紅剣物語第3話「タン・サイボー」
森の空気が、突如として張り詰めた。 その女は、静かにフードを外し、金色の髪を揺らした。
「名乗っておこう。私は人造特殊生命人間──人造王に仕える三名臣のひとり」
その言葉は、まるで空間の温度を変える呪文のようだった。
「人造…なんだって?」
ミノグチが、興味もなさそうな口調で呟く。
チュウニは苛立ちを隠さず、女に向かって叫んだ。
「名前を聞いているんだ。質問に答えろ!」
女は、髪を掻きながら答えた。
「私は、セレナ・フォールヴァルト。お前らに用はない。とっととうせろ」
その声には、冷たい威厳が宿っていた。
「そうはいかないな」
チュウニの声は低く、だが怒りに満ちていた。
「サイショの仇だ。黙って俺の焔の餌食となるが良い」
背中の火炎放射器が唸りを上げる。 セレナはそれを見て、口元に笑みを浮かべた。
「いいだろう。お前はサイショよりは強そうだ。少しは楽しませてくれるだろう」
そう言って、彼女は森の奥に向かって声を投げた。
「よしタン・サイボー!倅は任せたぞ」
木々の間から、腹の突き出た男が現れた。 その目はソラを捉えると、獣のように唸りながら突進してくる。
「命令だ。殺す、殺すー!」
ソラは、ただ立ち尽くしていた。 勝てるはずがない──なぜか、それだけは確信できた。 だが、タン・サイボーの体当たりはミノグチに向かい、彼を地面に叩きつけた。
「ぐわぁ!」
ミノグチが吹き飛び、動かなくなる。 それを見たヒロトが剣を抜き、タン・サイボーの腹を斬った。 一瞬、動きが止まる。
「やったか!」
ヒロトの叫びは希望に満ちていた。 だが、傷は瞬時に修復され、血さえも体内に戻る。 次の瞬間、ヒロトも吹き飛ばされた。
ソラは、震える手で剣を抜いた。 父から譲り受けた剣──顔すら覚えていない父の、最後の形見。 今まで一度も抜いたことのなかったその剣が、今、彼の手にある。
タン・サイボーが再び突進してくる。 単細胞な攻撃だ、とソラは思った。 だが、思考よりも早く地面に叩きつけられ、痛みが全身を貫いた。
「考えろ、考えた分だけお前は強くなれる」
父の言葉が、意識の底から浮かび上がる。 剣が、彼の思考と共鳴する。
タン・サイボーが剣を見つめ、訝しげに言った。
「我々は、異物を探しにここまでやってきた」
異物?父のことなのか、とソラは思った。もしそうならば、父の失踪とこいつらは関係があるかもしれない。
「お前、その剣は異物からもらったものか」
その言葉に、ソラの怒りが爆発する。
「そんなの、お前には関係ない!」
叫びと共に、剣を横に振る。 手に持っている剣がソラと共鳴したような気がした。気づいた時には、タン・サイボーが吹き飛ばされていた。
一方、チュウニとセレナの戦いは続いていた。 火炎放射器の炎がセレナを焼く──五度目の攻撃。 だが、セレナは何事もなかったかのように再生し、服さえ元通りだった。期待したヌードは拝めなかった。
「お前、せこいやつだな」
セレナが言う。
「遠距離からターゲットを燃やすことが、そんなにせこいか?」
チュウニが返す。
「違う。お前のエネルギー変換能力だよ。火炎放射器だけじゃ、そんな精度は出せない。空気中の原子エネルギーを使ってるな」
その推理に、チュウニは内心で感心する。 だが、その能力には代償があった。 体力の消耗──それが、彼の最大の弱点だった。
「セレスティアル・フォール!」
空から光が降り注ぐ。 チュウニはかろうじて避けるが、息は荒く、反射も鈍っていた。
「これが最後だ。この一撃、お前の疲れ切った反射神経では避けきれまい」
セレナが構える。 チュウニは、死を覚悟した。士官学校を主席で卒業し、特別に少尉の階級を与えられた。それも、死を回避することはできない。
だが、運命はその瞬間に裏切る。 ソラに吹き飛ばされたタン・サイボーがセレナに直撃し、彼女を吹き飛ばしたのだ。
「今だ、逃げるぞ!」
ソラの声が響く。 ヒロトが走り、チュウニも自然に足を動かしていた。

