記憶力を上げる魔法のタルト
石畳の路地に、小さな古びた洋菓子店を見つけた。
「あれ、こんなところに洋菓子店なんてあったっけ...?」
不審に思いつつもお店を見てみると、ショーウィンドウにはおいしそうな艶々のお菓子がずらり。
テスト前日、まったく勉強していなかった僕は、こんなことをしている場合ではないとは思いつつも、なぜか誘われる様にお店の中に入ってしまった。
中でも僕が目を惹かれたのはひとつ、「記憶力を上げるタルト」だ。
(いやいや本当に上がる訳がない。そういうコンセプトのお店だ。)
とは思いつつも、大事なテストを控えている僕は、そのタルトを買ってしまった。
家に帰り、そのタルトを食べると、なんだか頭が冴えた気がした。
そして、教科書を開くとスラスラと内容が頭に入ってきた。
「もしかして、このタルトは本当に......!!」
翌日のテストは完璧だった。答案用紙に迷いはなく、結果も当然のように満点だった。
ただ、おかしなことが一つだけあった。
友達が僕に気づかないのだ。話しかけても、「え、誰?」と不思議そうな顔をする。先生でさえ、出席簿を見ながら首をかしげた。
家に帰っても同じだった。母は玄関に立つ僕を見て、「どちら様ですか」と言った。
その夜、机の上に、あの店の紙袋が残っているのに気づいた。中にはレシートが一枚。そこには小さく、こう書かれていた。
――「記憶は等価交換。他者の“あなたの記憶”と引き換えに。」
満点の答案用紙を握りしめながら、僕は初めて、自分が何を失ったのかを理解した。
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