【小説】『夕暮れ誰を憶う』 第一話[心配]
人を追った。走り去る彼の背中を見つめながら追った。どんなに急いでも届かなくて終にはそれを落とした。心の中では近づいた気でいたが結局は虚しく宙に浮いただけであった。その姿を夕陽が優しく柔らかく包み込む。
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「お前、ウザいよ?」
どこかで聞き覚えのある言葉を急に言われた。
「は?」
咄嗟のことでついついこの言葉が出た。身に覚えのない様な事。何が言いたいのだろうか。
「は?何?逆に気づかないの」
「男にチヤホヤされたいが為に何買ってんだよ。こんな高級バッグ。」
彼が指したのは最近“貰った”高級バッグ。シックなデザインが気に入っている。
「え?これ貰いもんだよ。」
「誰からの?」
「職場の同僚」
考える素振りをし、携帯をいじる彼を見て疑いがはれたのではと一安心したのも束の間、一つの通知が来て、そして私の目を見て睨んできた。
「桐原か?」
「うん。てかなんで知ってるの?」
桐原、私の職場の同僚で気さくなやつだ。桐原と彼は高校からの友人で割と仲が良いと聞く。
「あいつに確認取った。」
再びLINEを開いて桐原との会話のとこを見せて来た。そこには確認を取る彼の言葉とその言葉を肯定する返信が写ってた。
「なんで“あんな奴”から貰うんだよ」
私に向かって怒って来た。二人の仲は良好な筈だ。
「いや、別に良くない?そっちだって友達なんだし」
私がそう言うと困った顔をした。イライラが顔に出ている。
「あいつが女誑しってのは知ってて言ってんのか?」
「え」
「前もあったんだよあいつ。弄ぶのが好きみたいでな、ちょっと気に入ったらそいつに対して優しい風に振る舞って貢がせて、その女の貯蓄がなくなるほどまで貢がせるんだ。はじめに良いもんを買ってやって、既婚だろうが彼氏有りだろうが関係なく。」
どうやら彼は気遣ってくれたみたい。心配しているのが良く分かる。
「ありがと」
「え?」
「心配してくれたんでしょ?ちゃんと私はあんたの彼女なんだから言いな?ツンデレなのは知ってるんだから。なんなら私、お前の親の次によく知ってるって自負できるもん」
突然顔を赤くした。耳まで赤くなってる。
「、、、別に、、、、、、」