【小説】獄悪魔様はえらいのなんの
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「クルパ様!どこです!出てきてください!!」
この世界には、天国と地獄がある。 それはきっと、みんな知っている。
じゃあ、君は、死んだらどっちに行きたいと思うか。
——きっと、即答。天国と答えるだろう。
しかし、それでもまた、だめな人間は地獄へ行く————。
——だが、地獄がわるいところばかり、というわけでも、また無いのだから。
「おとうさん・・・!起きてよ・・・っ!!」
———あ。俺———。
意識が朦朧とする。どうやら、死にかけのようだ。
実にくだらない人生だったな、と思う。
会社に貢献したわけでも、地球のために良いことをしたわけでもない、
————とても、くだらない。
機械音が鳴り響く。同時に、泣き声も響きわたる。
地獄に、行くだろうなぁ。
泣けるわけでもないのに、涙が溢れそうになる。
昔、死んだ(、、、)母さんから聞いた。「地獄も悪くはないのよ」、と。
死ぬことの恐怖でもない、悲しいわけでもない。
なのに、辛い気持ちだけが胸いっぱいに広がる。
————もしもだ。もしも、地獄に行ったとしたら。
母さんに、会いたいな…。
ピ―――――ッ……
「おとうさあああああん!!!」
あ、俺、今、死んだんだな————。
———。
——————…。
――――…ぃ。
微かにだが、声が聞こえてくる。この期に及んで、幻聴か。
————ぉい。
次第に声が大きくなっていく。
おい。———おいっ!!!
「えっ!?」
今、はっきりと聞こえた。
おい、と。幻聴ではない。…さすがに。
あたりを見渡す。
「おぃ…っと、やっと起きたか。」
ずっしりと重みのある空気の先に目線を落とす。
「ええと、あなたは…」
「ワイか、ワイは閻魔だ。」
ワイ、が一人称の閻魔なんて聞いたことがない。
「これがワイの喋り方だ、気にするんじゃない。」
ぽかん、としていると、いきなり耳が壊れそうな勢いで怒鳴られる。
「はっはっ、ココ、凄いやろ!まぁ、ワイ専用の部屋、ってやつやなあ…。」
「そうなんですねー…。」と、なんとも興味のない様な声でせせら笑っておく。
「で、ここは…?」
もう一度、あたりを見渡す。
明るさ。温かみのある明るさではない、冷たい明るさのような感じだ。
体感温度。寒いとか、熱いとかも感じない。…のは、死んでしまったからなのだろうか—————。
周り。黒い、真っ黒。宇宙のような、寝ているときの、妙な感覚のような。
「ここは閻魔の部屋。ニンゲンたちでいう、裁判所的な感じや。」
「つまり・・・」
つまり、そういうことなんだろう。
「「地獄か天国かをきめる場所」だ…」
声がきれいに重なる。
閻魔は、一瞬目を見開いたようにも見えたが、俺が瞬き一つする間で元に戻った。
「さて、お前の処遇だ、が…っと、」
紙をぱらぱらとめくる音が静かな空間に響く。
もしかしたら、天国に行けるかもしれない、という淡い期待も、無残に散る。
「ほう、君、地獄か。まったく、前世はどんな事をしたんだかな…。」
呆れたように言っていたが、笑顔ではあった。
聞くところ、
この処遇を決めるのは閻魔ではなく、もっと上の存在がいるらしい。
上の存在は、悪い奴が一番嫌いで、天国などには絶対に入れさせない。
その方々が、とても怒ったような走り書きでお前の処遇書を書いた、と。
「別に大したことじゃないけどな…。」
別に、学校の教師として、クラスの女子に教育という名の性行為をし、子供を孕ませただけなのだが…。
幸せだったのだから、もういいだろう。
口笛を吹きながら、俺は、処遇書に目を凝らしながら、ぶつぶつと何か言う閻魔をじっと見つめる。
俺は、いつもの癖で手をぽきぽき鳴らそうと…
したはずだが、妙に手が小さいことに気づいた。
「…え?」
その時。目線の先に、黒く渦巻いたような—————そう、“ゲート”が開いた。
閻魔がこちらを見て、面倒くさそうに「あー、よしよし」という。
「ここを通れば地獄につく、でもな、ここが一番大事や。よく聞けよ?」
そんなに重要そうではないなと判断した俺は、“ゲート”に向かいだす。
少し、足取りが軽い。やっぱり、なにか、変だ。
「———地獄に行ったらな、今までの、前世の記憶は全部消える。」
えっ、と声を発する。
同時に、とても幼い、「えっ」という声が聞こえる。
「それに、“お前がお前じゃなくなる”。」
曖昧な返答をする。もうむかついたりしなければ、呆れたりもしない。
ただ、不思議なことのバーゲンセールで追いつけない。
「そんで、お前は今——」
子供に、なっている。6歳くらいの、男の子に。それは、わかる。
「言わずとも、わかるか、やはり…。さて、子化というのは、苦しいそうだが。」
心拍数が徐々に上がってゆくのを感じる。はぁっ、はぁっと息を荒げる。
いつの間にか、“ゲート”に前にいる。
「ちょっ、と、」
言い終わる前に、声が出なくなる。
体が、透けている…のだろうか。息が漏れる。
ゲートはグオングオン、と低い音で唸る。
多分、こんな恐怖はもう、ない。というか、お腹いっぱいだ。
手、足、体、脳、五感—————。全てが痺れる。
「苦しい…。」
こちらから言わせてもらえれば、二度目の死だというのに———。
————————————…。ん…ぁ。
———————…パ様。…ルパ様。
—————…クルパ様ッ!!
「うわぁっ!?」
驚いた勢いでか、頭がガンガンする。意識が朦朧としているようだ。
そよ風が、気持ちいい。空の色は見たこともない———…空?
不思議そうにソラ(・・)を見ていると、近くにいた、
おそらく“僕”を起こしてくれた人が、なんとも不思議な喋り方で。
「ようやく起きましたか、よかった、早く起きねぇかなって思っていましたよ。」
敬語を言うことを拗らせた、みたいな喋り方といえば伝わるだろうか。
「クルパ様、大丈夫ですか?やはり、体調が悪いのですか?」
何が何だか、わからない。少し前に、閻魔と……?
「ごめん、くるぱ、って誰かなぁ、」
なぜか、タメ口でしゃべってしまう。
目の前の人の顔色が真っ青になる。
「クッ、クルパ様。そ、その、ご冗談は…。」
ふと、僕の目に目線を落とす。
そして、何かを察したように、真剣な目つきで焦りだす。
「もしかして、“もう”クルパ様じゃ、ない…?」
もう、とは何なのだろう。
戸惑っていると、後ろからいきなり抱かれる。
「わぁっ!!私の、可愛い、可愛いクルパちゃぁん!無事だったのぉ!」
不意打ちで持ち上げられたため、思わず「やめろっ!」と叫んでしまう。
「ひゃぁぁっ!?クルパちゃあんどうしちゃったのう!!?」
語尾がいちいち伸びる癖があるのかな、と思う。
僕の体から、冷や汗が出ているようだった。焦っても、いないというのに。
「あっ、マジュ様、お話が、」
こそこそ、と話す二人がちらちらこっちを見てくるのは何故だろうか。
でも、なんとなくだけれど分かる。
これは、“俺”じゃない、“誰か”なのだと。
「…そう、なのねえ…。うん、わかったわ、」
そういうと、ソラに向かって大声で叫びだす。
「閻魔あっ!!ちょっとおおおう!」
すると、ソラに黒い渦のような…どこかでどうしてか見たことのある———
「今日はゲート、すんなり開きましたね。自覚ありでしょうか。」
ゲート。そう、ゲートのようなものが開く。大体、人ひとり分くらいのサイズだろうか。
「ちょっとおお!!話より一日も早いじゃないのおお!!」
…あ、しまった、やぁはぁ、最近忙しいもんでね…と、これでいい———。
閻魔が話の途中、突然、頭が痛みだす。
ガンガンと殴られるような——
脳みそを切ったような———…
————…?
フッ、と痛みが和らいでいく。
気持ちが良い。気だるさなども抜けていく。
そして————。
「ガルパス、どうしたの、そんな切羽詰まった顔して。」
さっと、自分の口から飛び出す。
ガルパス、という人。
語尾を伸ばして喋る、マジュ。
記憶の隅に残っていたような何かが開花する。
———————他のことは、全て、吹っ切れるように。
「これで、記憶の引継ぎ(テレパシス)は出来たかな。ワイは別に悪くないのさ、ただ…」
ただ、と言いかけたところでゲートが閉じる。
なによ、もうっ!と切れるマジュを横目に見ながら、クルパはきょろきょろとする。そんなクルパを見て、ガルパスが声をかける。
「あっ、クルパ様。お体、体調はいかがですか?」
今までのことは思い出せる。僕が、獄悪魔だってことも。
でも、少しだけ、少しだけ記憶が飛んでいる気がする・・・?
目をぱちくりさせる。
「ええと、元気だよ、それも、ものすごく。」
目の前の人——ガルパスが安心したように、にこりとする。
僕は。
地獄の王、獄悪魔のクルパ。
それ以外の、誰でもない——————。
「いや、ほんとにびっくりしたんですよ。急に庭園で倒れるものですから…」
広い庭でぺたん、と座り込む。
大きな城からは、下町が良く見える。せっせと働くその姿は、どこか安心感がある。
綺麗な紫色の空には、薄っすらとだが、島のようなものが見える。
あれは…。
「くるぱちゃんっ、」
耳元で囁かれる。少し、わっ、と身震いをしてしまう。
「もしなにかわかんないことがあったら、気兼ねなく言ってねん。」
今喋っていたのが、マジュ・マジョ。いうならば、僕のお母さん。
ほっとしたようにしているのが、ガルパス・マーチ≪BG≫。
BGは、ボディーガードの事。代々、獄悪魔専属になることが義務付けられている。
「に、してもクルパ様。ニンゲンってわかりますか?」
いきなり聞かれた質問に戸惑ってしまう。
ニンゲン。ニンニン、ニン、ゲン…
「わかったぞ、インゲンとニンジンの配合種だなっ!」
「違いますね」
スパッと答えられた、しゅん、としながら、
違うんだあ、と言いながら、庭に寝そべる。
自分の不思議な記憶は、全て何でもないんだということにする。
これが、ふわふわとした、何もない、温かい日のことでした。
EPISODE . 1 獄悪魔クルパ
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文章量の問題で、あとはサイトからご覧ください。。。!
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著:しゃど
絵:キノコ
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