【小説】射命丸文は動かない

2026/05/07 20:56

 河童の作る携帯端末というのは便利だ。写真機にもなるし、録音機にもなる。何より、取材メモを失くさなくて済む。

 だが私は紙の手帳を捨てない。

 ペン先が走る感触は、記憶を定着させる。特に、嫌な話ほど。

「で、その外来人は結局なんだったんです?」

 向かいで湯呑みを傾けながら、白狼天狗の犬走椛が尋ねた。

 私は新聞のゲラを閉じた。

「分かりませんよ。妖怪でも幽霊でもない。少なくとも、私にはそう見えた」

「でも未来予知なんでしょう?」

「それも違う気がするんです」

 昼下がりの命蓮寺。

 取材帰りに立ち寄った縁側は静かだった。風鈴が鳴るたび、軒先の影が揺れる。

 私は湯呑みを置き、ふと思い出したように言った。

「……そういえば、九日前に妙な外来人に会ったんですよ」

「またですか」

「“また”とは失礼ですね。私は偏見をなくすために活動してるんですよ」

「文さんの場合、半分くらいは面白半分でしょう」

「否定はしません」

 私は笑った。

 だが、その笑いは途中で止まる。

 思い出したからだ。

 あの小屋の湿った空気を。

     ◆

 外の世界には、“リアル”という概念があるらしい。

 幻想ではなく、事実。

 客観。証拠。論理。

 幻想郷では曖昧に済むことも、向こうでは数字や記録で固定される。私はそれに興味を持った。外来人に話を聞けば、妖怪への無意味な偏見も減るかもしれない。そう思ったのだ。

 その外来人は、魔法の森の外れに住んでいた。

 小屋は狭かった。

 妙に生活感が薄い。椅子、本、机、薬瓶。必要最低限だけが並んでいる。

 私は念のため、人間の記者を名乗った。

 妖怪だと知られて怯えられても、取材にならないからだ。

 だが、座って三分もしないうちに、その外来人は言った。

「あなた、人間じゃないですね」

 私は笑った。

「どうしてそう思うんです?」

「図星だから、質問で返した」

 冗談だと思った。

 少し勘のいい人間なのだと。

 しかし相手は、私の反応を観察するように続けた。

「呼吸が静かすぎる。肩が上下しない。視線移動が異常に速い。あと、足音がしない」

 私は少しだけ黙った。

 確かに私は飛ぶ。

 常に重心が浮いている。癖で、歩行時にも体重が乗らない。

 だが会ったばかりの相手に見抜かれるのは気味が悪かった。

「へえ。よく見てるんですね」

「瞬きも少ない。目がよく動く。話を引き出すのは上手いが、自分の話はあまりしない」

 まるで解剖だった。

 こちらの皮膚を一枚ずつ剥がしていくような、そんな観察。

「……なぜそう言い切れるんです?」

「事実だからですよ」

 外来人は淡々としていた。

 感情が薄いわけではない。

 むしろ逆だ。

 感情を使い切って、摩耗してしまったような声だった。

「今から三十秒後、あなたは首を吊ります」

「……随分、不謹慎ですね」

「事実だから仕方ない。残り十秒」

 私は呆れていた。

 未来予知ごっこに付き合う気はない。

 だが、同時に警戒もしていた。

 妖怪退治の類か。

 催眠術か。

 何かの能力か。

「三」

 外来人が数える。

「二」

 私は立ち上がり、周囲を見る。

「一」

 その瞬間。

 棚が倒れた。

 私は咄嗟に飛び退く。

 しかし小屋は狭い。避けた先はもう外だった。

 木に激突する。

 枝の上で体勢を立て直す。だが枝が撓み、身体が滑った。

 次の瞬間。

 首に、植物の蔓が巻き付いた。

「ッ……!」

 一瞬、呼吸が止まる。

 蔓自体は簡単に解けた。

 死ぬようなものではない。

 だが。

 “首を吊る”という結果だけは、確かに成立していた。

     ◆

「それ、偶然じゃないんですか?」

 椛が眉をひそめる。

「私も最初はそう思いました」

 だが私は続けた。

「気味が悪くて、逆に取材したくなったんですよ」

 新聞記者というのは厄介な生き物だ。

 恐怖と好奇心が並んだ時、好奇心が勝つ。

「小屋に戻ったんです」

「そしたら?」

「……泣いてたんですよ」

 椛が黙る。

 私はあの光景を思い出していた。

 外来人は机に突っ伏し、静かに泣いていた。

 声を殺すような泣き方だった。

「は?」

 思わず私はそう言った。

 すると相手は涙を拭きもせず、

「まあ、そうなりますよね」

 と答えた。

「訳を聞いたら、“未来が見える”らしいんです」

「未来視能力?」

「本人は、そう呼ぶ気もないみたいでしたけどね」

 その外来人は、生まれた瞬間から自分の人生を知っていた。

 いつ何を失うか。

 誰に忘れられるか。

 どこで死ぬか。

 全部。

「だから抵抗をやめた、って」

 椛が小さく息を呑む。

「私は数日後に衰弱して死ぬ。そう言ってました」

 外来人は、その事実を天気予報みたいに語った。

 絶望しきった人間は、逆に静かになる。

 私はその時、初めて理解した。

 あれは未来を“当ててる”んじゃない。

 既に見た映像を、再生しているだけなんだと。

「で、最後に言われたんですよ」

 私は指を三本立てた。

「三日後、小指を折る」

 右手を見る。

 包帯はもう外れている。

「実際、不注意で木にぶつかって折りました」

「……」

「六日後、好きな人物の名前を十二回連呼する」

「寝言で“椛、椛、椛……って十二回くらい言ってたらしいですね」

「やめてくださいよ!」

「事実ですから」

 私は少し笑った。

 だが、その笑みも長くは続かなかった。

「九日後、これを誰かに話す」

 沈黙。

 風鈴が鳴る。

 私は湯呑みを持ち上げるが、中身はもう冷めていた。

「そして今日が、その九日目です」

 椛は真顔になった。

「……最後は?」

 私は答えなかった。

 縁側の外を見る。

 夕暮れが近い。

 山の影が長く伸びている。

 十二日後。

 夢で私と対話する。

 それが最後の予言だった。

「文さん」

 椛の声が少し低くなる。

「その外来人、名前は?」

 私は数秒考えた。

 考えてから、気づく。

「……あれ」

 出てこない。

 顔は覚えている。

 声も、小屋も、泣き方も覚えている。

 だが名前だけが、綺麗に抜け落ちていた。

 まるで最初から存在しなかったみたいに。

 その時だった。

 不意に、首が少しだけ苦しくなった。

 蔓の跡など残っていないはずなのに。

「……文さん?」

 私は答えなかった。

 代わりに、手帳を開く。

 九日前のページ。

 そこには確かに取材記録がある。

 会話も、特徴も、予言も。

 なのに。

 肝心の名前の欄だけ、空白だった。

 まるで最初から、書けなかったみたいに。 

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おもしろ2026/05/07 20:56:58 [通報] [非表示] フォローする
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1: killer_queen @Bohemian2026/05/07 20:57:56通報 非表示

AIに添削してもらったのを改造してここに書いただけなんでかなりAIが滲み出る文書となった。


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