紅剣物語第36話「シュウゲキ・トツゲキ」

6 2025/12/25 19:53

ソラは紅剣を抜き、低く構えた。ヒロトは槍を頭上で回転させたあと、背に槍を構える。

「なんだよ、ガキ2人じゃねぇかよ。ったくソクシボーの奴、もう少しまともな餌を釣ってこいよ」

頭を掻きながら暗闇から現れたのは、カナタだった。

「カナタ、お前まだ諦めていなかったのか?」

ソラは暗闇に向けて言葉を投げかけた。カナタはクククと笑う。

「俺たちの目的は、“遅れてやってきたプレイヤー”を狩ること。そうしてライバルの芽を消す。そうしてつけられたあだ名は、“新人狩りのカナタ”」

カナタの背後から、続々と人が出てくる。総勢20人程度の武装集団に、ソラとヒロトは囲まれた。

「“遅れてやってきたプレイヤー”?」

ソラがそう言うと、暗闇の周囲から笑い声が上がった。

「なんだこのガキ、この仮想空間の仕組みを全くわかっていないみたいだな」

暗闇からもう1人出てきた。タンクトップで全身マッチョな、ハゲの男だ。

「この空間は、プレイヤーが全員同時に降り立つのではなく、プレイヤー同士に少しずつ来た時間がズレてるんだよ。ちなみに俺はここに来てもう2年は経ってる」

ハゲ男は笑い続けている。

「おしゃべりはもういい、セドロ。とっととコイツらを殺せ」

「はいよ」

セドロは拳を合わせ、咆哮を上げる。

「一応言っとくが、俺と戦って生き残った奴はいねぇ。全員殴り殺しだァ!」

セドロはソラめがけて突進してくる。

先に反応したのはヒロトだった。

「少し遅いんじゃねぇかおっさん。これじゃ殴り殺す前に貫かれちゃうぜ」

空中を飛び、ヒロトが槍をセドロめがけて突き出す。セドロは突然の攻撃に反応できていない。

(よし、いいぞヒロト!!)

だがその瞬間、火の玉がヒロトの前面に飛んできた。ヒロトは慌てて火玉をかわす。

カナタはルールブックを出しており、アークスクリプトを次々と解放させる。

「《火焔弾(フレアバレット)》を避けたか。だがまだまだこれからだぞ」

カナタが指を鳴らすと、1人の男が飛び出してきた。手にナイフを持っている。

男はソラに向けてナイフを振り上げてくる。

(こんな遅い攻撃、避けられる。楽勝楽勝)

だがそのナイフは一瞬だけ、長さが2倍に伸びた。

「なっ!」

ソラはどうにかかわしたが、頬が掠った。男が笑う。

男が使ったアイテムは《跳刃の短剣》である。振ると一瞬だけ伸びる短剣だ。

「3槍奥義・穿星!」

ソラの前に現れたヒロトの槍が男の腹に突き刺さり、男は呻きながら倒れた。

「長槍相手に長さ勝負を挑むのは、ちょっとナンセンスだったな」

そう言ったヒロトを、今度はセドロの拳が襲った。

「グッ…!」

顔面に拳を喰らったヒロトは後方の幹まで吹き飛ばされる。

「お前よくも…!」

ソラはセドロの背後から紅剣を突き刺そうとする。セドロは背後からの攻撃に気付けていない。

だが紅剣はセドロの胴体の少し前でぴたりと止まった。

「《遮断壁(ウォール)》発動」

またしてもカナタのアイテムだった。

「くっそ〜!」

ソラは一瞬セドロから離れた。

(敵の攻勢はカナタのアイテムを軸にしてる。あれをどうにかして防がないと勝ちが見えない…!)

「我々はアークスクリプト保有数170枚を誇る、仮想空間内最強の集団だ。大人しく諦めろ。今なら一撃で殺し…」

ソラは跳躍した。最大スピードでセドロの脇を抜け、一気にカナタの懐まで入り込もうとする。

「フン、《転移(テレポート)》!」

カナタはソラの視界から消えた。

(ど、どこに消えた…?)

「《断頭宣告(ビヘディング()》!」

カナタはソラの頭上から、新たな剣とともにソラめがけて突っ込んできた。

カナタはソラの首筋目掛けて斬り込む。

ソラは5回攻撃をかわし、次に紅剣で斬撃を防いだ。

「《断頭宣告(ビヘディング)》は首を狙った攻撃だけが極端に補正されるアイテム剣だ。ちなみにこのアイテムを持っているものはプレイヤーでも数えるほどしかいない!」

「うるせぇ!」

ソラはカナタの脇腹に膝蹴りを入れた。一瞬顔を顰めたカナタは後方に下がる。

遠くから悲鳴が聞こえた。ソラもカナタも聞こえた方を振り向く。

ヒロトが槍を振り回し、敵プレイヤーの首を刎ね、いや叩き落としているのだ。

「こ、この野郎!」

足が震えているセドロは焦って突進し、ヒロトめがけて拳を叩き込む。

「よしもう終わったぞ」

だがヒロトはひょいとセドロを避け、ソラの方へ向かってきた。

「おい小僧、舐めているのかァ!」

振り向いたセドロを見て、ソラは驚きを隠せなかった。

胴体のあちらこちらに槍で刺された刺され跡があり、あちらこちらから血が吹き出す。

「お、おまえ。こ…こん…な…ハ…や‥技…」

自身の傷を見ようとして、セドロは倒れた。

「おいお前ら。俺を忘れているようだな」

ヒロトが3つの人首を懐に持っていた。

「俺も、混ぜてくれよ」

ヒロトが殺気を放つ。ソラは寒気がした。圧に包み込まれる。味方のはずなのに、動けない。

「フ、確かに面白そうだな」

突然、声がした。カナタでも、ヒロトでもない。

現れたのは、ボロ服を着ている黒髪の好青年。目つきは鋭いが、口元には余裕げな表情が浮かんでいる。いかにも東部大陸東部方面出身者の風貌だ。顔をよく覗き込んでみると、同年代にも見える。

男は完全に気配を消していた。ヒロトの殺気とカナタの動揺の中で、巧妙に自らの気配を隠し切っていた。

「誰だお前は。俺のチーム所属じゃないな」

カナタは男の方を見て言う。だが男は答えず、ただ静かに剣の柄に手をやった。

そして男は、駆けた。目指すはカナタの方角。

カナタは一瞬遅れたが、胸のバッジを押し新たなアークスクリプトを出す。

《重化鎧》だ。そしてカナタはまだ手に《断頭宣告(ビヘディング)》を持っている。

(カナタめ、迎え撃つ気だ)

「フン、アイテム頼みか」

「ほざけ!!」

ソラは男とカナタを注意深く見る。

すれ違い様、男の剣と断頭宣告が一瞬で交錯する。

「隙だらけだ」

男がそう言い剣を鞘に戻す。カナタは男の方を振り返る。だが重化鎧と断頭宣告は次の瞬間粉々に砕けた。そしてカナタの胸から腹にかけて、斬撃が見えた。

カナタは口から血を溢れ出し、その場で倒れた。

男は死んだカナタと、ヒロトに殺された他プレイヤーの方へ行き、アークスクリプトを出した。

「《簒奪写本(アーク・テイカー)》発動」

男がそう言うと、死んだプレイヤーのバッジから光が起こる。その光は男のバッジの中に入る。

「死んだプレイヤーのアークスクリプトを自分のものにしているのか」

ヒロトは男を眺めて、そう言う。

「そうさ。俺は雑魚がいっぱいいるところに紛れ込み、こうしてアイテムを奪っている。そう、死んだコイツらと、お前らみたいな雑魚は、格好のカモなのさ」

全てのアークスクリプトを回収した男は、立ち上がる。

「所詮は紛い物ってやつだ。あと重化鎧は着る側の体重が2倍になるらしいから、それだけ隙を生みやすいのさ。さて、と」

男はソラとヒロトの方を見やる。

「君たちも、やるか?」

いいねを贈ろう
いいね
6
コメントしよう!
画像・吹き出し

タグ: 紅剣物語 36話 シュウゲキ・トツゲ..

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する
その他2025/12/25 19:53:09 [通報] [非表示] フォローする
TTツイートしよう!
TTツイートする

拡散用



まだコメントがありません。最初のコメントを書いてみませんか?
画像・吹き出し

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する