「君に捧げる並行世界」~第一話~
「君に捧げる並行世界」~第一話~
【登場人物解説】
・朝比奈紫 :(ゆかり)
・天野原琴音:(ことね)
・小笠原夏梅:(なつめ)
片付けのついでに部室の窓をそっと開けた。暖かな日差しと葉桜が舞い降りてくる。優しく吹く風を紫はぼんやりと眺めた。
「もうそろそろ開花ですね。今年も皆さんでお花見でもどうですか。」
そう言って柔らかな笑みを浮かべた小笠原部長にいいですね、と相槌を打つ。来週には三月か、琴音を誘ってどこか行ってもいいな。そんなことを考えながら日の当たる部室を後にした。
「あっ、紫。今日遅かったね。」何かあった?と心配そうな顔をしている友人に苦笑しつつ大丈夫と言った。待っといてといったわけでもないのにな、とどことなく嬉しく思いながら琴音と並んで歩きはじめる。
「全く、琴音は心配性だなぁ。」
「心配性で何か悪い?」
と琴音は不満げに少し頬を膨らませた。こういうところも琴音らしいなぁ、そんなことを思いながら軽く謝る。
「ごめんごめん、今日なんか奢るから。あっ!でも500円以上は払わないからね!」
きっぱりと言った私にえぇ~という目線を向けたがしぶしぶ了承した。
「普通金額の設定は謝られる側がするものじゃないの?」
その姿を見て私は思わずぷっと吹き出した。それも見て琴音も吹き出す。二人でさんざ笑いながら川を見た。葉桜が川面を滑る。透き通った川に河川敷の景色が映っていた。吸い込まれるように眺めていると横からあっ、という声が聞こえた。見ると琴音はスマホの液晶画面を見ている。
「どした?琴音?」
私としては軽く言ったつもりだったのだが、琴音はやけに驚いたようで、ビクッと体を震わせるとたどたどしく何でもないよ?と言った。目を泳がせている琴音を見て私は笑いを堪えるのに必死だった。私から見るとスマホの画面は反射していてよく見えない。これは琴音の意思か何かなのだろうか。こんなに分かりやすい嘘はないなと考えながら琴音の手からひょいっとスマホを抜き取った。
「ちょっ⁉紫⁉プライバシーの損害だよ!」
琴音は慌てて私の手をはねのけてスマホを奪い返した。よほど慌てていたのだろうか。肩で呼吸をしていた。
「あっあと、学校に課題忘れたから取りに帰るね、じゃあね!」
私が目を点にしているとそれだけ言って走り去っていった。しかし、それに対して驚きはなく呆れる気持ちさえあった。
「はぁ…。」
紫は軽くため息をつくと河川敷沿いを歩きながら琴音の後をそっとついていった。
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