【前編】プレゼントは恋愛調査
12月24日、放課後。ここ桜花川高校では例年、学校側の“配慮”によって、この数日間は授業が午前で終わり、“配慮”された人々は、皆パートナーとつるんでどこかへ出かける——そんな風習があるのだ。
しかし、誰もがそうなるわけではない。
桜花川高校の南、生物部部室では、“配慮”されなかった2人の生徒が時間を潰していた。
「ねえ、おかしいと思わない?」
そう話し出したのは八木沢 弥佳(やぎさわ やよい)。
かなり度の入った丸眼鏡と茶髪のロングヘアが特徴で、読書が趣味。絵に描いたような文学少女だ。クラスの男子内でも、かなりの美人と噂になっている…と思う。ただ本人の性格もあり、人との交流は少ない。
学校側の“配慮”の意を汲み取り、冬休みの課題を進めていた俺、岸川 洸(きしかわ こう)は、作業を中断して顔を上げた。
「おかしい?」
八木沢はコクリと頷く。いつになく真剣な目つき。
「いくらクリスマスといえ、今日はただの平日よ? 馬鹿騒ぎする理由にはならないわ。」
そう言って差し出されたスマホの画面には、桜花川’sのタイムラインが表示されていた。桜花川’sとは桜花川高生徒のためのSNSのことだ。地元ではそれなりの進学校だからか、独自の取り組みとして公式に存在している。
肝心のタイムラインをよく見てみると……なるほど、カップルの投稿が大量に流れてくる。
「別にいいと思うけど、楽しそうだし。」
「こんなの全部承認欲求よ。承認を得たいがために、同業者どうしで互いに偽りの褒め言葉を並べるの。それに——」
八木沢はボソボソと言葉を連ねる。ボリュームが低下したのは、特に付き合あってもらうつもりはないからだろう。
八木沢の愚痴が始まって2分を超えたところ、2人のスマホが奏でた通知音によって、愚痴は終わりを迎えた。
「依頼かな?」
——依頼。そう、俺たちは生物部だが、ちょっとした困り事なんかの依頼を桜花川’sで募っている。部活動だけではどうしても暇なのだ。
桜花川’sを立ち上げ、ダイレクトメッセージを確認する。
「ええと、『Rin_07』ってアカウントからだね。」
メッセージ内容は、依頼があるから部室に行ってもいいか、というもの。大抵の人はDMだけで交渉を済ませるが、直接顔を合わせた方が協力は円滑なものになると踏んだのだろう。
ふと八木沢の方を見ると、何やら怪訝な顔をしている。
「どうした?」
「いえ、なんというかこの人、今この時期に私たちに依頼するような暇あるのかしら? つぶやきを見るに、“持ち”よ。」
“持ち”というのは、“彼氏持ち”のことだろう。確かに、アイコンやら、プロフィールやら、スクールカーストトップ層のオーラが漂っている。
「ユーザーネームに誕生日の月を入れているのを見ると、パスワードも誕生日にしていそうで心配ね。」
本当この人、思ったこと何でも言うんだな。多分してないと思うし。俺はとりあえず了承の返事をすると、すぐに既読がついた。
その時、一瞬の間もなく、扉の音——。俺と八木沢が驚いて扉に目をやると、1人の女子生徒が生物部室に入ってきた。黒髪のロングヘアがよく似合うその女子生徒の大きな丸い瞳には、不安げな心情が浮かんでいた。
「あ、ここって、生物部の部室で合ってる…?」
女子生徒は俺たちを見つけると、部室を見回しながらそう聞いた。やはり依頼者のようだ。というか、言われてみるとこの部室、生物部っぽいものが少ない。
「あー、そうです。とりあえず座ってください。」
「失礼しまーす…」
女子生徒改め依頼者“Rin_07”は、軽く頭を下げて俺の向かいの八木沢の隣に座り、会釈をした。
依頼者は、八木沢のぎこちない挨拶(顎を引いただけ)を確認すると、俺に向き直る。
「えーと、改めまして、さっきDMで連絡した、塩谷 凛(しおや りん)。1年です。
「1年の岸川 洸です。」
「同じく1年の八木沢 弥佳です。」
軽い自己紹介も終わると、俺はとりあえず棚から来客用のコップとポッドを取り出した。お茶は…多分温かいはず。特に管理してないけど。
「それで、今日はなんのご用件でここに?」
「そうですね」
塩谷さんは俺からコップを受け取ると、一口飲んで机にコトンと置いた。顔色は依然変わらないのでセーフだろう。
「それが、私の彼氏の——あ、富山 絆希(とやま きずき)って言うんだけど、その人の話で。」
視界の端で、八木沢がピクリと動いたのは気のせいではないだろう。
「はぁ、なるほど」
「はい、最近なんか怪しくて… 2人で出かけることが減ったというか、富山くんから『用事がある』って言われることが増えた気がして」
それは、富山くんが冷め気味になっているのでは…と判断するのは早計だろう。
「浮気、かもって…」
当事者が一番早計だった。
ふと、口を開いた八木沢と目が合う…が、すぐに口を閉じた。さては、肯定しようとしたな。
「でもそんなに気になるのなら、何の用事があるのか、いっそかれ、か、彼氏さんに聞いてみればいいんじゃないかしら?」
一呼吸おいて、八木沢が言う。普段反射で喋るせいか、置いた割にボロボロだ。
提案に、塩谷さんは力無く笑う。
「普段から、そういうのにはお互い踏み込んでいないの。過干渉は良くないかな、って」
「過干渉って、それくらいなら大丈夫よ。不安なら不安と伝えた方がお互いのためじゃない?」
「うーん……」
塩谷さんは顎に手を当てて俯くようにして考え込む。見兼ねた八木沢が、さらなる提案を投げかける。
「そうね、じゃあ私たちで調査に行くのはどう?」
視線からして、私たち、というのは俺も含めそうだ。
もし浮気だったらどうすればいいんだ、とは思うが、客観的な視点で調査するのも大事だろう。
塩谷さんはしばらく考えた後、おもむろに頷いた。
「そうね、お願いします。私もこれから塾だし…」
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