▶︎星町ねね:ストーリー01 固有魔法

6 2025/05/20 20:05

 1年生の頃も通っていたのに、その部屋への道順は春休みの間に頭からすっぽり抜けてしまっていた。

「地図、持ってきたらよかったかなぁ…うぅ、私このまま迷子になって…この広い学園で迷子になって…のどが渇いて…おなかが空いて…」

 俯き、ぷるぷると震えだす。

「からだにお水と栄養が足りなくなって…あたまがぼんやりしてきて…だんだん考えることも出来なくなって…うわぁぁぁあん!!!」

 視界がにじんで、ひぐ、ひぐっと泣き声をのむ音がしーんとした廊下でやけに大きく聞こえて、かたくて冷たいだいりせきの壁にもたれてへなへなずり落ちる。

「やだよぉ…誰か来てよ…一人やだよ…」

 そんな時、上の方から靴の音が聞こえた。

 吹き抜けを通ってる階段の中の…右から…2番目。降りてきてる。制服のブーツの音とは違うから、多分先生だ!

「あ、あの!先生!すみません、道がわからなくて…」

 靴とズボンが見えて、すぐに体も顔も全部見えた。知らない先生だ。

「私、ペペロン先生のおへやに…」

 知らない先生はキョロキョロと顔を動かしていて、全然こっちを見てくれない。

「あの!ここです‼︎私、迷子になっちゃ…」

 ドドドドドド。

 知らない先生が立っている踊り場の下の階段から、とんでもない音がした。

「Capere‼︎」

 知らない先生は見えないなにかに両腕と両足を縛られて、バランスをくずして倒れてしまった。

 真っ白なあたまが、必要なことを全部忘れてしまったくせに何をすれば良いのかぐるぐる探している。

「…せっ、先生になにを…!」

 ポケットから杖を抜いて、スピードをゆるめて階段から上がってくる誰かに向ける。

 ペペロン先生だった。

「おい、今ここに誰かいたか?いやいたろ。何つった。まさか長髪にリボンをつけてる小さい女子生徒に心当たりはねぇだろうな、あったら殺すぞ。」

 次の生徒…星町が来ないと思って探しに来てみれば、学園に侵入者。速攻で捕まえたので校長に連絡しようと思ったが、まだ一人いる。

 見えないが、確実に一人いる。

「…ひっ…あの…えっと…」

 おい待て。この声は…

「星町か?」

「は、はい…」

「…良かった…。怖がらせてごめんな、こいつは先生じゃない。侵入者…悪い人なんだ。」

「えっ、学校に悪い人が…?」

「あぁ…先生もさっきはついびっくりして口が悪くなっちまったが、貴様は殺すとか言っちゃダメだぞ。」

「は、はい!」

 あの無能校長は何をやってるんだという悪態は心の中に留める。

「…ところで、透明化なんていつ習ったんだ?かなりすごい事だが、そろそろ姿を見せてくれ。話しにくい。」

 星町の声色を真似ただけのナニカだった時のために、杖を握る手には力を込めてある。

「…透明化?姿?」

「え?」

「…あれ、あれ。」

「どうした」

「…か、体が!消えて…‼︎」

「………。」

「あの、先生、これって」

「…おめでとう星町、固有魔法発現のようだ。」

 その後身体の状態異常を戻す薬を魔法薬の先生からもらいがてら無能校長の部屋にカチ込むと、侵入者は防犯訓練だったことが判明した。確かに今朝職員室で言われた。頭を抱えた。

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