小説「思い出は、ずっと。」
「眠いなぁ」
今日の僕には窓から差す朝日は眩しく見えなかった。
僕は小学6年生のアキラ。先日、幼馴染みで大親友のケントがおじいちゃんとおばあちゃんが病気になってしまい、おじいちゃんとおばあちゃんの家の近くに引越すことになって、昨日、遠い遠い街へ引っ越してしまったのだった。
あまり疲れが取れず、まだ夜中のような気分だった。少しずつベッドから起き上がり、リビングへ向かった。
「おはよう…」
元気のないアキラの声がリビングに響いた。
「おはよう、やっぱりアキラ元気ないわね。」
お母さんが悲しげな声で言った。
お母さんもケントのお母さんととっても仲が良く、遊んでいる時も楽しそうに2人で話していた。
食欲はなく、あまり朝ごはんを食べずに
「行ってきます…」
と言って家を出て行った。
外は暑くて太陽がギラギラと光っている。今は夏だが、いつも暑さはあまり感じない。だが、今日はいつもより何倍も暑かった。
朝の登校班にはもうケントがいない。
なにか物足りない通学路をうつむき、黙々と歩いていったのだった。
学校の色がいつもと違う。少し色が暗い。空を見上げてもちっとも明るくなんてなかった。僕はいつもの通りに教室へ入って行った。でもやっぱり何かが違う。とても寂しい感じがした。
授業中は中々集中できず、内容も頭に入ってこなかった。
給食の時間も食欲がなく、たくさん残してしまった。
いつもは楽しくてあっという間な学校も、とても長く、ちっとも楽しくなかった。
そうしてやっと学校が終わり、下校の時間になった。
学校の近くに青々しく生い茂った木、校庭に咲く花々、通学路の橋の下にある川、大きく広がる青空。いつもは輝いて見えていたものは、全て色がくすん見えた。
家の前、隣のケントの家を見つめて突っ立っていた。もう、ケントがいないと考えるだけで涙が溢れそうになる。アキラはそれを必死で堪え、家の中へ入った。
「ただいま」も言わずに自分の部屋にこもった。もう涙が抑えられなかった。一人で座り込んで泣いていると、お母さんが部屋に入ってきた。
「アキラ、見て。」
お母さんなスマホを差し出して来た。そのスマホには、ケントからのメッセージが映されていた。
「アキラへ。
急な引っ越しでごめんね。僕もこんなことになるとは思ってなかったよ。
今まで、ずっと一緒でいられると思っていた。いつまでも二人で楽しく遊べると思っていた。引っ越しなんてしないと思っていた。だけど、そうじゃなかった。ずっと一緒なんて、難しい。けど、離れていても気持ちが繋がっているのが、本当の友達なんだ。引っ越してしまったから、友達じゃない。ってわけではないんだ。今日、お母さんに言われたんだ。
「またきっと、アキラ君に会えるはず。」
この言葉が、少し僕を元気付けてくれた。
この世からいなくなってしまったわけじゃない。この世にいる。だから、いつしか、会えると僕は思っているよ。
思い出はいつになっても消えない。心の中にずっと残っているんだよ。これからも、お互い、頑張ろうね。
ケントより。」
途端に涙がブワッと溢れて来た。きっと、ケントも辛い気持ちだ。けど、僕らなら、それを乗り越えていけるはすだ。ケントの言う通り、この世からいなくなった訳じゃないんだ。いつしか、会えるだろう。僕は光が見えて来た気がする。僕はケントとの写真の前に座り込み、写真を見つめて呟いた。
「きっと、会えるよね。」
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文は私、絵は歌輪根 萌菜さんに描いてもらいました!皆さんはこのような経験はありますか?私はないです。