【小説】9話「一本の木」
9話「一本の木」
「ここは、落ち着くな。」
静かな風の音に耳を傾けて、温かい光を受けながらそう言った。
「おっと、先客か」
声がして振り向いた。
「ソルさん。」
「新人がここまで来るとは思わなかったよ。」
優しく微笑みかけ、隣に腰を落とした。
「あの、ソルさんはどうしてここに来たんですか?」
「...ここは、頭を整理したいときによく来るんだ。」
ソルは落ちた葉を見つめながら、小さく笑った。
「地下ってさ、気づかないうちに息が詰まるから。」
「君は何しに来たの?」
「俺は、少し気分転換を。」
「最近、考えることが多くて。」
……思い切って聞いてみよう。
「ソルさん。」
「ん?」
「エクリプスさんって...。」
ソルは、ゆっくりと視線を空に移した。
「...前は、よくここに来てたよ。」
「一緒に来たことはあったんですか...?」
純粋な疑問だ。エクリプスがどういう人だったのか、まだ知らない。
だから、少しでも知りたかった。
「一緒ではないけど、エクリプスの後に自分が来ることが多かったんだ。」
「そう、なんですね!」
「そうだ。ここに来たの初めてだよね?」
「なら、アレも知らないか。」
「アレとは・・・?えっと...。」
N-16に一体何が隠されているんだ。謎が多い。
「こっちおいで」
そう言ったソルは、深く座っていた体を起こしゆっくりと歩いていった。
少し困惑しながら、ソルの背中を追う。
「これ。」
ソルは一本の木を指さした。
「地下にいる人でも知ってる人は少ない。特別だからな。」
秘密を打ち明けるような口調に、俺は息を呑んだ。
「これ実はエクリプスが植えた木なんだ。」
「エクリプスさんが...!?」
俺は目の前の木を見上げる。
「...スギ、ですよね。」
「知ってるの?」
「昔、木に詳しい友達がいたんです。」
「なるほど。」
木の近くから本物の鳥が飛び立つ。
「この鳥の声...。」
「地下で流れてる音は、この場所を元に作られているんだ。」
「そうだったんですね。」
「ありがとうございます。」
俺はもう一度スギの木を見上げて、小さく頭を下げた。
「また、来てもいいですか。」
「もちろん。」
ソルは穏やかに笑った。
「ここは誰かを拒むところではないから。」
その言葉を胸にしまい、俺はN-16を後にした。
_扉の閉まる音が響く。
ソルは、静かにスギの木に手を添えた。
「......あいつ。」
小さく零れたその一言は、緩やかな風にさらわれ、誰の耳にも届かなかった。
_N-16を出た俺は自室に戻ることにした。
ポケットに入れていた地図を再び開き、行った道に戻っていく。
10話へ続く
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