【小説】9話「一本の木」

2 2026/08/27 20:51

9話「一本の木」

「ここは、落ち着くな。」

静かな風の音に耳を傾けて、温かい光を受けながらそう言った。

「おっと、先客か」

声がして振り向いた。

「ソルさん。」

「新人がここまで来るとは思わなかったよ。」

優しく微笑みかけ、隣に腰を落とした。

「あの、ソルさんはどうしてここに来たんですか?」

「...ここは、頭を整理したいときによく来るんだ。」

ソルは落ちた葉を見つめながら、小さく笑った。

「地下ってさ、気づかないうちに息が詰まるから。」

「君は何しに来たの?」

「俺は、少し気分転換を。」

「最近、考えることが多くて。」

……思い切って聞いてみよう。

「ソルさん。」

「ん?」

「エクリプスさんって...。」

ソルは、ゆっくりと視線を空に移した。

「...前は、よくここに来てたよ。」

「一緒に来たことはあったんですか...?」

純粋な疑問だ。エクリプスがどういう人だったのか、まだ知らない。

だから、少しでも知りたかった。

「一緒ではないけど、エクリプスの後に自分が来ることが多かったんだ。」

「そう、なんですね!」

「そうだ。ここに来たの初めてだよね?」

「なら、アレも知らないか。」

「アレとは・・・?えっと...。」

N-16に一体何が隠されているんだ。謎が多い。

「こっちおいで」

そう言ったソルは、深く座っていた体を起こしゆっくりと歩いていった。

少し困惑しながら、ソルの背中を追う。

「これ。」

ソルは一本の木を指さした。

「地下にいる人でも知ってる人は少ない。特別だからな。」

秘密を打ち明けるような口調に、俺は息を呑んだ。

「これ実はエクリプスが植えた木なんだ。」

「エクリプスさんが...!?」

俺は目の前の木を見上げる。

「...スギ、ですよね。」

「知ってるの?」

「昔、木に詳しい友達がいたんです。」

「なるほど。」

木の近くから本物の鳥が飛び立つ。

「この鳥の声...。」

「地下で流れてる音は、この場所を元に作られているんだ。」

「そうだったんですね。」

「ありがとうございます。」

俺はもう一度スギの木を見上げて、小さく頭を下げた。

「また、来てもいいですか。」

「もちろん。」

ソルは穏やかに笑った。

「ここは誰かを拒むところではないから。」

その言葉を胸にしまい、俺はN-16を後にした。

_扉の閉まる音が響く。

ソルは、静かにスギの木に手を添えた。

「......あいつ。」

小さく零れたその一言は、緩やかな風にさらわれ、誰の耳にも届かなかった。

_N-16を出た俺は自室に戻ることにした。

ポケットに入れていた地図を再び開き、行った道に戻っていく。

10話へ続く

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