夏の迷い子は不思議な出来事にあう
「⋯あれ、こんな夏の日にどうしたのかな。」
「⋯迷子になった?」
「へぇ⋯親御さんとはぐれてしまったのか。」
「それで宛もなく歩き続けて俺を見つけたのかい。」
「それは災難だったね。」
「んー⋯ここ、外は危ないからなぁ。」
「なんでって?」
「⋯人を喰う化物が、うようよしてるからだよ」
「⋯おっと、そんなに怖がらないでよ。」
「からかっただけさ。」
「⋯でもまぁ、実際人を喰う化物がいるのは事実だからなぁ。」
「俺を見つけて君は運がいいね。」
「俺を見つけなかったら⋯もしかしたら化物に喰われてたかも」
「⋯いや、こういう上からなのはよろしくないね。」
「今のは忘れて。」
「ん?早く家に帰りたい?」
「まぁ、確かになぁ⋯」
「早く帰りたいよなぁ⋯」
「でも、ここから街までは相当時間がかかる。」
「君今すっごく疲れて疲労困憊でしょ?」
「そんな状態だったらいざ化け物に襲われた時逃げ切れないよ。」
「⋯野宿の知識はない?」
「そっかぁ⋯」
「⋯じゃあ⋯」
「⋯あっはっは、そんな顔しないでよ。」
「流石の俺でも理由なく人を見殺しにする非情な奴じゃあないよ。」
「行く宛がないなら宿においでよ。」
「此処にある唯一のお宿さ。」
「俺、そこへの近道知ってるよ。」
「連れてこっか?」
「⋯どこにあるの、って?」
「意外とすぐ近くにあるもんだよ?」
「君が視えてないだけで。」
「よーし、じゃあ目を瞑ってて。」
「俺が目ぇ開けていいって言うまで、開けちゃいけないよ。」
「さぁ、俺が手を引いてあげる。」
「⋯⋯⋯」
「…よーし、目ぇ開けていいよ。」
「ほら、もう着いた!」
「どうだ、驚いたか?」
「⋯何?ゲームキャラみたい、って?」
「あっはっは!鋭いねぇ。」
「まぁ、『ほら、もう着いた』も『どうだ、驚いたか』もとあるキャラのセリフだからなぁ。」
「さ、ここでしばらく休んでおいでよ。」
「ゆっくり休んだら、君の街に帰ろうじゃないか。」
「⋯俺の名前?」
「ふふ⋯さーね。」
「知ったとて、俺の事なんてすぐ忘れてしまうさ。」
「全てが夢のように、ね」
「さぁ、玄関の戸をくぐって。」
「…何?眠たいの?」
「あはは、いっぱい歩いたから疲れちゃったんだろうね。」
「…しょうがないなぁ。俺が寝床に運んだげるよ。」
「…君はよく頑張ったね。よくここを見つけられたものだよ。」
「俺から君に1つ、贈り物をしようか。」
「ん?今は見なくていいさ。」
「君の手に握らせとくね。」
「さ、ゆっくり寝なよ。」
「次に目が覚めれば、きっと、」
⋯迷い子が次に目覚めた所は、自室の寝床の上だったという。
その子が経験した不思議な出来事は、何1つ覚えていなかった。
…ただ、違うことが1つ。
手の中には、小さな青い桜のキーホルダーが入っていた。
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