俺に下ネタ勝てる奴いる?
Fermat の最終定理の証明に使はれた現代数学の idea や道具 について、なるべく予備知識なしに読める様に解説する。
Fermat の最終定理とは次の定理である: 定理. n を 3 以上の整数とする。このとき、
xn+yn =zn を満たす正の整数 x, y, z は存在しない。
これに関する歴史や数論に於ける意義などについては [3] が極めて読み 易く書かれてゐるので是非参照されたい。本稿ではこの定理そのものよ りも、その証明に使はれた現代数学の様々な idea や道具についての解説 に重点を置く。なほ、Fermat の最終定理の証明についてのより詳しい解 説として [1], [2] がある。
Fermat 予想1 は K. Ribet により「谷山志村予想」に帰着された (1990 年)。A. Wiles (1953–) が 1994 年に証明したのはこの谷山志村予想の一 部2 であつた。谷山志村予想とは、「楕円曲線」と「保型形式」とがうま く対応する、といふ予想である (この予想は 1955 年の東京日光国際代数 的数論シンポジウムで谷山豊 (1927–1958) によりその原型となる予想が 問題として提出され、後に志村五郎 (1930–) により現在の形に精密化さ れた)。楕円曲線と保型形式とは、以下に説明する様に、素性の全く異な るものである。前者は代数的乃至幾何的対象であり、後者は解析的3 対 象である。この様に、全く異なる二つの対象や分野の間に橋を架けるこ とは (数学以外でもさうだと思ふが) 数学に於いても実り多い結果を齎す ことが多い。その様な「橋」の中で、数論の分野で一番有名なのは恐らく
「岩澤主予想」であらう。この予想は岩澤健吉 (1917–1998) により 1960
1証明されるまでは「Fermat 予想」とも呼ばれてゐたので、文脈によつてこちらも 使はせていただく。
2一部ではあつても Fermat の最終定理を導くには十分な部分。
3 「代数的」「幾何的」「解析的」といふのは、高校数学の項目から例を引けば、「文 字式」「平面 (空間) 図形」「微分積分」などをそれぞれ想像していただければ当たらず とも遠からずである
楕円曲線とは所謂「楕円」のことでは ない。楕円の弧の長さを計算 するときに現れる或る函数と関係が深いところから楕円曲線と呼ばれる。 それは色々な側面を持ち、色々な定義が可能だが、最も手取り早いのは、
「方程式
y2 = F(x), F(x) は x の 3 次式で重根を持たないもの、
により定義される xy 平面内の曲線」といふものであらう。高校までの数 学で一次及び二次の方程式により定義される曲線は比較的詳しく扱はれ るし、扱はれない部分ももう少し突込んで学べば十分よく理解出来るが、 楕円曲線に代表される三次曲線となると格段に難しくなる。事実、特に その数論的な性質については未だ分かつてゐない事の方が多いくらいで ある。
方程式 y2 = F (x) がどんな図形を表すかを考へてみよう。今、F (x) の 係数は実数であると仮定して、y2 = F (x) を満たす実数の組 (x, y) を xy 平面内の点としてプロットすると、x 軸に関して対称なグラフが得られ る。例へば y2 = x3 − x の場合、図 1 の様になる。
今度は x, y を複素数の範囲で考へることにして、x = x1 + x2i, y = y1 +y2i (ここに i = √−1) と置いてこれを方程式y2 = x3 −x に代入し てみると、
y12 −y2 +2y1y2i = x31 −3x1x2 −x1 +(3x21x2 −x32 −x2)i
となる。この方程式の両辺の実部同志、虚部同志がそれぞれ等しいと置 いて、連立方程式
y12 −y2 = x31 −3x1x2 −x1, 2y1y2 =3x21x2−x32−x2,