【小説】アリウム

6 2023/01/29 15:11

今回は小説投稿サイトNovelee→ https://novelee.app/user/4RUHK2MuwfS6sIkl7qjA5qjsfPA2

で公開していた読み切りを投票トークでも公開しようと思います!

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1996年、葦谷町皐月家殺人事件。9人が住んでいる屋敷で8人が殺された

恐ろしい事件。殺されたのは全て皐月家という、歴史が長い一族だった。

5人が毒殺、3人が刺殺。何より恐ろしかったのは証拠が何一つ無かったこと。

事件発生時、たった一人生き残った少女、皐月朱音が犯人ではないかと近所では

噂されていたが、その少女はまだ10歳だったため、その説は無いだろうと

言われていた。捜査は迷宮入りしていたが、事件から4か月後、犯人が自首した

ことで事件は終結した。犯人は永田翔吾という一人の30代の男だった。

それから6年後、解決していたこの事件の情報を集め出した鼎真由という

女性がいた。毎週のように葦谷町に通っては町行く人に声をかけ、

事件の事を知らないか聞き回っていたそうだ。

「やっと会えたわね」

「そうですね」

「ずっとあなたに会いたかったのよ」

「ええ、私もです」

「まあ、時間はたっぷりあるんだし、座って話しましょう」

「8年前のことは覚えてる?」

「もちろんですよ、忘れたことはありません」

「父、母、祖母、祖父、みんな殺されました」

「何で私だけ生き残っているのだろうと何度も思いました」

「何でその場にいたのに犯人の顔を見なかったの?」

「あの時は恐怖で体が動かなくて、呆然と地面を眺めていた、

 犯人の顔を見る余裕なんて無かったんです」

「そう・・・一瞬でも顔を見る余裕はありそうだけどね」

「やめてくださいよ、そんなこと」

「10歳ですよ、そんなの無理です」

「あの時、私は皐月邸にいたのよ」

「皐月零は分かる?」

「ええ、殺された3歳年上の従姉です」

「私は零の友達だった」

「ちょうど事件の日私は零と遊んでいた」

「えっ」

「犯人には予想外だったでしょうね」

「そして運良く零が殺された時私はトイレにいた」

「トイレから出てきて、私は見てしまったの」

「血に濡れたナイフを持つ後ろ姿を」

「私は怖くなって必死に屋敷から抜け出した」

「それは不運でしたね」

「ええ、でも顔は見えなかったけれど」

「他に別の犯人がいるとお考えで?」

「ええ」

「2年間情報を探し回ってやっと分かった」

「皐月家が代々継いでいる病院で違法な手術をして稼いでいる

 ことを知って犯人は恨みをもったのね」

「・・・・」

「違法な手術で亡くなっている人が何人もいたからその分、

 皐月家の人間を殺そうとした」

「それが分かったところで、別の犯人が捕まる訳じゃありませ

 ん」

「そうね、でも1年前犯人は自殺したの」

「・・・え」

「知らなかったのね、犯人は遺書を遺していたの。真の犯人を

 示すね」

「お金に悩んでいたみたいだから、大金をあげると言って騙して

 勝手に犯人に仕立てあげられたようね」

「小学生の話をそんな信じるなんてよっぽどお金がほしかった

 のでしょう」

「もういいのよ、全て分かっているから」

「ふふっははっ」

「10歳の小学生にそんなことが出来ると思う鼎さんも

 変ですよ」

「小学生の時から高校生の問題も解けていたそうじゃない」

「あなたの担任だった先生が言ってた、あなたにはそんな

 殺人計画ぐらい簡単でしょ」

「そうですね、そうかも知れません」

「自分の家族を殺すことに抵抗は無かったの?」

「どうでしょうねえ」

「さっきから何を笑っているの」

「ああ残念、本当に残念です」

「はあ?」

「鼎さん、あなたとはもうお別れです」

「それあの時と同じナイフ?」

「それは鼎さんの想像にお任せします」

「私は一緒だとみたわ、そう、私を殺せば良い

 と思っているようね」

「はい」

「残念、それは無理よ」

「今日の会話は全部録音してある、しかも今、

 私の協力者がこれを聞いている」

「つまり、あなたが私を殺したところで殺人で

 現行犯逮捕って訳」

「協力者って誰ですか」

「教えてほしい?」

「ええ、もちろん」

「あなたが毒殺した皐月直斗の妻、皐月楓さんよ」

「1年前、真犯人を突き止めたいから協力してほしいって

 言ったら喜んで皐月家の情報をくれたし、とても協力

 してくれたわ」

「そうですか、彼女のことはよく覚えていますよ、

 とても良い方でしたから」

「どうせあなたはもう捕まるんだから、罪を

 重ねるのはやめといた方がいいわよ」

「この会話を聞いている人がいたとて、それだけでは

 私が捕まることはありません」

「何せ、証拠が無いのですから」

「あらそう、なら仕方が無いわね」

「言っとくけどこの2年間でどれだけの情報を私が集めたと

 思ってるのよ、皐月家が違法手術で稼いだお金は10億にも

 及ぶらしいじゃない」

「そんなちっちゃなナイフで私を殺せるとでも?」

「私はあの時、皐月朱音という恐ろしい殺人犯から

 逃げ切ったのよ、なめてもらっちゃ困る」

「はーあ、私の敗けです」

「いるんでしょう、この部屋の外には警察が」

「大正解、入ってください」

「さようなら、私はもう、あなたに会いたくありません」

「私もよ」

澄んだ目の18歳の少女はそっと私を見て笑いかけた。

そうだ、思い出した、あの時も彼女は笑っていたんだ。

何で今さら思い出すのだろう。もっと早く思い出していれば。

それもまた、彼女の恐ろしさ故なのだろう。

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