【年末年始総選挙】「始まりの夜空で君は笑った」

12 2024/12/28 03:08

12月31日の11時20分。

「あぁ…暇すぎる…」

俺の名前は旦元 日彩(あしもと ひいろ)。暇とは言っているが実際は全く違い、”物凄く重要な任務“を果たさなければならないのだ…それに、この家には俺以外の人もいる。

「暇…って私がいるんですけど…?酷くない…?」

そのうちの1人であり、“物凄く重要な任務”の元凶である幼馴染の大海 想華(おおうみ そうか)が口を開いた。こいつとは小3の頃から8年の付き合いであり、今では生徒会長をやっている。そして、こいつとは家族ぐるみの付き合いである。実際、今日の年越しは旦元家に大海家が泊まって過ごすのだ。とはいえ、こいつは自分の家のようにくつろいでおり、俺の母とこいつの母は酔って寝ている。その上、父のほうは2人とも酒のつまみを買うだとかで外に出ている。全く…子供を残して何やってんだ…

「メンヘラみたいなこと言うんじゃねーよ…それに、お前と話すことが多すぎるから飽きてきてんだよ」

俺は現状を再確認しながら想華に少しきつく当たった。まぁ、思春期特有の“特定”の女子にきつく当たる行動だからね、しょうがないね。

「ひ、酷すぎるよ…幼馴染に対する態度じゃないよ…」

「幼馴染だからだよ、バーカ。お前以外にこんな失礼な態度とるわけねーだろ」

「ひーくんは親しき中にも礼儀ありって言葉を知らないの…? 幼馴染と知識の差がここまで開いていたとは…」

想華は憐れむような口調で失礼なことを言い出した。しかし、俺がイラっと来たのはそんなことではない。

「その呼び方やめろって何回言ったら分かんだよー!それに、そんくらいのこと知ってるわ!」

そう、こいつは昔からずーっと俺のことを「ひーくん」と呼んでくるのだ。正直に言うと悪い気はしないのだが…とにかく恥ずかしいから嫌なのである…

「はいはい、強がりはやめましょーねー…ていうか、そんなことはどうでもいいからさ!暇だし“あそこ”行かない!?」

想華の言う”あそこ”というのは、俺たちが子供のころからよく行く小さめの山…というより丘のような場所であり、立地的に市街地全体が見渡すことのできる場所だ。色々と思い出深い場所なので俺たち二人の間では”あそこ”という呼び方でも分かってしまう。

「ったく…話を逸らしやがって…てか、生徒会長さんが深夜徘徊なんてしちゃって大丈夫なんですかー?」

想華の立場のこともあり、こんな夜中にそう簡単に外出するわけにもいかないので俺は少し意地悪に聞く。しかし、

「バレなきゃ犯罪じゃないってどこかの誰かが言ってたから大丈夫でーす!それに…ひーくんも本当はそうしたいんでしょ?さっきから窓の外チラチラ見てるしさー」

ギクッ

大当たりだ。俺の“物凄く重要な任務”のためにも行こうと思ってたところだ。

「…ま、まぁ!とりあえず親父に連絡入れとくから!お前がそんなに行きたいってんなら仕方ないな!!」

「あっれれー?おっかしいなぁ?急に態度が変わっちゃったぞー?」

俺の焦り具合から察した想華は某天才小学生のようにいらないことを言い出した。その間にスマホで父に連絡をし、上着を着た。

「黙りやがれください!ほら!早く出るぞ!」

急かすように俺は言い、外へ出た。

「サンムッ!!!」

あまりの寒さに思わず俺は声を出し、今が冬であることを痛感した。

「今は冬だしねーあんまり舐めてると風邪ひいちゃうぞー? あっ!ごめん!ひーくんはおバカさんだから風邪ひかな…」

想華が言い切る前に俺は全力の速足で目的地へと向かっていった。

「あっ!ちょっと待ってよー!冗談だから!ごめんって!」

想華は近所迷惑になりそうなくらいの音量でそう叫びながら俺のほうへ走ってきた。まぁ、昔から想華は暗い場所が苦手だから無理もない。ほかに人がいなきゃ”あそこ”に行こうなんて言い出さなかっただろうし。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんな深夜に”あそこ”に行くのは初めてのことだったが、それでも普段の夜と違うことがわかるくらいには市街地は明るかった。きっと大晦日だからなんだろう。歩いているうちに寒さにも慣れてきて体の震えも段々と小さくなっていった。俺は想華と他愛もない会話をしつつ向かっていた。しかし、”あそこ”に近づくにつれ、緊張感が高まり鼓動も大きくなっていくため、自然と俺の口数が減る。それに合わせて想華の口数も減っていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、時刻は11時50分、俺の足が「”物凄く重要な任務“を果たすために動くのが怖い」とでも言っているかのように歩く速度はいつもよりずっと遅くなっており、普段は10分もかからない道を20分近くかけて目的地である頂上に着いた。地元の人もほとんど知らないような場所だったため周りには誰もおらず、近くには寺があるため、除夜の鐘の声が大きく響いていた。空には小さな雲がいくつも連なり、星も月も隠してしまっていた。しかし、それが必要ないくらいに街の明かりは俺たちを強く照らしていて、それでいて優しかった。そこに人の想いがこもっているかのように。

緊張をほぐすためにひとまず俺は近くにある自販機にお金を入れ、商品の位置の確認すらせずいつもの位置のボタンを押した。その次に、自分のためにおしるこを買った。この行動はここに来るたびにやっており、ルーティーンのようになっている。

「ほらよ、これ。お前、ほんとこれ好きだよな。言っちゃ悪いが、こんな変な缶ジュース他では売ってねぇぞ?」

そう言ってベンチに座っている想華に俺が手渡したのは暖かいトマトの缶ジュースだった。言っておくが、決して意地悪をしているわけではない。想華が好んでこれを飲んでいるのだ。決して意地悪をしているわけではない。

「サンキューでーす。まぁ、これの味が好きなわけじゃないんだけどね。でも、これを飲んでるとあの時のことを思い出すんだ」

「マジか…なんか…ごめん…てか、あの時のことってなんだよ?」

俺は持っていたおしるこを開けつつ座ったあと、まさかの返事に少し申し訳なさを感じながらも俺は問いただした。

「まぁ、ひーくんはおバカさんだから覚えてな…」

想華は言い切ろうとしたがにらみつけている俺を見てすぐにやめた。

「ごめん…覚えてないだろうけどさ、確か6年くらい前の冬だったかな?昼前ぐらいにひーくんに連れられて初めてここにきて今日と同じように私がこのベンチに座っててさ…ひーくんが見当たらないから辺りを見渡してたら、ひーくんが自販機のほうから走って戻ってきて、今日と全く同じ、おしるこの缶とあったかいトマトジュースの缶を持ってたんだ」

「えぇ…つまりは間違えて買ってきたってことか…?」

俺は昔の自分の行動に若干引きながらも聞いた。まあ、その時の俺は兄貴みたいな立場になりたかったんだろう。

「そうそう。その時はひーくんもほとんどおこづかい持ってなかったから別のを買うこともできなくて、私がそのトマトジュースを飲んだんだ。ひーくんは『自分のせいで悪い思いをしてほしくない』って言って嫌がってたんだけどね。でも…すっごく嬉しかったんだ…ひーくんが私のために頑張ってくれたこと…私に幸せになってほしいって思ってくれてたこと…とにかく、嬉しくてさ…その時のことを忘れないために、今もその缶を飲むようにしてるんだ……でも…今では平気で酷いことを言う子になっちゃって…悲しいよ…」

今までは、想華がトマトジュースを飲み始めたきっかけなんてないと思っていた。だけど、想華の話を聞いて、少し思い出した…あの時の間違い…罪悪感…でも、なによりも強く印象に残っているのは、トマトジュースを飲みながら笑っていた想華の顔だった。そうだ。ただひたすらに頑張れば…自分にできることをただひたすらに続ければ…想華は笑ってくれるんじゃないか…こんなところでおびえている場合じゃない。確実に自分よりも想華を幸せにして、笑わせてあげられる人はたくさんいる。でも、そんなことを考えている暇はないくらい熱心でいればいい。そうすればきっと、想華は笑顔になる。

ただの環境音のように思っていた除夜の鐘の声は、俺のためにあって、「この想いは煩悩ではない」と伝えてくれているようにまで感じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時刻は11時58分。もうすぐ、年の終わりを示す夜空は年の始まりを示す夜空へ変わる。それと同時に、”物凄く重要な任務“を果たすときがやってきた。

あの話からしばらくの沈黙が続いていたが、俺はこの思いに押されるようにそれを破った。

「なぁ、ちょっと話したいことがあるからそこに立っててくれねぇか?」

俺はベンチから立ち上がりながらベンチの3mほどの先の地面を指さして言った。

「え?まぁ、いいけど…どうしたの?」

示していた場所に想華が立つと俺もその前に向かいあった。思い出せた笑顔、思い出の場所、俺のために用意されたかのように思い通りに進む時間。そして、自分自身の決意。俺を勇気づける素材はたくさんあるはずだ。しかし、それでも怖かった。

気を引き締めるためにゆっくりと深呼吸をする。想華は黙って待ってくれていた。そして、これが今年最後の沈黙になるように心の中で祈り、口を開いた。

「俺達は今でも毎日会って言葉を交わすぐらいにはずっと昔から友達だった…だからこそ、俺はお前がずっと隣にいてくれるように感じてお前がいない日々なんて想像もつかなかった。その気持ちはは何年経っても変わらないんだと思う…でも、いつの間にか俺とお前の間には差が開いていたように感じたんだ。隣にいてくれなくなるのが運命のように感じたんだ。そんなのは嫌だって俺の心は言ってて、その思いが形になる方法を探したんだ。でも、バカな俺は具体的な方法なんて見つけられなかった。どうすれば笑ってくれるか分からなくて、それは今でも変わらない。だからこそ、探していたいんだ。わがままなのは分かってるけど………」

祈りは通じなかった。気持ちを吐き出すたびに思いの形はどんどん変わっていって、予定通りにはいかなかった。でも、除夜の鐘の声はそんな沈黙を埋めてくれるように響いた。そして、俺は自分らしさを探した。自分にできることをただびたすらに続けた。

時刻は11時59分。想華はいまだに待っていてくれた。そして俺はやり直すように口を開く。

「わりぃ…ちょっと俺らしくなかったかもな。とにかく!俺は想華が笑ってくれるように全力で頑張りたいんだ!想華のことが好きなんだ!だから…俺にチャンスを…俺と一緒にいてくれないか?」

自分の並べてきた言葉はすべて自己満足に過ぎないことを俺は心の中で認めた。そして自分のやりたいことを言葉にした。

俺が言い終わった直後に日付は変わった。そして、108回目の鐘が鳴り響いた。気づけば想華は俯いており顔が見えなかった。少しの沈黙のあと、想華は顔を上げるとともに口を開いた。

「よろしくお願いします」

街の光に照らされたその目には涙がにじんでいた。そして、

始まりの夜空で君は笑った

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すごい…これだけで読書感想文が書けそう……


>>2
ありがとうございます!!

先ほど自分でも読み返したんですが、文章量とかが物凄くて自分でも驚きました…w
自分の中では全力を尽くしたつもりだったんですが、修正点なども見つかったのでこれからも精進して参ります!


>>3
はい!お体傷めないようにがんばってください!!

私も見習いますね文の表現とか


>>4
分かりました!!

うぅ…自分の表現が参考になるか分からないけどそう言ってくださってありがたいです…!w


>>5
いえいえ!結構よかったですよ!


>>5
リトさん自信持ってください!


>>7
いやぁ…正直俺の表現の引き出し?みたいなのって厨二病から来るものが多いからなんとなく自分で「やべぇな」っていう風に感じてしまうですよね…w

だからどうしても自信が持てない…w


>>8
私はリトさんの小説の表現の仕方、わかりやすくて好きですよ


>>9
ありがとうございます…その言葉に支えられてるかもしれないです…w


>>10
あなたのおかげで生きがいになってる人とかもいるんでっせ。ここのサイトでできた友達が離れて自分に大きなダメージ負っても、もしそれが自分にとって本当につらい事でも、ちゃんと生きて下さい!!


>>11
分かった…本当に俺が人の生きるきっかけになってるかはわかんねぇけど、どちらにせよ、そんな人がいてくれるぐらいに良い人間になれるように頑張るわ!それに、いつまでもクヨクヨしてるのは離れていったやつらが望んだことではないだろうしな!


>>12
ゆっくりがんばって!


>>13
おう!分かった!


メッチャ力作!!投票したよ👍


>>15
ありがとうございます!

正直この作品以上の文章量を書ける気がしないです…w


>>16
いえいえ!物語作るのって大変だよね、お疲れ様🍹


>>17
ストーリー作るのは割と楽なんですけど、表現とかの部分がめんどくs…じゃなくて難しいんですよねぇ…


>>18
あー!たしかに、綺麗な文章かつ解りやすくだからね


>>19
その上、オシャレな感じにしないと雰囲気が作れないしな…

ていうか5位獲れたわ!マジで嬉しい!


>>20
総選挙5位

おめでとう🎉 🎂🍗🥗🍝🍹

凄いじゃん!!


>>21
ほんと良かった…!

今後もこういう1話完結の小説書いていきたい!


>>22
やったね!👍1話完結良いよね


>>23
書きやすい上に「読者に想像させる」っていうことがしやすいからほんとに良い…


>>24
だよね!短編だから気軽に書けるの良き


>>25
その分、キャラの説明的な部分を上手くまとめないといけないけど、それも含めて面白いんだよなぁ


>>26
だよね!圧縮と引き算工夫楽しめるよね


>>27
その分裏設定とか考えることもできるからそれも良い…!


>>28
めちゃ拘って物語作っていて凄い!!👍


>>29
いや、なんというか俺としてはここまでしないと満足いかないって感じなんだよね…w 逆に邪魔になってくる時もあるし…w


>>30
やっぱ作るからには納得いくモノにしたいよね


>>31
だなぁ…

ところで、食べ物総選挙が始まってしまったよ…頑張って書かないとなぁ…


>>32
小説頑張ってね!🎌


>>33
んー…ネタ自体はあるんだけどなぁ…でも、肝心のメインになる要素が食べ物じゃなくて飲み物なんだよ…どうしよ…


>>34
食べ物が出てくるなら大丈夫かも

飲み物も食べ物扱いにされるかな


>>35
頑張って関係を強くしとくしかないかぁ…

こればかりは当たって砕けるしかない…


>>36
そうだね、けど食べ物も出てくるなら大丈夫だと思う


>>37
出すかぁ…食べ物…

にしても総選挙の回数多いよなぁ…ネタがあと2つくらいしかない…前回が初めてだけど


>>38
たしかに、多い気がする


>>39
やっと小説書けた…納得いかないなってなってたらギリギリだった…これで2回目の総選挙なんだから本当にネタ切れがきつい…


>>40
新しいアイデア見つかると良いね、とりま総選挙間に合って良かったじゃん👍


>>41
とは言っても今回はそんな良い順位にはならなさそうなんだよなぁ…正直内容がかなり薄っぺらいw


>>42
良かったよ!!台詞とかセンスあったしこういうのいいな~って思える話だった


>>43
ならよかったけど…もうちょい恋愛フラグ入れたかったなぁ…w なんか物足りないわ…w


>>44
やっぱより良い作品にしたいよね

すっきりしてるのも読みやすいよ👍


>>45
やっぱり何事においてもバランスが難しい…

でも、そんなに褒めてくれるのはマジで嬉しい…


>>46
良かった!物語作るのってメチャクチャ奥が深いからね


>>47
つってもそのせいでほぼほぼネタ切れという…ていうか次の総選挙に関しては小説部門があるかどうか怪しい…w


>>48
次はイケボカワボだね、その次まで時間あるし小説ネタ出ると良いね


>>49
そうだなぁ 次はホワイトデーとかだろうからそこらへんのネタ考えればよさそうかなぁ


>>50
ホワイトデーか…バレンタイン総選挙で書いた話の続編とか良いかも


>>51
確かに…あの2人は割とキャラ濃いから作りやすいし…


>>52
だね!続編書くなら頑張ってね!🎌


>>53
もう既に書き始めたけど主人公のイケメン行動に磨きがかかってる気がする…まずい…単純なイケメン枠は年末年始総選挙の主人公にするつもりだったのに…


>>54
主人公にコミカルな要素とか足すと良いかも


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