奪還無双

4 2025/08/29 16:07

第一章 無能の烙印

 この世界には、人ならざる力を持つ者が存在する。

 それを人々は「能力」と呼んだ。

 能力者の数は全人口の三割ほど。その力は生まれながらに定められており、目覚めた瞬間にその者の人生は決まる。能力にはランクが存在し、最低がEランク、最高がSSSランク。Eは凡人、Cでようやく人並み、Dなら一目置かれ、B以上は国が注目する。Aは国家戦力級、Sとなれば世界に百人しか存在せず、SSは二十人もいない。そして、SSSは──人類史上、いまだ確認されたことがない。

 だが、一人だけ例外がいた。

 少年、天城蓮(あまぎ・れん)。

 学園でもっとも無能と嘲笑される存在。

 能力鑑定の儀式の日、彼のステータスプレートには冷たく刻まれていた。

 ──《能力:なし》

 それはEランクですらなく、完全なる「無能」。

 同級生たちが「火炎操作(D)」「鋼体化(C)」といった能力を得て喜ぶ中、蓮だけが孤独に取り残された。

「お前、本当に何の能力もないんだってな」

「無能が学園にいるだけで恥なんだよ」

 毎日のように浴びせられる嘲笑と侮辱。教師たちも見て見ぬふりをした。能力社会において、力なき者に存在価値はない。

 だが、蓮の胸の奥には他の者にはない黒い炎が渦巻いていた。

 ──俺は必ず、強くなる。

 ──そして、あの日の復讐を果たす。

 蓮の母親は、彼が幼いころに魔獣に殺された。

 魔獣は人類の敵であり、能力ランクと同じようにS~Eの格を持つ。軍やハンターたちが討伐に挑むが、Bランク以上の魔獣は単独で国を滅ぼす力を持つ。

 母を殺したのは、前人未踏の巨大な塔──**《試練の塔》**に棲まう魔獣だった。

 塔は6666階層にまで及ぶとされ、国家最強のハンターですら100階を超えられない。人類の常識を超えた絶望の象徴。

 その最上階、6666階に母の仇がいると、蓮は確信していた。

 けれども、無能の身でどうやって仇を討つというのか。

 蓮が運命を知ったのは、学園の寮で一人、眠れぬ夜を過ごしていたときだった。

 孤独と絶望に押し潰されるように眠りに落ちた彼は、夢の中で黒き鎖に絡め取られた。

『……汝に与える。奪え。喰らえ。全てを己の力とせよ……』

 その声と共に、蓮の右腕に黒い刻印が浮かび上がった。

 目を覚ますと、手の甲に漆黒の紋様が確かに刻まれている。

 脳裏に、能力の名が流れ込んだ。

 ──《能力:奪還(ランクSSS)》

「……奪還?」

 試しに、同室のクラスメイト・刃斗(やまと)の部屋へ忍び込んだ。彼は「火炎操作(Dランク)」を持つ。

 眠る刃斗の腕に触れると、黒い紋様が脈打ち、彼の体から紅い光が引き抜かれていった。

 次の瞬間、蓮の手に炎が宿った。

「……まさか、本当に」

 奪還スキルは、他者の能力を奪い、自らのものとする力。しかも、失った相手は二度と能力を取り戻せない。

 刃斗が目覚めて火炎を出そうとしたが、指先からは何も生まれなかった。絶望する刃斗を見下ろしながら、蓮は初めて笑った。

 ──これが俺の力。

 ──無能? 違う。俺は最強だ。

 それからの蓮は、学園の影で次々と能力者を狩り始めた。

 誰も気づかぬように事故を装い、挑発されたケンカを逆に利用しては能力を奪っていく。

 「鋼体化(C)」

 「空間跳躍(B)」

 「治癒(B)」

 わずか数日で、彼の体内には複数のスキルが宿っていた。

 本来なら二つ持つ者すら一万人に一人。だが蓮には制限がない。

 彼の名を嘲った者たちは、今や一人残らず無能力者に落ちぶれていた。

 やがて、蓮は気づく。

 力を持つ者は、戦場だけでなく経済においても圧倒的な影響力を持つことを。

 治癒能力を活かした医療ビジネス。

 空間跳躍を応用した高速物流。

 鋼体化を用いた建築・軍需産業。

 「最強の力」と「無限の能力」を組み合わせれば、世界経済すら手中に収められる。

 蓮は冷たく笑った。

「俺を無能と言った連中が、金を払ってでもひれ伏す未来を作ってやる」

 復讐の第一歩が始まった。

 だが、蓮の視線の先にはただ一つの目標があった。

 ──試練の塔。

 ──6666階に棲まう、母を殺した魔獣。

 それは、史上初のSSSランク魔獣とされる存在。

 国家も人類も手を出せず、伝説と化した絶対的怪物。

 必ず登り詰める。

 必ず奴を殺す。

 蓮の旅路はまだ始まったばかり。

 その背後には、知らぬ間に魅かれてゆく少女たちの影もあった。

 彼が奪い集めた力と共に、数多の出会いと欲望が渦巻き、やがて彼の名は世界に轟くことになる。

 ──最強の無能、天城蓮の物語が、ここに幕を開ける。

第二章 雷帝との邂逅

 学園の広大な演習場は、熱気に包まれていた。

 月に一度行われる《公開模擬戦》──学園の能力者たちが己の力を披露する舞台である。

 観客席には生徒たちがぎっしりと座り、教師陣も視線を注いでいた。

「やっぱり今日は雷帝様が出るらしいぞ!」

「うわあ、本物のAランク能力を生で見られるなんて……!」

 生徒たちの視線は、一人の青年に集まっていた。

 神代颯真──学園に三人しかいないAランク能力者の一人。雷を自在に操るその姿は、同世代において無敵と謳われていた。

 一方、観客席の隅に座る天城蓮は、無関心を装いながらも胸の奥に黒い炎を抱えていた。

 ──今日、俺は初めて公の場で動く。

 《奪還》の真の力を示すために。

「おい、無能が何をしに来たんだ?」

「模擬戦でも見物して勉強か? ははっ」

 周囲から浴びせられる嘲笑。

 だが蓮は、黙って視線を前へ向けた。

 演習場の中央に立つ颯真は、笑みを浮かべながら雷を解き放つ。

 ──バリバリバリッ!

 蒼白い稲妻が空を裂き、轟音と共に地面を穿った。

 観客席が沸き立ち、歓声が響き渡る。

「さすが雷帝様だ!」

「やっぱりAランクは格が違う!」

 教師たちでさえ誇らしげに頷いていた。

 颯真の目が蓮を見つける。

 その瞬間、口角が吊り上がった。

「……まだいたのか、無能。

 せっかくだ、模擬戦で俺とやってみろよ?」

 場がどよめいた。

「はあ!? 颯真様と無能が!?」

「勝負になるはずがない!」

 教師が止めようとするが、颯真は構わず挑発を続ける。

「どうせ一撃で終わるんだ。見世物にしてやる」

 蓮はゆっくりと立ち上がった。

「……いいだろう」

 開始の合図と共に、颯真が一気に雷撃を放つ。

「消し炭になれぇっ!」

 ──バリィィィン!

 青白い雷が蓮を飲み込む……はずだった。

 だが次の瞬間、観客席が息を呑んだ。

「……え?」

 雷撃は黒い紋様に吸い込まれ、蓮の腕へと流れ込んでいた。

 颯真が目を剥く。

「な、何だ……俺の雷が……!」

 蓮は静かに手を掲げた。

 そして──颯真と同じ、いやそれ以上に強大な稲妻を放った。

 ──ドォンッ!

 大地が抉れ、轟音が響き渡る。

「う、嘘だろ……!」

「無能が……雷帝様と同じ雷を……!?」

 観客席から悲鳴にも似たざわめきが広がる。

 颯真は顔を引き攣らせ、必死に雷を放った。

 ──だが、同じ雷を纏った蓮が正面からそれを受け止め、さらに倍の力で押し返す。

「馬鹿な……! 俺の唯一無二が……真似されるだと!?」

 プライドを砕かれた颯真の叫びが響く。

 蓮は冷ややかに言い放った。

「唯一無二? 笑わせるな。

 お前の雷は、もう俺のものでもある」

 ──その瞬間、颯真の心は折れた。

 能力を失ったわけではない。

 だが「自分だけの力」を、無能と蔑んでいた存在に並ばれ、越えられた。

 それは雷帝にとって、死よりも屈辱だった。

「う、うわあああああああ!」

 颯真は絶叫し、地に膝をついた。

 観客席は騒然としていた。

 「無能」と見下されていた少年が、雷帝と同じ力を振るった。その事実に誰もが震えていた。

 その中で、銀髪の少女──白銀美琴だけは、瞳を逸らさずにいた。

(……この人は何者なの? 無能なはずなのに、颯真と同じ力を……)

 氷結姫と呼ばれる彼女の心に、初めてひびが入った瞬間だった。

 演習場を後にする蓮の背中は、誰もが息を呑むほど堂々としていた。

 まだ学園の誰も知らない。

 彼が奪った力を積み重ね、やがて無限の強さへ至る存在であることを。

 そして蓮自身も理解していた。

 ──これは始まりにすぎない。

 母を奪った魔獣を討ち、塔を登り詰めるまで。

 この力は、止まることはない。

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おもしろ2025/08/29 16:07:12 [通報] [非表示] フォローする
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