産移屋ツギハギ細工・産移屋に聖夜来たる(2)
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「あ、あの…ソラさん、リクさん、ありがとうございました。あの男からタダで救ってくれた上に、今日からここで働かせてもらえるなんて…」
時計屋と産移屋がある建物のすぐ後ろ、本来なら遠回りして裏の通りからしか入れない小さな小さなアパート。そこに新しく入居した彼女の名前は…白石菜々緒。つい先日、産移屋の助けでDV彼氏から別れられた女性だ。
133センチのソラと10センチほどの身長差しかない、小柄な女性。点々と痣のある白い手足は、ポキリと折れてしまいそうに細い。…実際、折られた事はあるそうだが。
「いえいえ、こちらこそ助けになれて幸いです。」
ニコリ、ソラが微笑む。後ろのリクも一緒に微笑む。
「でも、ソラは何で、ナナオを雇ったの?」
「ナナオさんの才能と技術を見込んでに決まってるだろ…『矢部翔をどうやってここに来させるかが問題』って言われた瞬間に一つの端末でアカウントを切り替えながらとんでもない速度のタイピング、只者じゃあない。」
そう、ナナオは天才的なパソコン技術を持っていた。他人の前で堂々と法律を犯す胆力も持っていた。しかもその理由が「あなたたちは同族の気配がする」となれば、雇わない理由はなかった。
「…ちなみに、これから正式に雇われるにあたって経歴とかは…」
「別に良い。話してくれても良いし、秘密のままでも良い。うちは自由な空気が売りなんでね。」
「そうだね。自由な空気が、売りなんでね!」
鍵を渡し、明後日十九時に地下だよと去って行くソラとリク。ナナオは微笑み、分かりましたと頷いて扉を閉めた。
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時計屋の裏のガレージで、ボサボサの茶髪の少年…ザンは熱心に設計図を描いていた。
「あああ…あかん、あかへん、こんなんごもくやごもく!」
紙をクシャクシャに丸めては放り投げ、机をダンっと叩いて頭をかきむしる。その姿は見ていて飽きなかったが、このままではザンが可哀想だ。そう思ったホクロは、気晴らしにドライブにでも誘おうかとツカツカ近寄る。
「ザンくん?そろそろ休憩した方が…」
カッと睨まれ思わず怯む。オレンジのタレ目と太く短い眉でどうやってそこまでの迫力を生み出しているのか気になる。
「ごめんてザンくん、でも息抜きしたら案外良いアイディアが…」
「…そやにな。すまんかった。」
今日は珍しく素直だと揶揄おうとして、やめる。ザンがこういう時は大抵知恵熱が出るほど行き詰まった時だ。
「…」
今だって、力の抜けた目でフラフラと歩いている。頬は紅潮し、吐息もいつもより白いような気が…
「ザンくん、大丈…」
フラリ、大きく揺れる。
「ザンくん!!」
咄嗟に受け止め、額に手を当てる。熱い。
ホクロは意識の怪しいザンを抱え、自分の部屋に向かった。
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「ねぇねェ、アノマエはどっち派?きのこ?それともたけのこォ?絶対にきのこだよねェ⁈」
「うるせぇ、気が散る。」
「あれあれェおかしいなァ、いかなる状況でも狙撃は外さないんじゃなかったのォ?」
「そういう問題じゃねぇ、見張りぐらい黙ってやれ。」
肌を刺すような風が吹き荒れる、廃ビルの屋上。有名キャラクターの面をつけた高身長で細身の男が、ライフルで一点を狙っているガタイの良い金髪に話しかけている。
「でもでもォ、ソラもひどいよねェ。今日はクリスマスイブっていうのにボク達をこき使うんだよ?」
「クリスマスが近い事と俺等がこき使われている事、何の関係があるというんだ。」
「も〜そ〜やってすぐ場が白けるような事を言う!そういうのロジハラって言うんだよォ?」
「…俺は、貴様にならキリハラできる自信がある。」
「何それェ」
「キリングハラスメントだ。」
「そ〜やって何でもかんでも『ハラスメント』で片付けるのって、よくないよォ?」
「貴様が言うな妖怪論点ずらし」
駄弁っている間に引き金を引いていたらしく、遠くで窓ガラスの割れる音がする。
「おッ、流石アノマエ!」
「…確認して来い。」
「何をォ?」
「標的を始末できたかどうかに決まってるだろ。」
「何でボク⁈」
「俺は腹黒とザンとの毒弾開発がある。」
「ああッ、待ってよアノマエ!」
仮面の男が、こんなのってないよォ〜と叫ぶ。今日も平和な一日だ。
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