『小説』 グレイシア

4 2023/08/17 09:28

……寒い。

身体を芯から凍えさせる容赦のない冷気に、もう、意識も失いそうだ。

道に迷い、洞窟に逃げ込んだは良いものの、ここは真冬の雪山。

すぐに救助がくるなんてこともないだろう。

はぁ、と口から溢れた真っ白な息を見ながら、ふと、ここにやってきた理由を思い出していた。

空気に漂う水蒸気が、寒さによって結晶となり、それが光に反射して幻想的な光景を作ることがある。風に舞うそれは、まるでダイヤのように美しく輝き、見る者の心を奪うという。

そんな景色を一目見

たいと、勇んで雪山に登ったは良いものの、この体たらくだ。陽が昇るころには、自分は氷づけになっているだろう。

あぁ、バカなことをした。どうせなら、最後

にせめて、その美しさを瞳に収めたかった。

瞼を閉じ、静寂に身を委ねる。

すると、頰にポツ、ポツと、柔らかな刺激を感じた。雪か、それともあられだろうか。いいや、もっとしなかな感触だ。

ピアノの鍵盤

をはじくような、優しく何かを囁くような……。

心を満たしていた孤独感が、少しずつ和らいでいく。もう、終わりの時が近いのかもしれない。

冷気の向こうに、僅かな息遣いを感じながら、ついにつなぎとめていた意識を手放した。

目が覚めると、そこは山小屋のベッドの上だった。どうやら自分

は、運良く救助されたらしい。

「今朝、この冬で一番綺麗なダイヤモンドダストが見えたんですよ。それを辿った先に、あなたがいた。きっと、あなたのことを誰かに気づかせようとしたんでしょうね」

ふと窓の向こうに目をやると、晴れ渡った雪原に佇む、小さなポケモンと目が合った。

柔らな光の中、澄んだ冷気を纏ったその姿に、堪ら感嘆が漏れる。

「あぁ、これが」

誰もが心を奪われるのも、納得だ。

「次は、ちゃんと見においで」

窓越しに広がる幻想的な世界に、そんなことを言われたような気がした。

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