【小説】リアコなんかなりたくなかったのに。第1話

4 2024/02/14 19:57

ー『リアコ』とは、「リアルに恋をしている人」の略で、アイドルや俳優、キャラクターなどに対して恋愛感情を抱くファンを指す言葉だ。

 当然叶うはずもない、悲しい恋。 

 でも、起きるはずのない奇跡を信じて、今日も恋をする者たちがいる。

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【小説】リアコなんかなりたくなかったのに。

ー私が絶望のふちにいた時、救い上げてくれたのが彼だった。

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私は、人に話しかけるのが得意ではなかった。

中学三年生の頃、クラスでは孤立した、いわゆるぼっちのような生活を送っていた。

本当は寂しかった。友達が欲しかった。

ある日のことだった。

「ねーねー!今度クラスのみんなでカラオケ行こーよ!」

クラスに響き渡った中心的グループのリーダー格の声。

「予定とか送るからLINE交換しよ!」

クラスのみんな。私もだろうか?

あっというまに彼女の周りに人が集まる。

「クラスのみんな」。

私なんかが誘われるはずがない。

でも、私だってクラスメイトだ。

私になんて言われてなかったらどうしよう?

でも…、

「あの…!」

勇気を出して声をかけた。

その瞬間、彼女たちの顔が曇ったのがはっきりとわかった。

「あー…、七瀬…さん?だったっけ?」

怪訝そうな声。

急激に心の奥が冷たくなっていくのを感じた。

そっか。私はクラスメイトとも思われてないんだ。

私の居場所なんかないんだ…。

「…ごめんなさい。」

誰に聞こえるわけでもなく小さな声で呟き、席を立ち上がる。

教室を飛び出し、誰もいない屋上へと走る。

とにかく一人になりたかった。

屋上に誰もいないことを確認し、隅に腰を下ろすと、暗い気持ちをかき消すかのように、何をみるわけでもなくスマホを開いた。

「ん…?」

開きっぱなしになっていた動画サイト、おすすめに流れてきたのが、彼だった。

キラキラした衣装に身を包み、眩いライトを浴びて歌い、踊るアイドルらしき彼。

優しい、それでいて力強い、全て包み込んでくれるような歌声と、ただただまっすぐで優しい歌詞。

いつのまにか、涙が頬を伝っていた。

後に彼が、突如として芸能界に現れ、音楽チャートを総なめにし、一躍有名となったアイドル、「真紘」だということをを知った。

何か目覚まし時計のような音が鳴っている。

そうか、夢か…。

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ジリリリリリリリリリリ…

けたたましく目覚まし時計が時を告げる。

ミーン、ミーン、ミーン…

うるさいぐらいのセミの鳴き声と、わずかに空いたカーテンの隙間から差す、眩しい太陽の光。

「真由〜!起きなさい!夏休みだからって寝坊しないの!」

またあの時の夢を見た…。

七瀬 真由。高校一年生。

最近、あの夢をよく見る。

それは、あの出来事がその後の私を変えるくらいの大きな出会いだったからだ。

私は学校で孤立していた。

でも、そんな時、私は真紘の歌に救われた。

だからって、あの後、急に友達ができたりしたわけじゃない。

でも、真紘の歌のおかげで孤立しながらも学校に行き続けることができたし、高一になった今ではなんとか友達もできた。

あの時真紘に出会わなかったら…、私は高校でも同じような日々を送っていたことだろう。

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母に起こされ、嫌々目を覚ましたが、蒸し暑い空気に起きる気になれず、ベッドの中でスマホを開き、目的もなくSNSをチェックする。

「やばい、真紘にリアコ拗らせすぎてしんどい。」

「ねえ真紘の新曲みた?まじで恋しそう、てかもう恋してるw」

「あーやば真紘リアコすぎる」

大量に流れてくるつぶやき。

その中でも「真紘」と書かれたつぶやきは自然と目で追ってしまう。

最近よく聞くようになった「リアコ」。芸能人に対して恋愛感情を抱くこと…らしい。

リアコなんて叶うわけないのに。かわいそうに。

リアコなんてするわけない。私は、ずっと遠くからでもいいから彼の歌を聴いていたい。

「真由〜!ごはんよ!」

痺れを切らして母の声が飛んでくる。

「…はーい!」

スマホを置き、ベッドから立ち上がる。

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階段を降り、リビングへと向かうと、母がスーツ姿で朝食の準備をしていた。

「今日も仕事早いの?」

「えぇ。ごめんね、今日もお昼と夕食は適当に食べといて。」

「パパは?」

「今日はもう仕事に行ったわ。深夜まで帰らないそうよ。ごめんね、今日もご飯、真由一人になっちゃったね。」

うちの親は、毎日のように朝から深夜まで仕事に出掛けている。

さっき母が言ったように、夏休みの今、ご飯はほぼ誰もいない家で一人で食べている。

「寂しい」とは、いつの間にか感じなくなった。

それが当たり前になっていたから。

「うん、わかった。」

「じゃあお母さん、もう行くね。」

「うん、行ってらっしゃい。」

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母が去って、朝食を食べた後。

一人、何をしようかと考える。

誰もいない家にいても暇なだけだしな。

なんとなく外へ出た。

暑い。  

外なんか出なきゃよかったと後悔しつつも、今ここで戻るのは勿体無い気がして、当てもなく足を動かした。

いつのまにか汗が伝っていた。

暑い。

本日二度目の後悔をしながらも、歩き続け、海沿いの道へと出た。

その時、少しひんやりとした海風が頬を撫でた。

海なら少しは涼しいか。

よし、海へ行こう。

そう思い、砂浜へと降りる階段へと向かう。

また海風が鼻をかすめた。

階段を降り、真っ白な砂に踏み出す。

その時、私の目に飛び込んできた。

信じられない。

彼がいた。

キラキラと太陽を反射して輝く海と、それ以上に輝きを放ち、歌い、舞い踊る彼。

彼が口ずさんでいるのは、よく知った真紘の歌。

遠目からでも、真紘によく似ていて。

歌声だって、本人のものと同じに聞こえる。

嘘でしょ。

なんでここに…?

いや、そんなわけがない。

こんなところにいるはずがない。

そう思いつつも、自然にその言葉が口から漏れていた。

「真紘…?」

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その他2024/02/14 19:57:27 [通報] [非表示] フォローする
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久しぶりに小説書いたよ〜

感想コメントしてくれたら嬉しいです(≧∀≦)


めっちゃ面白かったです!

続きが気になる、、!


>>2
ありがと〜(*'▽'*)


いえいえ😊


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