【小説】アガパンサス #5 下足室
https://tohyotalk.com/question/426551
↑前話
更新が大幅に遅れてしまい、申し訳ありません。
少しサボってしまったのと、先に4話ほど進めて書いて、物語をまとめようとしていたのが原因です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
授業が終わった途端、一夏は急いで階段を駆け下りる_____はずだった。
「一ノ瀬、ちょっといいか?」
そう先生に呼び止められ、私はビックリして足を止めた。
「あ、はい」
_____今日はなんとなく早く帰りたかったけど、ちょっと長引きそう。
そんな私の思いは現実になった。
話は20分ほど続いた。しかも、本来呼び出さなきゃいけないのは私じゃなくて別の人だった。
先生があまりにも知らないことばかり話すから、おかしいなぁって思ってたけど、やっぱり人違いだった。
「すまんかった。もしかして、急いでたか?」
「いえ、全然!」
確かに軽く走っていたけど、早く帰りたかったのはただの私の思いつきであって、予定があった訳ではない。
教室を出ても、私は走らずにいた。ここで急ぐ素振りを先生に見せてしまったら、余計な心配をさせてしまうかもしれないと思ったからだ。
階段を降り、下足室に着くと、なにやら物音が聞こえた。
木でできた何か同士が当たるような音だ。
少し恐怖心を抱きながら、自分のクラスの下駄箱がある所に顔を出した。
すると、そこにあったのは、義人の後ろ姿だった。
_____なんだ義人か。
すっかり安心して歩き出したその時、私は義人が何をしているかに気付いて、足を止めた。
義人は、私の下駄箱の中を見ていたのだ。
自分の目が信じられなかった。なんで私のを?
考えるより先に声が出た。
「何してるの?」
義人は咄嗟に下駄箱の蓋を閉じ、怯えた様子でこっちを振り向いた。
声の主が私なのを確認し、義人の顔は少し青ざめたように見えた。
「ご、ごめん」
義人にそう謝られて、私は戸惑った。
初めは疑問に思ったけど、特に怒りの感情もない。逆に、ラブレターなんか送ってくるくらいなんだから、靴くらい見るもんなんじゃない?
なんなら私だって逆の立場なら見てるよ。
……いや、やっぱり嘘。さすがにしない。
とにかく、怒っていないということを伝えなくちゃ。
えーと…どうにか誤魔化すには…そうだ!
「やだなー、義人ってば。私の靴が見たかったなら言えばいいのにー」
別に気にしてないし、怒ってもない。そんな気持ちを込めてそう言った。
けどこれ、私ヘンなこと言ってない!?
『本当は怒ってますけど相手を傷つけない為に必死にフォローしてます』みたいになってない!?
義人は申し訳なさそうに頭を下げているだけだ。
やっぱり逆効果だったかも…。
「…」
「…」
空気重くなっちゃったな…どうしよ。
表情は笑顔だが、内心はめちゃくちゃ焦っていた。
なんか余計落ち込んだ気がするけど大丈夫?もう帰ろうかな?このまま居たら気まず死しそう。うんその方がいいかも。実際この気まずくて居づらい空間から早く抜け出したい。そうしよう。ここで立ち去ったら義人が余計気にすると思うけどそうするしか今の私には選択肢がない。
よし、帰ろう。
自分の下駄箱に向かって歩き出すと、義人はゆっくりと横に移動した。
靴を取り出し、床に落とす。
靴が落ちる、タンっという音が下足室全体に響き渡った。
靴を履き、義人に向かって手を振る。
「それじゃまた明日ねっ♪」
そう言うとすぐに出口へと走った。
あー…早く外の空気吸いたい。たぶん今下足室の空気に酸素入ってないよ、あれ。
だが外に出る1歩手前で、義人に声をかけられた。
「ほんとにごめん」
気まずい空気が追いかけてくるのを感じてウッとなった。
それでも義人を元気付けるため、精一杯の笑顔で言った。
「ううん、大丈夫。いつか靴の感想教えてね」
手を振りながら下足室を飛び出した。
外の新鮮な空気を吸い、一度深呼吸をした。
ちょっとだけ若返った気分。
それはそうと、ほんと私何言ってんの?
もっといい言葉があったはずなんだけどなぁ。
最後なんて、『ううん、大丈夫。いつか靴の感想教えてね』だよ?
義人からしたらただの嫌味だよね、あんなの。
1人後悔しながら、校門への道を走っていた。
次話↓
[しばらくお待ちください]
このトピックは、名前 @IDを設定してる人のみコメントできます → 設定する(かんたんです)