紅剣物語第36話「シュウゲキ・トツゲキ」
ソラは紅剣を抜き、低く構えた。ヒロトは槍を頭上で回転させたあと、背に槍を構える。
「なんだよ、ガキ2人じゃねぇかよ。ったくソクシボーの奴、もう少しまともな餌を釣ってこいよ」
頭を掻きながら暗闇から現れたのは、カナタだった。
「カナタ、お前まだ諦めていなかったのか?」
ソラは暗闇に向けて言葉を投げかけた。カナタはクククと笑う。
「俺たちの目的は、“遅れてやってきたプレイヤー”を狩ること。そうしてライバルの芽を消す。そうしてつけられたあだ名は、“新人狩りのカナタ”」
カナタの背後から、続々と人が出てくる。総勢20人程度の武装集団に、ソラとヒロトは囲まれた。
「“遅れてやってきたプレイヤー”?」
ソラがそう言うと、暗闇の周囲から笑い声が上がった。
「なんだこのガキ、この仮想空間の仕組みを全くわかっていないみたいだな」
暗闇からもう1人出てきた。タンクトップで全身マッチョな、ハゲの男だ。
「この空間は、プレイヤーが全員同時に降り立つのではなく、プレイヤー同士に少しずつ来た時間がズレてるんだよ。ちなみに俺はここに来てもう2年は経ってる」
ハゲ男は笑い続けている。
「おしゃべりはもういい、セドロ。とっととコイツらを殺せ」
「はいよ」
セドロは拳を合わせ、咆哮を上げる。
「一応言っとくが、俺と戦って生き残った奴はいねぇ。全員殴り殺しだァ!」
セドロはソラめがけて突進してくる。
先に反応したのはヒロトだった。
「少し遅いんじゃねぇかおっさん。これじゃ殴り殺す前に貫かれちゃうぜ」
空中を飛び、ヒロトが槍をセドロめがけて突き出す。セドロは突然の攻撃に反応できていない。
(よし、いいぞヒロト!!)
だがその瞬間、火の玉がヒロトの前面に飛んできた。ヒロトは慌てて火玉をかわす。
カナタはルールブックを出しており、アークスクリプトを次々と解放させる。
「《火焔弾(フレアバレット)》を避けたか。だがまだまだこれからだぞ」
カナタが指を鳴らすと、1人の男が飛び出してきた。手にナイフを持っている。
男はソラに向けてナイフを振り上げてくる。
(こんな遅い攻撃、避けられる。楽勝楽勝)
だがそのナイフは一瞬だけ、長さが2倍に伸びた。
「なっ!」
ソラはどうにかかわしたが、頬が掠った。男が笑う。
男が使ったアイテムは《跳刃の短剣》である。振ると一瞬だけ伸びる短剣だ。
「3槍奥義・穿星!」
ソラの前に現れたヒロトの槍が男の腹に突き刺さり、男は呻きながら倒れた。
「長槍相手に長さ勝負を挑むのは、ちょっとナンセンスだったな」
そう言ったヒロトを、今度はセドロの拳が襲った。
「グッ…!」
顔面に拳を喰らったヒロトは後方の幹まで吹き飛ばされる。
「お前よくも…!」
ソラはセドロの背後から紅剣を突き刺そうとする。セドロは背後からの攻撃に気付けていない。
だが紅剣はセドロの胴体の少し前でぴたりと止まった。
「《遮断壁(ウォール)》発動」
またしてもカナタのアイテムだった。
「くっそ〜!」
ソラは一瞬セドロから離れた。
(敵の攻勢はカナタのアイテムを軸にしてる。あれをどうにかして防がないと勝ちが見えない…!)
「我々はアークスクリプト保有数170枚を誇る、仮想空間内最強の集団だ。大人しく諦めろ。今なら一撃で殺し…」
ソラは跳躍した。最大スピードでセドロの脇を抜け、一気にカナタの懐まで入り込もうとする。
「フン、《転移(テレポート)》!」
カナタはソラの視界から消えた。
(ど、どこに消えた…?)
「《断頭宣告(ビヘディング()》!」
カナタはソラの頭上から、新たな剣とともにソラめがけて突っ込んできた。
カナタはソラの首筋目掛けて斬り込む。
ソラは5回攻撃をかわし、次に紅剣で斬撃を防いだ。
「《断頭宣告(ビヘディング)》は首を狙った攻撃だけが極端に補正されるアイテム剣だ。ちなみにこのアイテムを持っているものはプレイヤーでも数えるほどしかいない!」
「うるせぇ!」
ソラはカナタの脇腹に膝蹴りを入れた。一瞬顔を顰めたカナタは後方に下がる。
遠くから悲鳴が聞こえた。ソラもカナタも聞こえた方を振り向く。
ヒロトが槍を振り回し、敵プレイヤーの首を刎ね、いや叩き落としているのだ。
「こ、この野郎!」
足が震えているセドロは焦って突進し、ヒロトめがけて拳を叩き込む。
「よしもう終わったぞ」
だがヒロトはひょいとセドロを避け、ソラの方へ向かってきた。
「おい小僧、舐めているのかァ!」
振り向いたセドロを見て、ソラは驚きを隠せなかった。
胴体のあちらこちらに槍で刺された刺され跡があり、あちらこちらから血が吹き出す。
「お、おまえ。こ…こん…な…ハ…や‥技…」
自身の傷を見ようとして、セドロは倒れた。
「おいお前ら。俺を忘れているようだな」
ヒロトが3つの人首を懐に持っていた。
「俺も、混ぜてくれよ」
ヒロトが殺気を放つ。ソラは寒気がした。圧に包み込まれる。味方のはずなのに、動けない。
「フ、確かに面白そうだな」
突然、声がした。カナタでも、ヒロトでもない。
現れたのは、ボロ服を着ている黒髪の好青年。目つきは鋭いが、口元には余裕げな表情が浮かんでいる。いかにも東部大陸東部方面出身者の風貌だ。顔をよく覗き込んでみると、同年代にも見える。
男は完全に気配を消していた。ヒロトの殺気とカナタの動揺の中で、巧妙に自らの気配を隠し切っていた。
「誰だお前は。俺のチーム所属じゃないな」
カナタは男の方を見て言う。だが男は答えず、ただ静かに剣の柄に手をやった。
そして男は、駆けた。目指すはカナタの方角。
カナタは一瞬遅れたが、胸のバッジを押し新たなアークスクリプトを出す。
《重化鎧》だ。そしてカナタはまだ手に《断頭宣告(ビヘディング)》を持っている。
(カナタめ、迎え撃つ気だ)
「フン、アイテム頼みか」
「ほざけ!!」
ソラは男とカナタを注意深く見る。
すれ違い様、男の剣と断頭宣告が一瞬で交錯する。
「隙だらけだ」
男がそう言い剣を鞘に戻す。カナタは男の方を振り返る。だが重化鎧と断頭宣告は次の瞬間粉々に砕けた。そしてカナタの胸から腹にかけて、斬撃が見えた。
カナタは口から血を溢れ出し、その場で倒れた。
男は死んだカナタと、ヒロトに殺された他プレイヤーの方へ行き、アークスクリプトを出した。
「《簒奪写本(アーク・テイカー)》発動」
男がそう言うと、死んだプレイヤーのバッジから光が起こる。その光は男のバッジの中に入る。
「死んだプレイヤーのアークスクリプトを自分のものにしているのか」
ヒロトは男を眺めて、そう言う。
「そうさ。俺は雑魚がいっぱいいるところに紛れ込み、こうしてアイテムを奪っている。そう、死んだコイツらと、お前らみたいな雑魚は、格好のカモなのさ」
全てのアークスクリプトを回収した男は、立ち上がる。
「所詮は紛い物ってやつだ。あと重化鎧は着る側の体重が2倍になるらしいから、それだけ隙を生みやすいのさ。さて、と」
男はソラとヒロトの方を見やる。
「君たちも、やるか?」

