残り人
制服のボタンだけが取り残された。自身を構成する全てはもうすでに新しい環境への準備が終わっているというのに、いまだにたった一つのボタンだけが残っていた。
卒業式が終わった後の本当の最後の集まりで、私はずっと心の筋肉を緩める事が出来なかった。このまま時間が過ぎていき、今日が終わり、明日を迎えると、今までと何が変わるのか。そのことをしっかりとわかっているはずなのに、体が行動を制限していた。魂だけが暴れていた。二度と見ない顔がたくさんあるのに、もっとここに居たいと思うことがなかった。一人を除いて。
学校の玄関前での、最後の写真を撮る。
君じゃない。
いや、君でもない。
違う、君じゃない。
あぁ、なんで君なんだ。
あ、見つけた。
何人もの友達との会話をクリアしたあと、ついに彼を見つける事が出来た。たった一日見ていないだけなのに、再び彼を見た時には始めて出会った時のような高揚感と新鮮さがあった。雨が降っていたというのに、それを感じさせないほど体が熱くなっていた。3年前と本当に何も変わっていない。何も変わらず美しい。私は変わっていくのに...。
彼に話しかける。そこに特別な会話はない。始業式で初めて会った時と同じ温度と湿度。本当に話したいことはそうじゃないのに、何かに恐れている様子で、うまく話せなかった。視線は適当に泳がせているのに、私の心はずっと彼の顔を見ていた。
かなりの時間がたち、帰り始める人が出てきた。なんと、彼とは偶然帰りの道が一緒だった。いつもは違う方面から行っているのに、なぜか今日だけこっちの道から帰るんだと。
彼とは思い出話をたくさんした。この学校で会ってからやったことを、本当に全て話した。話しているとどんどん思い出してくるものだ。修学旅行は人生で絶対に忘れられない思い出になるだろう。
彼は次の交差点で曲がるらしい。あぁ、そうか。それを理解することは容易だった。もうこれで、彼を合法的に毎日見る手段は消えてしまうのか。もう会えないかもしれないのか。やっと目の前に、その事実は具現化された。
最後に、二人だけで写真を撮った。写真には二人映っているのに、私の眼には一人しか見えていなかった。
口の手前まで登ってきた言葉を押し込んで、彼に手を振る。またいつか。いつかというのはいつなのか。私は今すぐ君に会いたいのに、君はそうやって時間を曖昧にするのか。私に透明な暴力をふるうのか。
やはり、ボタンだけがポケットに残っていた。
彼の背中を見つめる時には、雨の音しか聞こえなかった。
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