紅剣の探索者第2話始まりの狼煙

10 2026/01/03 21:07

エリーデは椅子から勢いよく立ち上がった。顔は歪んでいたが、次第に冷静さを取り戻していく。

「ティルゴ」

エリーデは、隣で直立していた男を呼んだ。

「この少年の剣を見せろ」

「はっ」

ティルゴはソラの前へ進み出ると、手を差し出した。

「おとなしくよこせば、乱暴はしねぇよ」

ソラは黙って、布に包まれていた剣を差し出す。剣を受け取ったティルゴはエリーデのもとへ向かい、彼女にそれを手渡した。

エリーデは布を取り払い、剣身に指先で触れる。

「これだ。これが、あの……」

言いかけて、エリーデは口を閉ざした。

「この剣は貰っていく。文句は、ないな?」

エリーデはソラを見据え、そう言った。

「文句はある。人の物を勝手に奪おうとするな!」

ソラは一歩踏み出し、エリーデを指差す。

隣にいたミノグチが反射的にソラを制止した。チュウニは腕を組んだまま、無言で立っている。

「やめとけ。殺されるぞ」

それでもソラは前へ進み、エリーデと正面から向かい合った。

「よし、いいだろう。チャンスをやる」

「え?」

「ティルゴ。こいつに剣を一本やれ」

ティルゴは自身の剣を鞘ごと抜き取り、ソラへ放る。ソラはそれを受け取った。

「私に、その剣を使うに値する力量を認めさせれば、ここは黙って引き下がってやろう」

エリーデはソラの剣を脇へ退け、そのまま悠然と立つ。

「いつでもかかってこい」

ソラは三歩下がり、剣を抜いた。

外から雨音が聞こえる。闇に紛れるように、雨が降り始めていた。

---

ソラたちが幕舎に呼ばれていた頃、他の旅人たちは代表格であるサイショ・ニ・ヤラレルヨンのもとに集まっていた。

彼らは故郷を懐かしみ、未来への抱負を語り合っていた。

異変が起こったのは、そんな時だった。

「巡回に出た小隊が、戻ってきていないぜ」

「ここは地球最大の軍事国家、ヨーロッパ連合国のダキア領だ。盗賊もテロリストもいねぇ。大丈夫だろ」

「事故でもあったのかねぇ」

サイショは宴の輪を抜け、噂話をしていた兵士たちのもとへ駆け寄る。

「小隊が戻ってきていないというのは、本当ですか」

「ああ。数時間前に周囲を巡回する小隊が出ていったんだが、まだ一人も戻ってきていない。いつもなら二時間もすれば帰ってくるんだがな」

その時、雨が降り始めた。小雨はやがて豪雨へと変わり、森は激しく揺れ、風が吹き荒れる。

「あぁ、もう。宴の最中だってのに」

人々は散らかったままのゴミを放置し、宴を解散していく。

人の流れの中で、サイショは森の出口に立つ、見覚えのない人影を見つけた。全身を黒いフードで覆い、顔は確認できない。

気づいた兵士たちが、その人物へ近づく。

「誰だ、お前は。所属と階級を言え」

だが、不審者は答えなかった。兵士たちは銃を構える。

「聞こえなかったか? 所属と階級を——」

次の瞬間、兵士たちの身体から血が噴き出し、次々と倒れていった。

不審者はゆっくりと歩き出す。倒れた兵士たちを踏み越え、サイショへと迫る。

「クソ!」

サイショは身を翻して走り出した。だが直後、視界が揺らぎ、やがて闇に沈んでいった。

---

外が、突然騒がしくなった。

怒号が響き、雨音に紛れて銃声が聞こえる。

「な、なんだ?」

ティルゴの声に、エリーデは一瞬だけ注意を逸らした。

(今だ!)

ソラは一気に間合いを詰め、エリーデへ斬りかかる。

判断が一瞬遅れたエリーデ。ソラは彼女の懐へ踏み込むことに成功する。

(いける! これで!)

しかし——

ソラの剣は、粉々に砕け散った。

エリーデが、布に包んだ剣を瞬時にぶつけたのだ。

次の瞬間、ソラは腰を蹴り飛ばされる。勢いよく吹き飛び、幕舎の幕を破って外へ転がり出た。

肩が悲鳴を上げ、背中に鈍い痛みが走る。

「あちゃー。俺の剣が粉々だ」

ティルゴはソラのもとへ駆け寄り、ため息をついた。

「これでわかったか、坊や。お前じゃ無理だ。諦めろ」

ソラは歯を食いしばり、立ち上がる。

「あの剣は……行方不明の父親の形見なんだ。鞘は父さんが持ってて、それを取り戻すために、はるばるここまで来たんだ……」

その時、轟音が響いた。大地が揺れ、ソラとティルゴは吹き飛ばされる。大砲による攻撃だ。

「なんだ、この騒ぎは?」

エリーデとミノグチが外へ出てきた。

ソラとティルゴもなんとか起き上がり、検問所全体を見渡せる位置へ移動する。

雨の中、森は燃え、銃声は鳴り止まず、怒号と悲鳴が飛び交っていた。

「一体、何が起きているというのだ……?」

エリーデは愕然とした表情を浮かべる。

「ちょっとどきな」

背後から声がした。ミノグチだ。

一同が道を開け、ミノグチが前へ出る。

「どれどれ」

夜と雨が作り出す闇を、ミノグチは覗き込んだ。

「なるほどな。視界不良で現場は混乱しているが……敵は一人だ。そいつが色んな武器を奪って隊長の部下を攻撃している」

そう言い残すと、ミノグチは飛び降り、地面へ着地した。

「おい、ミノグチ。どこへ行くつもりだ?」

エリーデが呼び止める。

「敵は相当速い。俺じゃなきゃ動きを捉えきれないだろうな」

ミノグチはそのまま歩き出し、闇の中へ消えていった。

「まったく、若い連中は血気盛んで困ったもんだ。命は一つしかないってのにな」

ティルゴはやれやれと肩をすくめた。

——テイシン村からの旅立ちは、思わぬ事態によって混乱の渦に巻き込まれる。

ソラの壮大な冒険が、今、幕を開けた。

いいねを贈ろう
いいね
10

このトピックは、名前 @IDを設定してる人のみコメントできます → 設定する(かんたんです)
画像・吹き出し

タグ: 紅剣 探索者 2話

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する
その他2026/01/03 21:07:21 [通報] [非表示] フォローする
TTツイートしよう!
TTツイートする

拡散用



ストーリー展開が面白い!!エリーデめちゃ強いしソラも魅力的!!


画像・吹き出し

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する