叶わない恋に奇跡を【6話】

「おはようございまーす！」

いつものように階段を降りていく。

あれ？いつもならもう調理場が忙しくなっているはずなのに、今日はマーサさんも料理をしていない。

「マーサさーん、今日ってお店は…？」

「ああ、今日は休みなんだ。だからアリアちゃんも遊びに行っておいで！」

そっか。休みなのか。

そう考えていると、

コンコン！

「わっ？！」

突然、ドアをノックする音が聞こえた。

マーサさんが扉を開けると、そこにいたのは…

「マーサさん、アリア！おはよ〜！」

朝から元気いっぱいの彼は…

「カリム！朝早いね！」

私はびっくりして答える。

「今日は店が休みだから、アリアを連れて行きたいところがあって！」

「どこに行くの？」

「着くまで秘密〜！」

私が聞くと、彼は笑顔でそう言った。

「ふふ、いってらっしゃい！」

マーサさんに見送られて、私たちは店を出る。

しばらく歩いて行くと、小さな海岸に出た。

うん？「海」…？

「ねっ、ねえカリム！「海」とかってもう地球上からなくなったんじゃなかったの？」

「自然」なんてものは無くなったはずだよ…？

「うん。でも正確には無くなってないんだ。実は、ここには地球最後の「海」が存在する。」

「ほんとっ？」

でも…じゃあ研究所の人たちが言ってたことって…？

「あははっ！実際ここにあるじゃん。」

そう彼が言う。

「でもっ、なんで知られてないの？」

「街の方では科学技術がすごく進んでるだろ？だけどうちの村はそこまでデジタル化が進んでいない。政府はこんな古い村があることを他の国に知られたくないから、存在を隠しているんだ。だから、うちの村には「自然」が残っているけど、この村は隠されているからそれを知っている人は全くいない。」

？？？

「うーん？なんかよくわからない。」

カリムの説明を聞いてもあまり分からない。

でも、この村には自然が残っているのか…！

「ほら、マーサさんの宿にもたくさんお花が飾られてただろ？あれも「自然」が無い他の街にはないんだよ。」

「そうだったんだ。」

うーん。なんとなく理解した…かな？

「ちなみにここは、村の人から「幻の海」って呼ばれてるんだ。」

カリムが教えてくれる。

「幻の海…！きれいだね…！」

「そうだろ？アリアに見せたかったんだ！」

彼が笑う。

「えいっ！」

パシャっ！

冷たい海水がはねて、こっちに飛んでくる。

「わっ！？」

もうっ！カリムめっ…！

「あははっ！」

そう笑っている彼に、思いっきり海水をかけてやる。

バシャッ！

「うわあっ！」

「もうっ、アリア！やったな！？」

それから海で遊んで、濡れた服も心地良い潮風ですぐに乾いた。

「よしっ、そろそろ次のとこ行こう！」

カリムが言う。

「えっ！まだあるの！？」

わたしがたずねると、

「うん！次は僕のとっておきの場所だから！」

そういって砂浜を駆け出す。

「わあっ、待ってよ〜！」

私も少し遅れて駆け出す。

小さな坂道を登って行く。

着いたのは、小さな丘。でも、一面に花が咲き乱れている。

「わあっ…！」

思わず感嘆の声がもれる。

「ここが僕のとっておきのお花畑だよ！」

「ここからは、さっきの海もマーサさんの店も見えるんだ！」

そう言ってカリムはお花畑に腰を下ろす。

私も隣に座る。

「どう？多分地球最後のお花畑は。」

カリムが訪ねる。

「すごくきれい…！」

なんだろう。カリムといるとすごく楽しい。それに、ないはずの心臓がドキドキする。

もしかしてこれが、……恋？

でも、私はロボットだし…

そっと腕を触る。

実はその下には、「被験体001」の文字が刻まれている。

その無機質な文字を見るたびに、「お前は人間じゃない。人間になんかなれるわけがない」と言われているような気がするんだ。

こんな私がカリムのそばにいてもいいのかな？

だって…

ロボットと人間なんて結ばれるはずもないもの。

叶わない恋なんだ。きっと…。

それに、この時間が永遠に続くわけじゃない。

でもせめて、「今」を楽しむくらいは… いいよね？

「あれ？アリア？どうしたの？」

やばっ、つい考え込んじゃってた。

「ううん。なんでもないよ！」　

慌てて答える。

「じゃあ、そろそろお昼だし、帰ろっか！」

「うん！」

元来た道を歩き出す。

「やっと見つけた。非検体001。よくも逃げ出しやがって。」

嘘…！この声はっ…！

研究所のっ…！