空想小説「青鬼」 第50話 あの愚姉は
氷河「…叶いますか、ね」
氷河は目を伏せポツリと言った。
闇氷「ま、元より流れ星ってダメ元な節あるしな。」
卓郎「でもやらないよりやる方が良いだろ?」
闇氷「…まぁそれも一理あるな。期待はしないが。」
ひろし「それでもいいでしょう。考え方は十人十色ですから。」
氷河「んー…そやなー…」
ひろしがそう言うと、氷河の眠そうな相槌の声が聞こえてきた。見れば、氷河はうつらうつら船を漕いでいた。
たけし「氷河…眠いのか?」
氷河「んー…ぃゃ…そぅぃぅゎけじゃぁ…」
卓郎「いや声めっちゃ眠そうじゃんか。」
ハクモ「おめめもとろーんとしてるよ?」
そう指摘されると、氷河は細い目でむすっとした。
氷河「人を見た目で判断しなぃでほしぃなぁ…」
闇氷「ついでに声も追加で入れろ。寝たいなら部屋行って寝て来い。ここでお前が寝落ちされて落下されても困る。」
氷河「ゃだぁ…流れ星見るもん…」
氷河は幼い子供のように腕を引っ張る闇氷に抵抗する。
闇氷「子供か。いい歳してんのにそんな駄々捏ねんな。」
卓郎「いい歳…?」
たけし「いい歳(13歳)…」
闇氷「13歳…なぁ…っはは…」
13歳と聞くと、闇氷の顔が苦笑いのような表情で少し曇った。
たけし「あ、あれ…?違ったか…?」
闇氷「…いや、合ってる。2009年の3月生まれだからなこいつ。中2って事は今お前らの方は2022年のはずだろ?」
そんな事を言いながら闇氷は氷河を担ぎ上げていた。
氷河「ちょぉーゃひょぉー…離してぇなぁー…」
闇氷「断る。ちょっとこいつ連れてくわ。」
水刃「私ももうそろそろ戻ろうかな。明日の仕込みをしないとね。皆はどうするの?」
ひろし「もう少し残ろうかと。」
たけし「お、俺も…」
美香「私も残るわ!」
卓郎「俺も残るぜ。」
ハクモ「ぼくものこるよー!」
闇氷「私はこいつ運んだらここに戻る。こいつはもう問答無用でベッドにぶち込む。」
氷河「だからー…ぉれも残」
闇氷「お前に選択権ねぇから」
氷河「(´・ω・`)」
闇氷「じゃ、行ってくるわ。」
闇氷は一度ジャンプしたかと思うと屋根を貫通して真下に落ちていった。
たけし「え!?壁抜けしたぞ…!?」
水刃「属性フル活用ねー…まぁあの子の事だからきっと大丈夫よ。私も戻るわね。」
水刃さんはそう言うと、ベランダから戻っていった。
たけし「み、水刃さんも壁抜けするかと思った…」
卓郎「そんなホイホイゲームバグみたいなのを見せられてたまるかよ…」
美香「ねぇねぇ!闇ちゃんが戻ってきたら皆で流れ星いくつ見れるか勝負しましょうよ!」
卓郎「お、いいぜ!負けねぇぞ?お前らもやろうぜ!」
ハクモ「やるやるー!」
たけし「お、おう…!」
ひろし「…全く、仕方ありませんね。」
――――――
壁抜けを通して闇氷が降り立ったのは宿の3階。薄暗い廊下を進み、1つの部屋のドアを開けた。
闇氷「…もう寝てやがるしこいつ…」
腕の中、屋根での抵抗は何処へやら、氷河は闇氷に体を預けて眠っていた。
闇氷「…いつもこれくらい、落ち着いてりゃいいのにな」
…こいつはいつもそうだ。もう少し大人しくすりゃいいものを、オフの時はまだ静かだが何か変なスイッチ入ったら子供みたいにわーわー騒いだり変なとこで駄々こねるし(主にさっきみたいな寝ぼけてる時が多い)、仲間の事となれば自分より他人になって酷い時は重傷になっても戦って倒れてヤバくなって…
闇氷「数え出したらきりがねぇ…」
それで何回こいつは体調崩したり死にかけたことか。思い返すだけでもゾッとする。
闇氷「…俺ですらそんな事そう滅多にしねぇのに」
…何でこんなに姿は似たのに性格は…
闇氷『…経緯が経緯だ、大部分は似ないで当然か』
さっさと寝かせて戻ろ。
闇氷「…はぁ、世話の焼ける…」
闇氷はささっと寝具を整え、氷河を寝かせる。
闇氷「あー肩痛、ったくだるいわー…」
なんて愚痴を言いながら部屋を後にした。
――――――
闇氷「よ。戻った。」
美香「あ、闇ちゃん!皆で流れ星いくつ見れるか勝負しましょうよ!」
闇氷「だるい。却下。」
闇氷は美香の申し出を即刻却下した。
美香「えー?なんでよー!?」
闇氷「んな事して何になんだよ…」
気怠げに後頭部を掻きながら屋根に腰を下ろした。
たけし「闇氷って氷と結構正反対な節あるよな…」
闇氷「そりゃな。同じ血を持ってるからって似るわけじゃねぇし。」
ひろし「…独特な言い回しですね。」
ひろしは何処となく不審顔で呟いた。
闇氷「あながち間違ってねぇだろ。姉妹なんだからよ。」
ひろし『それならば素直に姉妹と言えばいいのでは…』
そう思ったが口には出さなかった。
闇氷「にっしてもあいつには困ったもんだわ。オフでも場合によっちゃギャーギャーうるせぇしお前らの話じゃ無茶しまくってんだろ?ほんっと迷惑かけてばっかだよなあいつ。限度を知れっての。」
卓郎「…なぁ、闇氷。」
闇氷が氷河の愚痴を吐くと、卓郎が控えめな声で口を開いた。
闇氷「あ?何。」
卓郎「氷は何であんな性格になったんだ?」
その瞬間、その場が、シンと静まり返った。
闇氷「はっ、随分と直球に聞いてくるんだな。」
闇氷は鼻で笑い、目を細めた。
闇氷「…あいつがああなった理由なぁ。まぁ色々あると思うが…なんだろうな…」
美香「闇ちゃんも知らないの?」
闇氷「いや…知らなくはないが…あいつがいねぇのに勝手に言うのはどうかと思ってな。」
ハクモ「そういうきもちはもってたんだねー…」
闇氷「おいてめどういう意味だコラ」
ハクモ「だってそんなけはいするんだもーん…」
闇氷「人を気配で判断すんな…」
美香「まぁ氷ちゃんにはとやかく詮索しないから!教えてよ闇ちゃん!」
闇氷「…はぁーお前って結構人の内側にズカズカ入って来ようとするよな…とりあえず肩を掴んでる手離せ、地味に痛いから。」
闇氷が低く控えめな声量で言うと美香はパッと手を離した。
美香「はい!じゃー離したから教えて?」
闇氷はどことなく呆れた表情を見せながら溜息混じりに言い始めた。
闇氷「はぁ…調子狂うな、ったく…はいはい…ま、そうだな…原因は色々とあるが1つ、端的に言ってしまえば、それは人間関係だな。」
ひろし「人間関係…ですか?」
闇氷「あぁ。あいつもあいつで色んな偏見受けまくってそういうのに参っちまったんだよ。だから集団行動があまり得意じゃなかったり自ら離れようとしたりすんだよ。」
たけし「偏見って…?」
闇氷「…お前ら、学校で初手からあいつが厨二病扱いされてたの忘れたか?」
美香「……あぁー!そういえばあの男子二人がそう言って来てたわね!私が少しお灸を据えた覚えがあるわ!」
闇氷『…フィジカル女が…』(引)
「…まぁ、そんなんで少し人間に愛想が尽きかけてんだよ。『お前も自分を異分子扱いすんだろ』って感じで。まぁでも、少なからずお前らみたいな存在がいるってのも分かっちゃいるから完全に尽きてないってだけだが。」
卓郎「ちょっと待て、その話は氷から聞いたのか?」
闇氷「以外に何がある?私はここに来てからアホみたいな力使えるようになってんだかんな。だから透明化して学校に居座るって方法は取れねぇよ。」
卓郎「他には何があるんだ?」
闇氷「私が言えるのはここまでだ。後は自己解釈するなり本人に頑張って聞くなりするんだな。ま、あの愚姉がそう簡単に言ってくれるとは思わないがな。」
たけし「ぐ、愚姉って…」
闇氷「事実だろ?バカでアホで愚かで、」
ひろし「……」
闇氷「仲間の言う事も聞かず1人で突っ走って、」
卓郎「おい闇氷…」
闇氷「あまつさえズタボロになってまで戦って反抗的な態度取って迷惑かけまくって、」
美香「ち、ちょっと、流石に」
言い過ぎ、と言おうとした美香の喉はその行動をやめてしまった。何故なら目の前には―――何処か困ったような、申し訳無ささが混じった笑い顔の闇氷がいたから。
闇氷「…ミイラ取りがミイラになるような状況で、そんなのお構い無しで俺を助けてくれた、とんでもないくらいバカで、アホで、仲間思いで…お人好し過ぎる愚かな奴だ」
そう静かに告げた闇氷達の髪を夜風が通り過ぎた。
ハクモ「やひょーおねえちゃん…?」
ひろし「ミイラ取りがミイラになる…何があったんですか」
闇氷「…死にかけた」
ひろし「はぃ…?」
闇氷「死にかけた事がある、1度」
闇氷の口からそんな言葉が出るとは思わなかったらしく、皆は固まっていた。
闇氷「信じられるか?今でこそあいつとはあの関係値だが、当時とんでもないくらい険悪だった。最初からずーっとな。なのに助けてくれたんだよ…場所が場所で、気づくなんかほぼ不可能なとこだし、あいつも死ぬかもしれねぇってのに…」
そこまで言うと、スッと立ち上がった。
闇氷「…ま、私の辛気臭い話はここまでだ。こんな話聞いたって、今は何にもなりゃしねぇ。どうしても続きが気になるってんなら…」
――時効を待て。そん時に全部話してやる。
闇氷は夜風に髪を弄られながら、不敵な笑みを浮かべた。
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