【小説】7話「月は何処へ」

3 2026/08/26 19:35

7話「月は何処へ」

「......君。」

誰かに肩を軽く叩かれ、飛び起きた。

師匠だった。

「どうしました...?」

「夜ご飯。放送しても来なかったから、呼びに来たんだよ」

「放送・・・?」

「食事の時間は毎日放送で知らせてるんだ」

「あぁ、え!今って何時ですか、?」

「7時くらいだよ」

そんなに寝てたのか...。

「みんな待ってる、行こうか」

みんなを待たせてる...申し訳ない。

_「さぁ、座って」

あれ......。

エクリプスの姿が見当たらない。

任務が長引いているのだろうか。

あの人なら、そんなこともあるのかもしれない。

「手を合わせて...食事開始。」

エアコンが効いてるのか、空気が冷たかった。

今日の献立は、生姜焼きにご飯に、味噌汁。

湯気は立っているのに、食堂には張り詰めた空気が漂っていた。

静かなのは前と同じだ。

それでも、誰も口を開こうとしない空気が、妙に重く感じた。

そんな中、ラディとノクスはいつも通り食事を始める。

そういえば。

食堂を見渡してみたが、エクリプスの姿はなかった。

任務中なのだろう。

あの人ならそんなこともある。

そう自分に言い聞かせ、箸を手に取った。

この空気のせいか、味が薄く感じられた。

気づけば、皿の上には何も乗っていなかった。

「...ごちそうさまでした。」

小さく手を合わせて、食堂を後にする。

部屋に着く頃には、疲れもあって頭はぼんやりしていた。

部屋に戻っても、エクリプスのベッドだけは空いたままだった。

「任務、大変なんだな」

こんなすごい人の記録を任された。それだけで誇らしかった。

明日会えたら、今日の任務のことを聞いてみよう。

聞けることなら、「運が悪い」の意味も。

そんなことを考えながら、布団に潜り込んだ。

スピーカーから流れる小鳥の声に起こされ、時間を確認する。

「7時か。」

また遅れたら嫌だから、早めに朝食の支度をしておこう。

ピンポンパンポーン

『全隊員に連絡します。食堂F-2へ集合してください。繰り返します_』

放送...?

昨日師匠が言ってたやつか。

メニュー、なんだろうな。

地図を片手にF-2に向かった。

「__え?」

誰も食事をしていない。

全員が立ったまま前を向いている。

その先には師匠がいた。

なんでだ...?食事も用意されていないし、空気は冷たい。

とりあえず、空いている場所に立った。

「全員、揃ったな。」

師匠が静かに口を開いた。

食堂には誰一人、声を出そうとする者はいない。

「昨日の任務をもって_」

師匠は一度だけ目を閉じた。

「エクリプスは組織を離れた。」

「...。」

一瞬何を言っているか、理解ができなかった。

組織を、離れた?

俺は思わず、周りを見た。

誰も動揺しているように見えなかった。

ラディアントも、ノクスも、メメントも

ただ黙って前を見ていた。

「質問は受け付けない。」

聞きたいことは山程あった。

『組織を離れる』って、どういう意味だ。

昨日まで普通に任務してたじゃないか。

「以上だ。朝食にしてくれ。」

師匠がそう言うと、食堂の奥にある扉がゆっくりと開いた。

数人の職員が料理を運び始めた。

「手を合わせて、食事開始。」

昨晩と同じ言葉だった。

それなのに、どこか重く聞こえた。

あんなの聞かされたら、メニューなんてどうでも良くなった。

『質問は受け付けない』って...。

......そうだ。

メメントなら、なにか知っているかもしれない。

俺はメメントに視線を移した。

さっきまでフードを被っていたはずなのに、今は外している。

長い前髪は、相変わらず目元を隠していた。

それなのに。

目が、合った気がした。

8話へ続く

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