この恋が叶うとは思わなかった #1 絶世の美女とはこのことだ
主人公 知弘
ヒロイン 琴葉
メインヒロイン 雫
ある日、知弘の通う学校では、ある噂がたっていた。
「今日転校生が来るらしいぞ、どんな子かな。」
「お前どうせ可愛い子が良いと思ってんだろ。下心丸見えだぜ。」
こんな会話がいくつも聞こえてきていた。
普段は普通のクラスなのだが今日はソワソワしっぱなしだった。
知弘は、皆とは遅れて教室に入ると自分の席についた。
「おい知弘」
突然後ろから話しかけてきたのは、クラスのムードメーカーであり、知弘の良き友達の北山 頼翔だ。
「なんだよ。」
今朝寝坊をしそうになり不機嫌な知弘は、ぶっきらぼうに応えた。
「お前も気になってるんだろ、転校生。」
いやらしく目を細めながら頼翔は言った。
「いや、気になってないし、知ってもいなかった。
小学生じゃないんだからそんなのではしゃぐなよ。」
「ふぅーん、ハイハイ、大人ですね知弘君は。」
「止めろその言い方、こっちは機嫌が悪いんだ。」
機嫌が悪いのは完全に自分の責任なのは分かっていたのだが、八つ当たりをしてしまった。
頼翔はつまらなそうにして自分の席へと戻って行った。
あとで何か奢ってやろうと所持金を確認する知弘であった。
〜〜〜
ホームルームの時間、クラス中の目線は廊下に立っているであろう転校生にくぎ付けだった。
先生が大事な連絡をしているのだが、誰も聞く耳を持たない。
今の男子の頭の中は10:0で転校生の方がダントツだろう。
「それでは転校生を紹介します。」
先生がそう言った瞬間に、知弘はクラス中の男子の気持ちが引き締まるのを感じた。
「ではどうぞ。」
ガラガラと音を立てて開いたドアの向こうに立っているのは、まさに絶世の美女であった。
周りの男子が息を呑んだのが分かった。
滑らかなベージュ色のショートヘアーに大きな瞳、それに制服がよく映えてとても可愛かった。
「では自己紹介を」
「荒牧 雫です。よろしくお願いします。」
「「「「お願いしまーす」」」」
クラス一同はこれまでにないほどハキハキと返事した。
男子は単純だなと知弘は思った。
「よーしそれじゃ、荒牧さんはその辺の空いてる席選んで座っといてくれ、もうすぐ1時間目だから先生もう行くぞ。」
先生は、次に授業をするクラスへと向かった。
雫は席に座ると、もう何人かの女子に囲まれて、少し盛り上がりを見せていた。
すぐ周りに溶け込める人なのかな、と知弘は思った。
授業をしている時も、チラチラ雫の方を見る男子も何人かいた。
それが見つかって先生に「なんだ、蚊でもいるのか。」と言われて、笑われている人もいた。
授業が終わり、昼食の時間になった。
知弘は昼食の時間があまり好きではなかった。
なぜかというと、知弘の周りには人が多いからだ。
普通の人が聞くと、人気なんだなと思うだろうが、それは違う。
友達の多さに満足してもなければ、楽しくおしゃべりもしていない。
逆にいえば先程から周りが転校生の話でずっと盛り上がっていて、正直うるさい。
「荒牧さん可愛かったな。」また男子が言い出す。
「わかる!」「あれは反則だわ」
皆そんなことを言うが、面白くないと思っている人もいる。
例のその人は知弘のすぐ隣に座って不満そうに眉を下げている星野 琴葉である。
彼女は頼翔とクラス1番人気を争うほど人気なのだが、おそらくクラスの注目が違う方に行くのは面白くないのであろう。
「転校生なんかチヤホヤして。」
琴葉は少し拗ね気味だ。
「私も可愛いよね。」
「知らん。」
琴葉は頼翔に助けを求めるが、突っぱねられた。
彼はたまに冷たい時があるのだ。
「知弘はどう思う?」
「別に。」
「返事早!」
意表を突くほど急に振ってきたのでビックリして、即答してしまった。
あまりにも即答過ぎたのかまだ話しかけてきた。
「ほらもっとじっくり見てみて。」
言われた通り知弘は琴葉の顔を改めて見た。
丁寧に整えられた茶色の髪、整った顔、おまけに綺麗な瞳。
もう皆慣れてしまったが、琴葉は一応美人なのだ。
「一応って何よ。」
「あ、ごめん。」
声に出ているとは思わなかった。
「ま、可愛いっちゃ可愛いんじゃない?」
知弘は答えた。
「ほうらね頼翔、知弘は可愛いって言ってたよ。」
「私に惚れちゃうでしょ。」
「それはないかな。」
「うっそぉー」
確かに可愛いが、生憎知弘は何も思わなかった。
琴葉は、マンガなどである『ガーン』という効果音が入りそうな顔をしていた。