【年末年始総選挙・小説部門】最後の年越し〜ある男のドキュメント〜
第1章 - ドキュメンタリーの始まり
12月31日午前8時。灰色の空の下、私は車を降り、雪で覆われた小さな町の中心街に足を踏み入れた。駅前の広場には誰もいない。年越しの日にしては異様に静まり返っていた。
この町は、50年以上も続く伝統的なイベント—“カウントダウン・フェスティバル”で知られていた。町の住民総出で行われる年越しの祭りは、地元の名物として観光客をも惹きつけてきた。しかし、今年は違う。突如として、イベントが中止になったのだ。
「この話には何か裏がある」
フリージャーナリストとして活動する私の元に、匿名の情報提供者から連絡が入ったのは先週のことだった。町の公式発表では「予算不足」が理由とされていたが、その言葉には真実が含まれていないという。私は事実を確かめるため、この小さな町へやってきた。
役場の玄関をくぐると、受付に座る中年女性が私を見上げた。
「すみません、今年のカウントダウン・フェスティバルについてお話を伺いたいのですが。」
彼女は一瞬躊躇したあと、困ったように眉を寄せた。
「あいにく、イベントの中止について詳しくお話しできる者は、いま外出中です。」
「それなら、フェスティバルについて詳しい方を紹介していただけませんか?」
女性は奥の机に座る男性を示した。
「佐藤課長なら少し時間があるかもしれません。」
佐藤課長は60代と思われる男性で、見るからに地元の古参だった。私が話を切り出すと、彼は深いため息をついた。
「確かに、突然の中止に驚いた住民も多いでしょう。ただ、予算が足りないのは事実です。観光客も減っていますし、維持費が増える一方で…」
しかし、私の目には、彼の言葉に隠された何かが見え隠れしているように思えた。
「それ以外に、中止の理由は考えられませんか?」
彼は一瞬だけ言葉を詰まらせたが、すぐに話題を逸らした。
「フェスティバルについて知りたければ、歴史を振り返るのもいいでしょう。地元の資料館に行けば、過去の記録が見られますよ。」
そう言われ、私は資料館に向かうことにした。
第2章 - フェスティバルの歴史
町立資料館は、駅から歩いて10分ほどの場所にあった。入口には大きなポスターが貼られている。そこには、「50周年記念—カウントダウン・フェスティバルの歩み」と書かれていた。
館内に入り、受付の若い女性に目的を伝えると、彼女は奥の部屋を案内してくれた。古い写真や新聞記事が展示されている小さな展示室だった。
壁には、1950年代の祭りの様子を写した白黒写真が並んでいる。手作りの提灯や太鼓を叩く人々の笑顔が写し出されていた。当時の町民たちが、戦後の復興を祝うために始めたものだという。
「祭りは町の絆そのものだった」と、資料館の館長である木村さんは語った。
「初めは本当に小さな集まりでしたが、徐々に大きなイベントになり、町の象徴になりました。」
しかし、木村さんは話の途中で口を閉ざし、少し困ったような表情を浮かべた。
「でも、最近は…何かがおかしいんです。おそらく、もっと詳しい話は地元の人々から聞くべきでしょう。」
木村さんの言葉が暗示するものに、私はさらに興味をそそられた。次に向かうべきは、この祭りを直接経験してきた住民たちだった。
第3章 - 住民の証言
町の古びた喫茶店に入ると、カウンターに腰掛けていた年配の女性が私に声をかけてきた。
「あなた、記者さんかい?祭りのことを調べてるって聞いたよ。」
彼女の名は田中和子。長年、祭りの運営に関わってきた人物だ。彼女はコーヒーカップを手にしながら語り始めた。
「この祭りはね、町のために始まったんだけど、ここ数年、変な人たちが関わり始めたのよ。東京の企業だとか、新しいスポンサーだとかね。」
「変な人たち?」
「そう。彼らは祭りを商業化しようとしてた。地元の文化なんてどうでもいいみたいにね。挙句の果てに、古いスタッフを追い出して、自分たちのやり方を押し付けてきたの。」
田中さんの言葉には怒りと悲しみが混ざっていた。
「そして、その結果がこれよ。祭りは中止、町の人たちは分断されてしまった。」
彼女の話から、私は中止の裏に隠された力関係や利害の衝突を感じ取った。
第4章 - 真実の断片
さらに調査を進める中で、祭りの中止には地元の土地開発計画が絡んでいることが明らかになった。祭り会場の土地が再開発の対象となり、運営に必要な資金や協力が削られていたのだ。
ある町議会議員が匿名で語った内容によれば、「祭りの中止は、土地開発をスムーズに進めるための布石だった」という。
この発言が意味するもの—それは、町の伝統が利益のために切り捨てられたという現実だった。
最終章 - 再生への希望
12月31日午後11時55分。町の広場に戻ると、そこにはわずかだが住民たちが集まっていた。中止になったはずのカウントダウンを、町の若者たちが手作りの小さなイベントとして復活させていたのだ。
「これは私たちの町の絆です。どんなことがあっても、この伝統を守り続けます。」
若者代表がそう語り、集まった人々は手を取り合ってカウントダウンを始めた。
零時の鐘が鳴り響き、新しい年が訪れた。その瞬間、私は確信した。この町の魂は、どんな困難にも折れることはないのだと。
このフェスティバルの真実を伝えることが、私にできる唯一の貢献だと感じた私は、手帳を閉じた。
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