【中編】プレゼントは恋愛調査

4 2025/12/26 00:39

それから、塩谷さんと調査について話し合った。ちなみに彼氏さんの名前は富山 絆希(とやま きずき)というらしい。八木沢の要望で開示された。

 一つ目、調査が行われるのは今日の夕方ということ。必要であれば次の日の昼過ぎも行う。

 二つ目、塩谷さんが彼の友人と協力関係を結んで、富山くんの場所を連絡してくれるということ。

 話し合いで決めたのは以上の二つだ。

今日の行き先は南久良坂。桜花川から2駅の場所で、大型モールなどもできて栄えている。まさに、デートにはもってこいな場所である。

「でも、よりによって南久良坂だなんてね。」

南久良坂へ向かう電車に乗り込むと、八木沢がふと話し出す。深く被ったフードから、意地悪い笑みが覗いた。

「浮気に違いないわね。」

「いや、決めつけるのはよくないよ。せめて、見てからじゃないと。」

「いつでも正しいのは、女の勘よ。」

 八木沢はドヤ顔を見せる。勘なのに。

「あ、そういえば私たち、どうやって富山絆希を探せばいいの? 見たことないわよね?」

 確かに、盲点だった。すぐにスマホを取り出すと、それを見越したように塩谷さんから新たな通知。

『富山くんの友達に聞いたんだけど、富山くんから今日着ていく服の写真が送られて来たんだって。』

続いて送られた写真には、高そうな黒いコートを着た背丈の高い男子の姿があった。顔ももちろんだが、衣服だけでもイケメンと確信するには充分だ。

 すると、塩谷さんから更なるメッセージが送られる。

『それで、その友達が私に言ってきたの。「随分気合い入れた格好だったから、塩谷とのデートの服装かと思ってた」って。』

 八木沢と顔を見合わせる。

「どうでもいいわ。」

 いかにもめんどくさそうな顔だ。正直なところ、俺もなんて返せばいいかわからない。

 とりあえず、『絶対突き止めます』とだけ返信したが、すぐに既読がついたので、怖くなってアプリを閉じた。

 この人、これから塾だって言ってなかったっけ。

 

**

 

 南久良坂に着いた俺たちは、駅前広場のベンチに座り、駅の出口をじっと見つめた。今のところ、富山くんらしき人物はいない。

 広場に設置された大きなクリスマスツリーの放つ眩い光に目を細めつつ、ベンチの背もたれによりかかった。

「今更だけれど、この人の多さの中たった1人を探し出すって、とっても非効率だと思わない?」

「俺もそう思う。」

「大体、カップル内のいざこざをウチに持ってくるのも悪……どうかと思うわ。」

フードから覗く目は、ツリーの光を受けてギラリと光る。

「でも依頼を受けた方も悪いとは思うけどね。」

なんという責任転嫁だろうか。そしてついに「悪い」って言った。

「——うわっ!」

 

 八木沢から逃れるように捜索を再開すると、赤い手袋に包まれた八木沢の両手が、俺の襟首を勢いよく掴み、顔まで引き寄せる。

「待って! 暴力は…」

「違うわよ、あれ。」

 小声で話す八木沢の指差す方は、俺の左隣の席。見ると、黒いコートを着た好青年が1人で座っている。まるで、誰かを待つように。

「いたわ、富山絆希。調査開始よ——」

「了解。」

 調査開始…といっても、まだできることはない。少なくとも、これが待ち合わせなのか休憩なのかを判断する必要がある。念の為、ベンチを2つほど空けた場所に移動して観察を続けた。

 しばらくして、富山くんの前に、1人の女性が歩み寄ってきた。

「お待たせ。」

 栗色のショートヘアを揺らすその女性には見覚えがあった。

「遠野 優佳里…」

 八木沢が怪訝な顔で俺を覗き込む。

 

「それ、あの人のこと? 知り合いなの?」

「まさか、同じクラスなだけ。」

「クラスメイトなら、お互いに顔と名前くらい分かるでしょ…?」

 八木沢には分からないだろうが、クラスメイトでも顔と名前を知らない…もとい、顔と名前を知られていない場合もあるのだ。

「必ずしもそうとは限らないんだよ——ってほら、行っちゃうよ。」

 富山くんが席を立ち、二人の足は、今にも商業施設に向かおうとしていた。

慌てて、二人の後を尾けた。

**

翌日、俺たちは再び部室に集まっていた。今日はこれから、塩谷さんが調査結果を聞きに来ることになっている。

「どうするの? 結局。そのまま報告?」

「そのままってどういうこと?」

 八木沢は少し声のトーンを落とす。

「ほら、その、昨日はもう酷かったじゃない? あのまま報告されるのは、依頼者にとってキツイんじゃないかしら?」

「心配してるって認識でいい?」

「違うわ。」

 違った。八木沢は言葉を選ぶように話し出す。

「ただ、私が嫌なだけ……いくらカップルだって、信頼関係の一種よ。その崩壊を口にするなんてごめんだわ。」

 つまり、心配してるということだろう。八木沢のことだから、カップルは別れるべき、なんて思想だと思っていたが、なんやかんや心配はしているようだ。

 あの後、俺たちは二人の後を尾けた。二人が巡った場所は、化粧品店、洋服店、カフェ…どう見てもただのデートにしか見えなかった。

 

「……そうか。まあ明らか修羅場だし、俺もできれば言いたくない。」

 八木沢がゆっくり頷く。

「でも、言うしかないよな。」

「ええ。」

 その後、時間通りに部室を訪ねて来た塩谷さんに、昨日の調査結果を報告した。

「…うん、分かってた。」

 聞き終わると、塩谷さんは頷いて、意外にも明るい口調で話し出した。

「相手、遠野さんでしょ? 二人、幼馴染なんだって。私達より、心は通じ合ってるはず。」

 塩谷さんは俺たちの顔を見回して、微笑んだ。

「お似合いだと思わない?」

 一瞬、沈黙が訪れた。俺だって、塩谷さんの真意が分からないほど馬鹿ではない。ましてや、そんな言葉を言う必要なんて…

「……くだらないわね。」

 八木沢の刺すような声色が、沈黙を突き破る。その鋭い目つきが、眼鏡越しに塩谷さんを捉えた。

「嘘をつかないでもらえる? 下手な演技をされると、吐き気がするの。」

 たじろぐ塩谷さんに構わず、畳み掛ける八木沢。

「あなたの信頼はそんなもの? 信頼関係が綻びそうなら、すぐに結えるのが常理、自分でハサミを入れるなんて真似は論外よ。」

 途端、目をぱちぱちさせて聞いていた塩谷さんが軽く吹き出した。

「そうね、クヨクヨしてる暇はないか。」

 荷物を掴むと、勢いよく立ち上がった。

「決めた。これから、ケリをつけてくる。」

「ケリって…別れるって意味かしら?」

「うーん、それは富山くんの姿勢次第かな。」

 塩谷さんは意地悪く笑うと、席を立ってドアを開いた。

「ありがとう、生物部さん。もう今日の調査は大丈夫、ちゃんと話をつけてくるね。」

 そう言って、軽い足取りで部室を去っていった。

……俺、何も発言してないな。

「心配ね。」

 しばらくドアを見つめていた八木沢が口を開いた。

「そうだな。このまま待機ってわけにもいかないし、邪魔しないようにして様子を見に行くのはどうだ?」

「いい提案ね。そうしましょう。」

 八木沢は頷くと、コートを掴んで足早に部室を出た。

いいねを贈ろう
いいね
4

このトピックは、名前 @IDを設定してる人のみコメントできます → 設定する(かんたんです)
画像・吹き出し

タグ: 中編 プレゼント

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する
その他2025/12/26 00:39:23 [通報] [非表示] フォローする
TTツイートしよう!
TTツイートする

拡散用



長いですがよろしくお願いします。中編の真ん中くらいからモチベが下がり始めてました。


画像・吹き出し

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する