お菓子の魔女とカボチャのランタン
お菓子の魔女とカボチャのランタン
その夜、空は墨を流したように真っ黒で、満月は薄いヴェールを被ったようにぼんやりと光っていた。冷たい風が街路樹の枯葉をカサカサと鳴らし、通りを行き交う人々は皆、笑ったり、叫んだり、思い思いの衣装に身を包んでいた。
小学四年生のユウは、自分で作った少し歪なカボチャのランタンを抱え、緊張しながらも興奮していた。衣装は、古びた毛布で作った地味な吸血鬼だ。友達のケンやミカはもっと派手なスーパーヒーローやプリンセスだったが、ユウの家は裕福じゃなかったから、文句は言わなかった。
「トリック・オア・トリート!」
数軒の家を回った後、ユウたちは通りの一番奥、いつも誰も住んでいないはずの古びた洋館の前に立っていた。鉄製の門は錆び、庭の木々は枝を伸ばし、まるでユウたちを拒んでいるかのようだ。
「ねえ、今年はあそこ行ってみない?」ケンが囁いた。
「え、あそこって、あの魔女の館って言われてる家?」ミカが震える声で尋ねた。
「大丈夫だよ。誰も住んでないんだから、ちょっと見てみるだけさ」
ユウは少し怖かったが、好奇心には勝てなかった。三人は軋む門をそっと開け、草の生い茂った小道を進んだ。洋館の玄関は、他の家とは違い、何の飾り付けもされていない。けれど、かすかに甘い香りが漂っていた。キャラメルと、焼きたてのクッキーのような、たまらない匂い。
ケンが勢いよくドアをノックした。
コン、コン、コン。
重い音は、館の中に吸い込まれていった。
「ほら、やっぱり誰もいないじゃん」ケンが残念そうに言った、その時だった。
ギィィィ、とドアがゆっくりと開いた。
そこに立っていたのは、ユウたちがこれまで見たどんな仮装よりも、本物めいた魔女だった。背は低く、顔には深い皺が刻まれ、帽子からは一本の白髪が飛び出している。しかし、その手には銀色のトレイがあり、その上には見たこともないほど美しく、輝くようなお菓子が山積みになっていた。
「あら、いらっしゃい、ちいさな旅人さん」魔女は、ガラガラとした、しかし妙に優しい声で言った。「今宵はカボチャの魔力が満ちる夜。お菓子はいかが?」
ケンとミカは怖がって後ずさりしたが、ユウはなぜか動けなかった。そのお菓子の誘惑もさることながら、魔女の目の奥に、どこか寂しそうな光を見た気がしたのだ。
「トリック・オア・トリート…」ユウはか細い声で言った。
魔女は微笑んだ。その顔には、邪悪さよりも、むしろ長年の孤独のようなものが滲んでいた。
「あなたは…そのランタン。自分で作ったのね」
魔女はユウが抱える不格好なカボチャのランタンを指差した。「そのランタンの光は、とても強いわ。他の誰のランタンよりもね」
魔女はトレイから、ひときわ大きく、琥珀色に輝くキャンディを一つ取ると、ユウの手のひらに乗せた。
「それは、特別なお菓子よ。勇気の味がするわ。さあ、行きなさい。夜はまだ始まったばかり」
ユウが「ありがとう」と言って頭を下げ、後ろを振り返ると、ケンとミカはもう遠くの門の近くに立っていた。ユウは急いで二人の元へ駆け寄り、三人で夢中で洋館から逃げ出した。
通りに戻ると、喧騒はさらに高まっていた。ケンとミカは興奮した様子で魔女の話をしたが、ユウはただ静かに、握りしめた琥珀色のキャンディを見ていた。それは熱を持ったように温かく、ランタンの灯りのように優しく輝いていた。
ユウは立ち止まり、洋館の方向を見た。ドアはもう固く閉ざされ、窓のどこにも光はなかった。まるで、最初から誰もいなかったかのように。
ユウはキャンディを口に入れた。
一瞬、口の中に広がったのは、カボチャの甘く温かい味、キャラメルの香ばしさ、そして…どこか懐かしい、安心するような味だった。まるで、遠い昔、優しい誰かが焼いてくれたお菓子のよう。
次のハロウィンの夜。
ユウは、もっと上手に作ったカボチャのランタンを手に、再びあの洋館を訪れた。しかし、洋館は以前にも増して静まり返り、門も固く閉ざされていた。何度ノックしても、誰も出てこない。
ユウはがっかりしたが、去る前に、そっと一つ、自分で焼いたクッキーを門の隙間に置いた。
「来年、また来ますね」
ユウの持っていたカボチャのランタンの光が、風に揺れて、一瞬だけ、洋館の窓を照らした。その窓の向こうで、誰かが微笑んだような気がした。もちろん、気のせいかもしれない。
でも、ユウは信じている。あの魔女は、カボチャのランタンが輝く、特別な夜だけ、お菓子を配りに戻ってくるのだと。そして、あの琥珀色のキャンディの味が、ユウにほんの少しの勇気を与えてくれたことも。
ユウは再び友達の元へ駆け出し、「トリック・オア・トリート!」と叫んだ。その声は、他の誰よりも、ずっと明るく響いていた。
by蓮 疲れた、寝る
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