7月のエンディング【1】
「余命が近いの」
ラムネみたいに、しゅわっと消えていった。
嘘じゃない、これは本当なんだ。
*
西日が差す東町総合病院の一角で一人の男が泣いていた。
お見舞いに行くからか、白いポロシャツを着ている。
きっと母に無理やり着させられたのだろう。
そしてベッドには一人の色白の綺麗な少女が困った笑顔で彼を見つめる。
「余命が近いの、あと一週間くらいかな。
タイミング逃しちゃって、言う。今しかないなって。ごめんね、もっと早く言えばよかったのに」
彼女の名前は志穂。そして泣いているのは祐希。
2人は去年の今頃、付き合った。
だからちょうど一年が経とうとしている。
祐希は家族よりも志穂を愛しているといっても過言ではなかった。
しかし志穂は家族の方が好きだった。
ある日、志穂と祐希は喧嘩をした。
とても些細なことだ。
本当にどうでもいい喧嘩だった。
誰からみても、本当にどうでもいい喧嘩だった。
ただ、志穂が大切なのは家族、と言っただけの事だった。
その事件をきっかけに2人には距離ができた。
会話は一切交わさなかったし、目も合わせようとしなかった。
でも、志穂が自分から謝りたいと言った。
祐希は東町総合病院に行った。
志穂の持病が悪化してしまったため、面会の時間も限られていた。
コロナのせいもあった。街外れの病院だったことがまだよかった。
同時に余命の事も話したため祐希は頭が混乱していた。
そして看護婦の江口が
「泣いているところすみません、もうお時間なので...」
と言う。
「そうですか、なら帰ります。
志穂、また明日来るから。じゃあ」
腫れた顔をこすりにこっと彼女に作り笑顔を送ると顔を下げて部屋を出て行った、が祐希はふと思いついたように顔を上げ志穂にこう言った。
「死ぬ前に、何したい?俺ができる限りはするから。」
志穂は家族に看取られて死ぬならそれで満足だった。
ただ、一つだけ入院してからの願いがあった。
「ん~、祐希、こっち来て。
あ、江口さんはちょっと出てもらっていいですか。すぐ帰すので。」
志穂は江口を追いやると祐希の耳元でこう囁いた。
「私、最後に普通のラムネが飲みたいの。」
>>1
ありがとうございます!
あ、新作出したら通知しますのでフォローさせていただきます!返さなくて大丈夫なので...
>>3
え、ありがとうございます!
よければみずも図書館、一応一章は完結しているので読んでみてください🤍🙏🏻
ほんとにどうでもいいんですが、一つ聞いてもいいでしょうか?
看護婦に名前を設定したのは、何か訳があったのですか?