【小説】ハロウィンとキャンディ 1話
あの日のハロウィンのことを、いつも僕は思い出す。
「じゃあな亮也!」勝寿が手を振ってくる。仲がいい訳でもないのに、妙にフレンドリーな奴だ。僕は勝寿と別れ、学校の帰り道を歩いていた。勝寿はいつも僕に話しかけてくる。僕は友達など、求めていないのに。1人で過ごす、それだけで良い。
歩いていると、突然後ろから風がふわりと吹いた。風が僕の頬を撫で、異質な空気があたりに漂う。僕は恐る恐る振り向くと、そこには…
猫が居た。黒い、可愛らしい猫だ。
「ねぇ、君。ハロウィンを満喫してるかい?」
誰かの声が、脳に響く。周りには誰も居ない。ここに居るのは…猫だけ。
「うわっ…猫が喋ってる!?」
「そうだよ。ボクは喋れる。」
「君みたいなハロウィンを満喫してなそぉ〜うな人間に、ハロウィンを満喫させるためにここにきたのさ!」
脳の処理が追いつかない。どうして猫が目の前で喋っている?ここは夢なのか?何なのか?
分かることは、この猫が言っていることが失礼なことくらいだ。
「ねぇ君、ハロウィンを楽しむ気はないかい?」
「そんなものに興味なんてない。僕はただ…」「ねぇ、僕の行く場所について行けば楽しいことがたくさんあるよ!試しにほら…少し見てみようか。」
どこからか鈴の音が鳴る。そして、僕の一歩前に___まるでおとぎ話のような世界が広がっていた。
そこら中に置かれたジャック・オー・ランタン。飛ぶコウモリと歩く黒猫。ホウキを持ち飛ぶ人間。何の変哲もないこの世界に、僕の目の前に、突然現れた「ハロウィーン」。
僕はその世界に、惹かれ。目の前の見たこともないような世界に、足を踏み入れた。
途端に下にあった道路は草の生え茂る地面へと、上にあった仄暗い空はオレンジ色に染まった明るい空へと変わった。あたり全てが、ファンタジー。本当に現実なのかも疑ってしまうような…いや、現実ではないのかもしれない。
「あ、また誰か来た!」
明るい声が聞こえ、驚きながら振り返る。まさか…
「あれ、亮也くん!?」
彼女は「冴薙小春」。クラスの優等生で、綺麗な茶髪の…僕の惚れている、女の子だ。何故こんなところに?自分以外も来ているのか…?
「亮也くんも来てたんだぁ〜!他の人もいるけど…知り合いがいなくて心配だったんだ!」
小春は、一言一言をきらりとした笑顔で言う。僕にはできない…する必要もない。そして僕は周りを見渡した。確かに、人がたくさんいる。
「ところで、この世界ですべきことって猫ちゃんに教えてもらった?こっちには猫ちゃんがいたんだけど…」
「お、僕が説明するのを忘れてたよ!」
そういって、あの黒猫が後ろから突然現れた。
「この世界では、魔法のキャンディを4個集めると良いことが起きるんだ!なんとね…ハロウィンの料理をいっぱいおうちで食べられまーっす!」
そう黒猫は威勢よく叫ぶ。
「そ、それだけかよ…」
「でもね、その料理には魔法がかかっているんだ!ま、どんな魔法かはキャンディを集めるまでわからないんだけどね!…まぁ、気に入らないなら帰っても良いんだよ?時間自体は進んでないけど、嫌なら…」
黒猫はそう言った。たしかにこんなところに長時間滞在して家に帰らないのも嫌だが、それ以上に…こんな見たこともない世界から、帰りたくないという気持ちもあった。それに、小春とこんなに喋れる機会を失いたくはない。「まぁ、集めてみるわ…キャンディ。」
僕はそう言って、キャンディ集めに協力して見ることにした。
正直、キャンディを集めるなんて子供じみた遊びやりたくない、と思っているのが僕だ。だが、一度決めたことなのだから仕方ない。僕は、一歩踏み出してみた。

