっ!殺さない···で?」
「起きたか。すまんな。さっき戦闘してたから気が立ってんだ」
「こっちも気づかずごめんなさい。蛍の妖怪なのに····」
「お前妖怪なのか?(それにしては弱そうだな)」
「あぁ〜!あんた今私のこと『弱そう』って思ったな!?そうかもしれないけどさ·····これでも蟲を操る能力の持ち主だぞ!」
「蟲を操る能力?」
「そうそう!見てて!」
リグルはそう言うとクルッと一回転して何かの合図をした。すると····
「Oh.... これはすごいな」
蜻蛉や蜂、蝶等が綺麗な模様を空中に描いていた。感動したコンドラキは普段なら人前で絶対に出さない声を漏らした。
「へへっ、すごいでしょ!あんたの蝶も楽しそうにしてるね。今更だけどなんで蝶が普通の人間に懐いているの?しかも群れで」
「俺はこいつらを研究しているんだ。そんな感じで毎日過ごしてたら今に至るっていうわけだ。人と会話するよりこいつらとの会話の方が楽しい。もう言葉もいらないがな」
虫たちが作り出す美しい景色に見惚れながらコンドラキは答えた。
「ところでお前、名前は?」
「リグル・ナイトバグだよ。あんたは?」
「コンドラキ、ベンジャミン・コンドラキだ。リグルな。覚えておく」
(名前を覚えるのはこれで何人目だろうな···)
「ところであんたは外の世界から来たの?」
「外?」
「そう。ここは"幻想郷"っていって忘れられたものが来るんだよ」
「(忘れられたのか?俺)それはどういうことだ?」
「でも時々結界に引き込まれることがあるんだ。特に霊的な場所でね」
「なるほど」
心当たりが多すぎるため、コンドラキはすぐに納得した。
「外に戻るには博麗神社にいる霊夢か大妖怪の紫に頼むしかないけど·····紫はどこにいるか分からないから霊夢に頼むのが妥当だね。連れて行く?」
「いや、場所だけ教えてくれ」
「大丈夫?妖怪とかに襲われたら大変だよ?」
「そこら辺のやつに負けるほどやわじゃねぇよ」
「そっか。頼もしい仲間もいるもんね」
リグルは幻想蝶の方を見て答える。
「あぁ。おっ、そうだ。こいつら少しお前に託すよ。蛍の妖怪なら安心だ」
「えっ!いいの!?ありがとう!」
リグルは嬉しそうに蝶を10匹ほど受け取った。
「そいつらすぐ増えるから賑やかでいいぜ。良いもん見せてもらったお礼だ」
「うん!博麗神社はあの山の上だよ」
リグルが指さした方向を見ると、確かに山の頂上に続く大きな階段があった。
「じゃあありがとな。リグル」
「コンドラキも元気でね〜!」
別れの挨拶をして二人は別れた。
しかしコンドラキはこんなすぐに帰る男ではない。
コンドラキ優先順位は
武器を強化する
↓
クレフと来るときの下見
↓
脅威を明らかにする
↓
帰還
だ。
とりあえずコンドラキは人里の方向に進むことにした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
???「えっ。ここどこ?」
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
『普通の人間、心理学者の幻想入り』
「えっ。ここどこ?」
(またブライト博士のいたずらか?ちょっとたちが悪いぞ)
彼は ”サイモン・グラス“ SCP財団における首席心理学者だ。何故か起きたら山の中に倒れていた。とりあえずスマホで連絡をとろうとしたグラスだが
(スマホは圏外だし······どうしたものか······)
グラスが途方に暮れていると
「うぉぉぉぉ!!」ドドドド
グラスが振り返ると山の上の方で女の人が赤い何かの集団から必死の形相で逃げていた。
(・・・っ!)
それを見たグラスはクレフとコンドラキに追われているジェラルドと鉢合わせた時以来の恐怖を感じていた。なぜならその赤い何かの集団の"何か"とはSCP-939”数多の声“だった。
むろん、グラスはEuclidとsafeのオブジェクトを専門的に扱っている。つまり939のようなKeterクラスのオブジェクトとは接触したことは無い。だがグラスも主席学者、自分のクリアランスで閲覧することができるKeterクラスの報告書はほぼ読破している。939ももちろん知っていた。
「ん?」
ここでグラスはある違和感に気づいた。
逃 げ て い る 少 女 の 足 の 速 さ が 異 様 に 速 い の だ
違和感に気づくとグラスはすぐに逃げ出した。ろくでもないことが起きる、とグラスの直感が告げていた。しかし逃げているのに939の大群の足音は止まらず、逆に音は大きくなっていった。
「…………」
ろくでもないことが起きる。グラスの直感は当たっていた。939から逃げていた女、いや少女が急に方向転換をしてグラスのいる方向に走って・・・いや飛んでいる!飛んでグラスのいる方向に迫っている!
少女はグラスに追いつくと舌を出してグラスを煽ってからどっか行ってしまった。
「何あの人?う、嘘でしょ……」
グラスはこの世の終わりのような顔をして絶望した。もう939の大群とは30mを切っていた。
しかしここで諦めるようなグラスではない。
仮にも現役エージェント(博士との兼任)。少し下に見えた崖に向かって走り出し、飛び降りた。
939は体重が250kgもある巨体の持ち主だ。落下によるダメージは人間より大きい。グラスは右足を捻挫してしまったが、そんなことを気にする暇なんてない。後ろを振り返らずにまた走り出した。
ゴッゴゴヂヤッゴゴゴゴゴグャッ
轟音とともに939の潰れる音が聞こえたがグラスの耳には届いていなかった。数体の939が起き上がり、追って来ている。
「あっ・・・」
ここでグラスは気がついた。周囲の地形が谷のようになっていて、狭まっているということを。そして前には急な坂がそびえていて、洞窟が坂の下にあることを。
「・・・」
洞窟の入り口についた。939の群れとの距離、約50m
「・・・・・・」
洞窟の中に大穴があった。洞窟は奥には続いていなかった。939の群れとの距離、約20m
「・・・・・・」約15m
「・・・・・・」約5m
「・・・くっ!」
939が口を大きく開け、鋭利な牙がグラスを捉えようとした瞬間、グラスは大穴に飛び込んだ。
「ぐっ、あっ!」
グラスは少しの足場に足を乗せ、なんとか岩壁にしがみつくことが出来た。左足が使い物にならなくなったが、グラスは表情を変えることすら出来なくなっていた。
グラスを追ってきた939の群れはというと、大穴の淵が939の重みに耐えきれず崩れ、数匹が落下した。残った939たちは上からグラスの様子を伺っている。
(助かった·····)
とひとまず安堵し、表情が崩れたグラスだったが、脳裏に939の報告書の一文がよぎった。
〘SCP-939は、AMN-C227と指定されたエアロゾル状のクラスC忘却物質を微量に吐き出します〙
グラスの顔はナスのような色になり、勢いよく振り返った。が、939は姿を消していた。
まだ安心出来ない。グラスは傷ついた体に鞭を打って慎重に大穴を降りていった。
「姐さん!」
「ん?どうした」
「ち、地上の入り口に変なやつが3、4体落ちてきて、近寄ったやつが正気を失ってるんだ!」
「分かった!今行くぞ!」
姐さん と呼ばれた人物は、酒が入った杯を片手に豪快に部屋から飛び降りた。