Nの皆さんへ⑧
夜は、やけに静かだった。
ナカ村は未だ悲惨な状況にあった。
ソラは外に出ていた。
ラカールとハルマは夜食を共にし、過去のことを語り合っている。
背中の紅剣が、やけに重い。
(……このままじゃ)
分かっている。
何も変わらない。
紅剣を制御できなければ、また同じことになる。
村を、壊す。
人を、巻き込む。
「何してる」
ハルマが後ろから来る。
「……ああ」
短く返す。
「キョート、興味あるか」
ソラはすぐに答えなかった。
「ラカールの言うとおり、俺はキョートで商売をすることにした。売れる奴隷も集まる」
少しだけ間を置いて、口を開く。
「親友の連れだ。連れてっやってもいい」
「……行けば、俺にとって何かあるのか」
「ある可能性が高い、ってだけだ」
ハルマは肩をすくめる。
「理式師が集まる。情報も集まる。紅燐祭もある」
「確実じゃない」
「当たり前だ」
彼はあっさりと言い切る。
「いいか少年、確実な道なんてないんだよ」
沈黙。
風が吹く。
ソラは目を閉じた。
ーーー
朝。
焼けた村の光景が、浮かぶ。
自分の剣で壊れた景色。
(……繰り返すのか)
このまま。
何もせずに。
「——行く」
目を開ける。
はっきりと。
ラカールがわずかに笑う。
「そうか」
「紅剣を、止める」
短い言葉だったが、十分だった。
「そのために必要なら、俺は行く。行ってみる価値はあるんじゃないかって、信じることにした」
ラカールは頷く。
「いい理由だ」
少しだけ間を置いてから、
「じゃあ決まりだな」
ハルマはそう言った。
そのとき、足音がした。
ハズミだった。
すでに準備は終わっているらしい。
無駄のない動きで近づいてくる。
「行くの」
確認だけ。
「……ああ」
ソラは答える。
彼女はそれ以上何も言わない。
ただ、わずかに頷いた。
それで十分だった。
ラカールが二人を見る。
「一応言っとくが、キョートは楽じゃないぞ」
「分かってる」
ソラが返す。
「別に楽する気はない」
ハズミも何も言わないが、否定はしない。
ラカールは小さく笑う。
「ならいい」
軽く背を向ける。
「準備はできてる。いつでも出れる」
ソラは村を振り返った。
ここに来てから、まだそんなに時間は経っていない。
だが、妙に長く感じる。
(……もう戻らない)
そう思った。
戻る場所じゃない。
進むための場所だった。
「行こう」
ソラが言う。
ハズミが動く。
ラカールも歩き出す。
ハルマが軽く笑う。
彼らは、同じ方向に向いている。
村の外れ。
土の道が続いている。
その先は見えない。
だが——
「キョートシティ」
ラカールがぼそりと呟く。
「紅燐祭の街だ」
ソラは前を見たまま言う。
「それは関係ないだろ。紅剣の鞘とつながりがない」
「……あ?」
「祭りじゃない」
少しだけ間を置く。
「俺にとっては」
ラカールが笑う。
「そう…だといいな」
ソラはただ前を見る。
その目は、もう迷っていなかった。
ーーー
灰灯拠点。
四人は、アオミに見送られた。
「でもキョートって、ずいぶん遠いところに行ってしまうのね」
彼女はそう言った。
「まぁ。死ななければそれでいいけど…」
風が吹く。
彼らは、歩き出す。
林の中から、何かが出てきた。
機械人間にしか見えないその者は、ブレード・キングだった。
「キョートに行くのか」
そう言い、彼はソラの前に立った。
「気をつけな」
「わかってーー」
「人も、機械人間も、たくさんいる。奴らは必ず、お前の紅を狙う」
それぞれの理由を抱えたまま。
同じ場所へ向かって。
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