空想小説「青鬼」 第18話 喪失と邂逅
宿に戻ったひろしは、氷河をベッドに寝かせ、看病していた。
ひろし「氷河…早く目覚めて下さい…私一人では…どうしようも…」
氷河「うっ…」
ひろしが珍しく弱気になっていると、氷河が目を開けた。
ひろし「氷河!」
氷河「ここは…?」
氷河は寝たままひろしの顔を向いた。
ひろし「ここは宿です。無事で良かったですよ。目が覚めてすぐですみませんが、皆さんを救う作戦を一緒に考えましょう!私達なら可能なはずです!」
ひろしは氷河に意を決意した声で言った。だが、氷河はかなりよそよそしい。そして、氷河は口を開いた。
氷河「えっと…ごめんなさい…貴方は誰ですか?」
氷河の突然の発言に、ひろしはかなり動揺した。
ひろし「…えっ…?こ、こんな時に冗談はやめて下さいよ…」
ひろしは苦笑しながら言うと、氷河は首を横に振った。
氷河「すみません…何も覚えていないんです。私は一体誰なんですか…?」
よそよそしく言う氷河を見たひろしは、心当たりを探した。すると、1つ思い当たる節があった。
ひろし「ま、まさかあの時の衝撃で…記憶が…!?」
そう考えたひろしは、どうにかして記憶を取り戻させようかと考えた。
ひろし「そうだ…氷河、歩けますか?」
ひろしは氷河に言った。
氷河「え、あ、はい…」
ひろし「そうですか。では、着いて来てくれますか?」
氷河「は、はい。」
ひろしは氷河を連れて、2階へ上がった。
氷河「ここは?」
氷河は部屋を見渡して言った。
ひろし「物理ショック系による記憶喪失なら、思い出の場所や物を見れば思い出すことができるかもしれませんからね。」
ひろしはそう言いながら、氷河が持ってきていたカメラを手に取った。
氷河「これは?」
氷河は画面を見ながら言った。
ひろし「私達で作った思い出ですよ。ほら、見て下さい。氷河も沢山写ってますよ。」
氷河「これが…私ですか…?」
氷河は水色髪の子を見つめて言った。
ひろし「そうですよ。金髪の方はたけし、髪が長い方は美香、赤茶色の髪の方が卓郎。皆私達の大切な友達です。何か、思い出しましたか?」
氷河「うっ…」
氷河の脳内にノイズのような物が走った。
氷河「すみません…覚えてないです。」
ひろし「そうですか…では、一体の勾玉はどうでしょうか?その勾玉です。それには見覚えがあるのでは?」
氷河「これ…ですか?」
氷河は一体の勾玉を手に持ち、見つめた。また、ノイズが走った。
氷河「くっ…すみません、だめです。…ですが、何かとても大事な事を忘れてしまっている、というのは分かります…」
ひろし「氷河、お願いします…思い出して下さい…皆が…仲間が大変なんです…!早く助けないと殺されてしまうかもしれません…」
ひろしは少し泣きそうな表情になって氷河に言った。
氷河「仲、間…うわぁっ!!」
氷河が目を細め、一体の勾玉をじっと見ていると、爆発音が響き渡った。
ひろし「なんですか、今のは…!?まさか…」
ひろしは1階へ走り出した。
氷河「えっ…!?ど、どこ行くんですか…!?」
氷河もひろしの後を追った。ひろしの元へ着くと、テレビにオーヴァーが写っていた。
オーヴァー『おい、生き残り共、聞いてるか?てめぇらが全然現れねぇからこうすることにしたぜ。今から1時間後になってあの場所に来なかったら、石像を一体ずつぶっ壊してやる。気をつけろよ?壊れたら俺を倒しても元には戻らねぇからな?それが嫌ならさっさと来ることだな。ハハハハハッ!!!』
テレビの画面はは砂嵐になって消えた。
ひろし「ま、まずい…早く助けに行かなくては…ですが氷河がまだ…」
氷河「あ、あ、あ、あ…」
ひろしが氷河の方を見ると、顔を青ざめて怯えていた。
ひろし『この状態の氷河を連れて行って万一石化させられてしまったら元も子もありませんね…』
「さて…氷河。私は行きますよ。」
氷河「…えっ?あ、あ、あ、あんな恐ろしい化け物の所にどうして…」
氷河は怯えながら聞くと、躊躇いなく答えた。
ひろし「皆さんが…仲間が私達を信じて待っていてくれていますから。そして…氷河。私も氷河を信じています。もし記憶が戻ったら青雅洞窟に来て下さい。先に行って待ってます!」
ひろしはそう言うと、宿を飛び出していった。
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オーヴァーは暇つぶしに周りの物体を壊しまくっていると、向こうから人影が見えた。
オーヴァー「やっと来たかよ。待ちくたびれたぜ。…あぁ?てめぇ一人か?水色髪はどうしたよ?」
オーヴァーは不機嫌そうに言った。
ひろし「貴方の相手は私一人で十分という事です!」
ひろしは弓の先をオーヴァーに向けて言った。
オーヴァー「はっ!死んでから後悔するなよ?簡単には殺さねぇからな!!」
ひろし「望むところです!!」
ひろしとオーヴァーがぶつかりあった。
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宿にて、氷河は眼帯を外し、カメラの写真と一体の勾玉を見ていた。
氷河「この写真もこの写真も…皆、笑ってる。」
氷河は写真を見るたび、ノイズが走っていた。
氷河「うっ…大切な仲間…思い出さなくてはいけない大切な事…」
氷河はカメラを机の上に置き、一体の勾玉を見た。
氷河「記憶が戻っていなくても…何かが皆を助けないとって言ってる…」
氷河の目から涙が溢れ出てきた。
氷河「何で…思い出せないんだ…思い出さないといけない事なのに…!!」
右眼から流れた一滴の涙が一体の勾玉に落ちた。すると、一体の勾玉が明るい光を放った。
氷河「…ん?うわっ!」
氷河は眩しくて目を瞑って腕で覆った。しばらくして、目を開けると、真っ白な空間に佇んでいた。
氷河「…ここは…?なんだろう、この空間…私、さっきまで…」
周りを見渡すと、誰かが立っていた。
氷河「…!貴方…は…?」
その人は、自分と同じ水色の髪で、左目は水色で右眼は蒼く、口元を隠し、刀を差していた。知らない筈なのに、何故か氷河はその人を知っているような気がした。その人は背を向け、顔を氷河に向けた。
氷河「ついてこいってことですか…?」
氷河がそう言うと、その人は笑って、歩いていった。氷河はその人の後に続いた。不意にその人は足を止めた。その人の方向を向くと、何かが映し出されていた。
氷河「これは…もしかして…過去の…映像…?」
その人は氷河の方を見て笑った。
『な か ま』
その人は声を出さず、口パクだったが、何故かそう言っている様に思えた。
氷河「そうか…これは私が見ていた光景…」
氷河は映像を見ながら言った。
氷河「…そうだ。記憶を無くしていても、仲間であることには変わりない。私も…私も仲間を助けたいです!」
氷河が明るくそう言うと、その人は笑って頷いた。ふと、氷河は1つ疑問に思った。
氷河「あ、そういえば…貴方はこの映像に出ていないですけど、貴方も私達の仲間ですよね?何で…」
氷河がそう言うと、氷河の目から涙が溢れた。
氷河「あ、あれ?おかしいな…貴方を見ていると涙が止まらくて…すみません…」
氷河が涙を拭うが、涙は止まらなかった。そんな氷河をその人は優しく抱きしめてくれた。
氷河「ありがとうございます。もう、大丈夫です。」
氷河がそう言うと、その人は離れた。
氷河「じゃあ私、そろそろ行ってきますね!」
そう言うと、その人はまた笑った。そして指をさして、出口の方向を教えてくれた。
氷河「ありがとうございます!」
氷河はその方向へ走り出したが、足を止め、その人の方へ向いて言った。
氷河「あの…また、会えますか…?」
氷河は不安な顔で言うと、その人は笑って頷いた。
氷河「良かった。じゃあ、今度こそ行ってきます!…よし…!」
氷河は上着に入れた眼帯を付け、覚悟を決めた顔で走り出して行った。
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オーヴァー「弱ぇ弱ぇ弱ぇ!!」
ひろし「くっ…」
オーヴァーの圧倒的な強さに、ひろしは劣勢を強いられていた。
オーヴァー「俺はもう今までの俺じゃねぇんだ!てめぇ一人なんか相手になんねぇよ!!」
ひろし「っ…!!」
ひろしは辛うじて鎌は当たっていないが、かなり体力を消耗していた。
オーヴァー「ハハハッ!安心しろ、おめぇが弱ぇんじゃねぇ。俺が強すぎるんだよ!」
オーヴァーが高を括っている中、氷河が音を頼りに辿り着いた。
氷河「はぁ、はぁ…やっと見つけた…!よ、よし、い、行くぞ…!」
オーヴァー「あぁ?今更来やがったのか、この腰抜けが!」
オーヴァーは氷河の存在に気づいてしまった。
ひろし「ひ、氷河…!ま、待て!!」
氷河「うわっ!」
氷河は後ずさりした。
オーヴァー「あ?いつもの挑発的な態度はどうしたよ?俺の強さにビビっちまったのかぁ?ハッハッハッ!」
氷河はナイフを構え、オーヴァーに向けた。
氷河「こ、これ以上私達の仲間に手を出すな!!」
オーヴァー「…はぁ?」
氷河はオーヴァーに斬りかかるが蹴り飛ばされてしまった。
氷河「くっ…お、お前は私が倒す!」
氷河は岩を手に掛けて立ち上がり、またナイフを構えた。氷河自身も腕が震えているのは分かっていた。だが、それ以前に仲間のために戦わなければならない、という意思があった。
オーヴァー「ハハハハッ!ナイフがガタガタ震えてるじゃねぇか!いいねぇ。俺はそういう顔が見たかったんだよなぁ。俺の強さにビビっちまってる顔をなぁ!!よーし、まずはてめぇからトドメを刺してやる!オラァァ!!」
オーヴァーは氷河に向けて斬撃を放った。その間にひろしが入った。
ひろし「氷河!うわあああ!!」
ひろしは氷河から貰っていた慣れないナイフを使い、斬撃を防いだが、勢いは殺せず、氷河と共にふっ飛ばされてしまった。
ひろし「っ…ひ、氷河、平気ですか?」
ひろしは身を起こして言った。
氷河「は、はい。あ、ありがとう。でも、どうして私を?もしかしたら貴方が死んでしまっていたかもしれないのに…」
ひろし「どうしても何も、私達は仲間ですから。」
氷河「仲間…」
氷河の脳裏に宿で見た写真が浮かんだ。
氷河「私の仲間…」
今度は、真っ白な空間で出会ったあの人を思い出した。
氷河「あの人も言ってた…つっ!」
脳裏に強いノイズが走った。
氷河「…そうだ…俺は…俺は…!」
そのノイズを皮切りに、全てが蘇っていく。仲間の事、青鬼の事、そして…あの人を奪った殲滅軍の事を…
オーヴァー「クソが…邪魔ばっかしやがって…トドメだ!!」
オーヴァーがひろしに鎌を突き刺そうとしたその時、氷河が動いた。
氷河「させねぇよ!!」
氷河が即座に間に入り、オーヴァーに蹴りを入れた。
氷河「大丈夫ですか、ひろしさん?」
氷河は振り返って言った。
ひろし「氷河、記憶が戻ったのですか!?」
氷河「はい。心配かけてすみませんでした。もう大丈夫です!」
氷河はいつもの明るい声で言った。
ひろし「良かった…良かったですよ…」
ひろしは下を向き、安堵の涙を流した。
氷河「わわ、悪かったですって!フラグですけど、もう絶対忘れませんよ!」
氷河はひろしに手を伸ばした。
ひろし「えぇ、頼みますよ。」
ひろしは涙を拭い、その手を掴んだ。
オーヴァー「クソが…急に元気になりやがって…!」
オーヴァーはひろしに一瞬で間合いを詰め、蹴り飛ばした。
ひろし「うわあああぁぁぁっ!!!」
ひろしはかなりの距離を飛ばされてしまった。
氷河「ひろしさん!!」
オーヴァー「後はお前だけだ!さっさと死にやがれ!!」
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