空想小説「青鬼」 第33話 望まぬ秀才
卓河「俺達はお前を倒す。」
卓河は黄昏ノ弓を永に向けて言った。
永「クソッ…どいつもこいつも仲間だの絆だの信頼だのばっかり…!僕はそういうの大っ嫌いなんだよ…!!お前達みたいな普通の枠をでられない奴らは皆僕を苦しめる!!…はぁ…いいよ、やってやるよ。僕がお前を殺して証明してやる。僕がやってきた事は間違いじゃなかったって!!闘気全開!!」
氷河『闘気…オーヴァーだけじゃなく、こいつも使えるのか。さっきまでの火傷痕が消えていく…』
卓郎『来るぜ!』
永「はぁっ!!」
永は毒ナイフ二刀流で切りかかってきた。卓河も弓を短刀二刀流に変えて受け止めた。
氷河『速度はオーヴァー程ではない…が…一回でもあのナイフが掠れば多分1発アウトだな…』
氷河は永のナイフを防ぎながらそう考えた。
永「僕を倒すんだろ?避けてばっかじゃ勝てないよ!はあぁっ!」
永はかまいたちのような動きで素早く切りかかってきた。四方八方から迫る攻撃を卓河は全て弾いた。
永「はぁはぁ…どうだ!僕だってやれば出来るんだ!お前達みたいな凡人同士で馴れ合ってる連中とは違うんだよ!」
卓河「何故そこまでして誰も信用しないんだ。」
永「お前には関係ない!どうせ僕の事は僕しか理解できないんだ!」
それを聞いた卓河は…氷河は一瞬表情を変えた。
氷河『…まぁ分からなくもないな…』
そう思いつつも卓河は刃を振りかざした。両者の刃が甲高く響き渡る。
永『そうだ…僕はもうボスしか信用しない。そう決めたんだ…!』
永は過去を想起させた。
―――――――――
僕のお父さんは有名な研究者だった。立派な父、優しい母、父を目指して科学者の道を進んでいる姉、皆僕の自慢の家族だった。…あの日までは。
永「お父さん!」
僕はパソコンに向き合っている父に抱きついた。
父「おっと!?こらこら!今父さんは大事な実験の最中なんだから邪魔しちゃ駄目だろ?」
お父さんは僕の頭をポンポンと叩きながら言った。
母「そうですよ。お父さんの研究の邪魔をしちゃ駄目よ?」
永「はーい!」
お母さんにそう言われ、僕は部屋から出ていった。
姉「父さん、また失敗だったよ。」
お姉ちゃんが研究室から顔を出し、首を振った。
父「そうか、また一からやり直しか…くそっ…」
僕はそのやり取りを聞いていた。最初はただの気まぐれだった。僕はただお父さん達の手助けがしたかったんだ。
永「お父さん、これなーに?」
ある日、僕はお父さんが研究して作った液体を色々と持ってきてお父さんに質問した。
父「ははっ、お前にはまだ早いな。これは父さんが長年かけて研究している物だ。これが完成したら世界中から大注目されるぞ!そしたら父さんは英雄だ!」
お父さんが英雄になると聞いて、僕はすごいと思った。
永「わー!お父さんこれが完成したら嬉しい??」
父「そりゃもちろん!」
お父さんはその質問に対して笑ってそう答えた。
姉「さぁ、父さん。実験の続きを。」
父「あぁ、そうだな。」
お父さんはお姉ちゃんと一緒に研究室に入っていった。
永「ふんふ〜ん♪」
僕は質問の時に持ってきた試験管の1つの液体をフラスコの中に入れた。そしたら突然、フラスコの中の液体が光を放ったんだ。
永「わ!何か光った!」
僕はそれを持ってお父さん達の研究室に向かった。
父「なんだとっ!?」
姉「嘘…」
僕の言葉を聞くと、お父さん達は驚いた声を上げた。
父「ちょっと見せてみろ!!」
お父さんはフラスコを傾けて呟いた。
父「…完成してる…」
姉「そんな…父さんが何年かかっても出来なかったのに…」
永「お父さん!僕やったよ!褒めて!」
僕は嬉しくなって両手を上げてピョンピョン飛んで言った。でも、お父さんは全く喜ばなかった。それどころか、怒ってる様子だった。
父「なんてことをしてくれたんだ。」
永「え?」
そこからは早かった。僕が完成させたのは、未だ治療法が無かった不治の病を治す薬だったんだ。世界中がまだ小さかった僕に注目した。若き天才、神童、世間から色んな呼び方で呼ばれたけど、実際、僕にはどうでも良かった。僕はただ、お父さんや皆に喜んでほしかっただけなんだ。でも…
永「ぐっ…」
父「どうしてお前ばかりが…!!あれは俺の研究だ!!俺が称賛されるべきなんだ!!」
あれ以来、お父さんは酒浸りになり、僕や皆に暴力を振るうようになった。
永「お父さん!僕はいいよ!あれはお父さんが作ったって事にしても!」
父「なんだと?お前は俺に情けをかけるのか?あぁ!?」
お父さんは僕が何を言っても逆上して、殴ったり蹴ったり髪の毛を引っ張る。
永「痛い、痛い、痛い!!!お父さんやめてよ!お母さん、お姉ちゃん助けてよ!!」
僕は助けを何度も求めたけど、2人は見て見ぬ振りをして助けてくれなかった。
父「お前が余計な事をしたせいで俺の評判はガタ落ちだ!!小さな息子に負けたマヌケな科学者だとよ!!クソがっ!!」
お父さんは僕を力を込めて殴り飛ばした。
永「ガハッ…お父さん…ごめんなさい…もうしません…!」
僕は泣きながら殴られ青くなった頬を抑えて言う。
父「今更もう遅い。もう科学者としての俺の人生は終わりだ。俺にはそれが全てだったんだ。それをお前は奪った。だから、」
お父さんは近くに落ちていた出刃包丁を持って言った。
父「お前を殺して俺も死ぬ」
永「お父さんやめて!」
僕は一目散に逃げ出した。お父さんは出刃包丁を構えて追いかけて来る。
永「はぁはぁ、逃げなきゃ、殺される…!きゃあ!」
僕は逃げ続けたけど、狭い家の中じゃ逃げ切れるはずがない。僕はお父さんに捕まった。
父「はぁはぁ…恨むなら自分の才能を恨め。お前のせいで俺はこんな目にあったんだ!!お前なんか生まれてのなけれはよかったんだ!!」
お父さんの罵詈雑言には僕の恨みや憎悪ばっかだった。でも、小さい頃の僕はお父さんの罵詈雑言に流されてしまった。
永『そうか…僕は生きてちゃいけないんだ。僕がいるからお父さんや皆が苦しむんだ。だったらもう…』
僕はそう思って、抵抗を諦めた。死を受け入れようとした。
父「おらっ!!」
お父さんが出刃包丁を振り上げた。僕は死んだと思った。…でも、いくら待っても全く痛くない。顔をあげると、信じられない光景が広がっていた。
「醜い」
その声と共に、出刃包丁はお父さんに突き刺さっていたんだ。しかも、まるで自分で刺したような状況だった。
父「あ、が…体が勝手に…ギャアァァァァァ!!!」
そして、何度も何度も自分に出刃包丁を突き刺して、最終的に倒れた。
永「お父さん…!!」
僕は何が起こったのか分からず、おろおろしていた。そしたら、突然ワープホールみたいなのが現れて、そこから藍色の髪の女の人がやってきたんだ。
永「あ、あなたは?」
レイ「我名はレイ。青神を信仰する者である。」
その人は「レイ」と言った。でも、当時の僕には青神の事も、信仰の意味も、全く分からなかった。
永「青神…?信仰…?」
レイ「我の計画に君の頭脳が必要だ。こんな所で死なせるにはおしい。我と共に来い。」
永「どうして…僕なの…?僕なんか…」
僕はさっきの事もあって、自分はいらない存在だと思い込んでいた。そんな僕を、レイ…ボスは称賛する。
レイ「君の才能は素晴らしい。我のために役立て。」
永「僕は生きててもいいの?」
僕はボスにためらいがちに聞いた。
レイ「あぁ。お前は我が信仰する青神様の復活のため、我のために生きろ。」
僕を必要としてくれてる、そんな人がいてくれた事に、僕は救われた気がした。
永「わかった。僕は今日から君のために生きる。僕を必要としてくれた君のために。」
レイ「期待しているぞ。」
それからは、僕はボスのためだけに生きてきた。元の名前も家族も、もういらないから捨ててきた。ボスは、僕が結果を残したら褒めてくれる。お父さんとは違う。だから、僕はボスが好きだ。ボスに褒めてもらう事だけが僕の全てなんだ。まぁ、恥ずかしいから本当の事は誰にも言えないんだけどね。
―――――――――
永『しつこいなぁ…!早くこいつを殺してボスの所に帰るんだ…!こいつを始末すればきっとまたボスが褒めてくれるはず…ボスの期待に応えるんだ…!』
永は自身の技、サーチアイライトを使った。しかし、何かが違った。それは卓河も感じ取っていた。
氷河『…何だ?…雰囲気が変わった気が…』
永「そらっ!!!」
永は突然、背後に回り込んでいた。
卓河「なっ!?」
卓河は驚きながらも、咄嗟にバク宙で回避した。
氷河『危なかった…急に動きが…』
永「随分不思議そうな顔してるねぇ。」
永は首を傾げて言う。
卓河「お前、まだ奥の手を隠していたのか。」
卓河は鋭い目つきで永を見た。
永「あはははっ、こういうのは最後まで取っておくもんなんだよ!僕のこの眼は特別製でね、色々自分で改造してるんだ。それに僕のこの能力、サーチアイサイトを掛け合わせると、‘‘数秒先の未来が見える’’。だから僕は未来の君の動きに合わせてナイフを置くだけでいいのさ。」
卓河は説明が終わる前に本当に未来が見えているのかの確認も兼ねて、切りかかった。
永「こんなふうにね!」
永の言う通り、卓河の刃は容易く受け止められていた。
卓河「くっ…」
永「ひどいなぁ、まだ僕が話してたじゃないか。」
氷河『こいつ…本当に未来が…』
永「でも君は凄いよ。僕が見た未来ではもう君は二度死んでるからね。ギリギリで踏みとどまれるその反射速度は驚異だと思うよ?まぁそれもいつまで続くか分からないけどね。」
そう言い、永は猛攻を仕掛けてきた。未来を読まれている中、卓河は防戦一方を強いられた。
卓河「くっ…はぁ…」
氷河『本気でやばい。このままじゃ…いつ当たってもおかしくない。』
永「ほらほらほら!」
永の攻撃を卓河は一度弾くと、後ろに飛び退いた。
氷河『動きが先読みされている以上、接近戦は不利すぎる。』
卓河「なら。炎弓・黄昏ノ弓。」
卓河は短刀を弓に戻し、上に矢を放った。
永「どこに向けて撃ってんの?」
卓河は永の問いかけに応えない。上空に炎の力が増幅していく。
卓河「スプリット」
そう言い、指を鳴らすと、炎の矢の雨が降ってきた。
永「何言ってんの?」
卓河は何も言わない。永の頭上に数多の矢が迫る。
永「…なんてね。」
永はまるでスケートの如く動いて、降り注ぐ矢を全弾回避した。
永「君の考えてる事なんて僕にはお見通しなのさ。」
卓河「くっ…なら…」
卓河はまた後ろに飛び退き、弓矢に力を込めた。
卓河「これなら先が読めても意味ないだろ!?」
卓河の周りに紅蓮の蒼い炎が満ちる。
卓河「…蒼炎…朱雀!!」
卓河は渾身の矢を打ち放った。その矢はまるで、四神の一体、朱雀を連想するようだった。
永「たしかに未来が見えてもその技は避けようがないね。」
永も後ろに飛び退きながら言った。
永「けど、僕だってまだ本気を出して無いんだよ!」
永の周りに風が逆巻く。
永「ゼファー・トルネード!!さらに!おりゃあ!!」
永は竜巻を飛ばした。しかも、その中にナイフを投げ込んだ。
卓河「くっ…」
永「うっ…」
ひりついた空気の中、風が巻き起こり、熱風が吹き荒れる。
永「チッ…僕は、僕はボスのために負ける訳にはいかないんだ!!」
永は2つ目の竜巻を飛ばしてきた。蒼炎朱雀にぶつかった途端、爆発が起こった。煙が広がっていく。
永「うっ…はぁはぁ…」
永は煙が晴れると、卓河の元へ走り出した。卓河はさっきの爆発のせいか、倒れ込んでいた。竜巻の中に投げ込んだナイフは当たっていない。
永「悪いね、僕の勝ちだよ!!」
そう言い放ち、卓河にナイフを突き刺した。
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士郎(代弁者)「おーい、IF増やすぞ〜。前のIFは倒したが今回のIFは更生ルートだ。」