【春総選挙】「さよなら、春をくれた君へ」

7 2025/04/11 07:18

登場人物:悠人・浅海 紬

【あらすじ】

春になると、彼女の声が風に混じって聞こえる気がする――。

高校2年の悠人は、春が嫌いだった。

桜を見るたびに、あの子の笑顔を思い出してしまうから。

1年前の春、転校生として現れた少女・紬。

明るくて、少し天然で、でも芯が強くて。

悠人は気づいたら彼女に惹かれていた。

だが、紬は「春の終わりには、いなくなる」と最初から言っていた。

その意味を知ったのは、春が終わった、ある雨の日だった。

第1章 ──出会いは、春の風の中に。

春のはじまり。

校舎の窓を叩く風が、どこかくすぐったくて、少しだけ寂しい。

「転校生を紹介します。名前は――」

担任の声に混じって、教室のドアが静かに開いた。

「…浅海 紬(あさみ つむぎ)です。よろしくお願いしますっ」

ぱっと明るく笑った彼女に、教室中の空気がふわっと和らいだ。

前髪の奥にきらきらと光る目、頬にえくぼ。

それから、少し癖のあるロングヘアが春風に揺れていた。

「じゃあ、浅海は――悠人の隣な」

え。

俺の隣――?

「よろしくねっ、悠人くん」

「……あ、ああ」

その瞬間から、俺の「嫌いな春」が、ほんの少しだけ、変わった。

第2章 ──春は、嘘つき

「悠人くんって、いつも窓の外見てるよね」

そんなこと言ったのは、授業中だった。

「……気のせいじゃね?」

「ううん。なんか、置いてかれてるみたいな顔してた」

俺は黙って教科書に目を落とした。けど、彼女の声は止まらなかった。

「なんで春、嫌いなの?」

図星すぎて、返事ができなかった。

理由は、自分でもはっきりとはわからない。

でも、春になると、心の中にぽっかり穴があく。

新しいクラス、新しい顔ぶれ、変わっていく風景。

なにかが始まるたび、なにかが終わっていく。

それが、こわかった。

「……春って、全部変えちゃうじゃん」

ぼそっと言った俺に、紬はにっこり笑った。

「でも、変わるからこそ、いいんだよ」

そのときは、その言葉の意味なんて、まだ全然わかってなかった。

第3章 ──好きって、怖いね

桜がほころび始めた頃、紬は文芸部に顔を出すようになった。

「えっ、悠人くん、こんな詩書くの!? やばっ…エモいっ!」

「エモいって……」

「いやマジで!これとか、春風の描写がすごい。私、こういうの書けないから尊敬!」

嬉しいような、くすぐったいような。

気づけば、紬と過ごす時間がどんどん増えていった。

放課後の屋上。ベンチに座って、ふたりでジュースを飲みながら夕陽を見る日々。

バカみたいに笑い合ったあと、紬がぽつりと言った。

「ねえ、もしも、春が終わったら、私のこと――」

「ん?」

「……ううん、なんでもない」

そうやって、彼女はいつも“大事なところ”を飲み込んだ。

その目が、ふっと遠くなるときがあった。

まるで、どこか遠いところを見ているみたいに。

第4章 ──約束

ある日、俺は言った。

「今年の春、一緒に桜見に行こうぜ」

「えっ、ホントに!? 行く行くっ!」

あの笑顔は、今も目に焼き付いてる。

まるで、世界中の光を集めたみたいな、そんな笑顔だった。

でもその日の帰り道、俺は偶然、保健室の前で紬の背中を見た。

医者らしき大人と話す、彼女の横顔。

ただ事じゃない雰囲気。でも俺は、そのとき何も聞けなかった。

胸の奥がざわざわしていた。

第5章 ──さよなら、春の匂い

桜が満開になった日。俺と紬は、あの丘の上の公園で待ち合わせた。

「遅かったじゃん〜、待ちくたびれたよっ」

「…ごめん、寝坊した」

「ふふ、うそだ」

彼女は俺の顔を見て、ちょっと切なそうに笑った。

「……今日、最後なんだ」

「……え?」

「私、明日から入院するの。……本当は、春が終わるまでしか、学校にいられないって決まってた」

信じられなかった。

何も知らなかった。

彼女が、そんなものを抱えていたなんて。

「でも、楽しかった。悠人くんがいてくれて、本当に嬉しかった」

風が吹いた。

桜の花びらが、舞い上がった。

「好きだったよ。最初からずっと。……春に出会えて、よかった」

泣きそうな顔で笑う紬を、俺は抱きしめた。

何も言えなかった。何もできなかった。

春の匂いが、優しくて、残酷だった。

最終章 ──春がまた来る日

それから、紬は一度も学校に戻ってこなかった。

クラスでは、自然と彼女の名前が話題に出なくなった。

だけど、俺は毎年、桜の咲く日にあの丘に行く。

今年も、あのベンチに座って、風に吹かれる。

ポケットの中にある、あの時渡された手紙。

最後のページに、こう書いてあった。

「私は、春が大好きだった。

だって、悠人くんに会えたから。

これからも、春が来るたびに、私を思い出してくれたら嬉しいな。

――さよなら。春をくれた君へ」

終わりに

春って、何かを連れてきて、何かを連れていく。

でも、だからこそ、その一瞬が、こんなにも愛おしいんだ。

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その他2025/04/11 07:18:10 [通報] [非表示] フォローする
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めちゃくちゃ長いんですけど、頑張ったので、読んでもらえると嬉しいです!!


メッチャ感動的で儚くて美しい話だった

春って全部変えてしまうってそうだよね、凄い!!投票したよ👍


>>2
ですよね!!

ありがとうございます!!


>>3
だね!いえいえ!!ちな俺は春になっても変わらないw


>>4
www


>>5
いつも通りなんよw


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