供物
「こうなるのも当然か、助けたのは凪なのだから」
溺れそうなのを助けたのは、兄だ。
寒くて苦しくて、そんな時に大人たちは突っ立っているばかりで、ナツを助けようとはしなかったのだから。
「反抗心が出るのも無理はなかろう、ワシらは凪を‥」
息を吐く。
「助けなかったばかりか、ワシらは‥」
「そうですね、なっちゃんは、凪くんが居なかったら、ああしてはいないでしょうからねえ」
龍神様へ反抗心を抱くのも仕方がない、それだけ怖い思いをした。
「龍神様に雨乞いをせねば、古くからそうしてきたのじゃから」
バチが当たると言われても、ナツは引かなかった。
「助けてくれたの凪兄だもん‥」
「雨降賜え、雨降賜え‥」
村の大人たちは、あの時、凪を引き留めた。
「そんな泣くなよ、俺はナツがいてくれるだけでいい‥」
「お怒りを鎮めるため、人には抗えぬ天災を鎮めるため」
神事を執り行わねばならない。
「これを持っていなさい」
凪を部屋へ呼び、儀式をする。
「凪、覚えておけ、天災はワシらにはどうにもできん、海を前にすれば人の子など無力じゃ」
「うん‥」
「龍神様は荒ぶる神でもある、良いか覚えておけ」
酒を供える。
「飲むなよ?」
「飲まないよ」
「お返し申し上げます」
初めて、妹ができた。
「ナツ、よろしくな」
初めて、お兄ちゃんって呼んでくれた。
「ナツの分も祈っておけ、あの子も七つじゃ」
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