紅剣物語第17話「行先」

6 2025/11/01 12:42

春の風が、砂と草の匂いを混ぜながらチュウニの頬を撫でていく。

その風を全身に浴びながら、彼は岩肌の多い細道を歩いていた。

ガン・ヴァルガンの話では、反火星連盟はいまや“セル”と呼ばれる少数の隠密組織に分かれているという。

行商団に紛れ、宗教調査委員会を装い、あるいはただの村人として暮らしながら、オーデッツ司教の潜伏先を探し続けている。

現在、その中でもロダリウス・ソレヴァンという諜報員が、命を懸けてアジトの特定に挑んでいるらしい。

この前の襲撃で連盟本部と六十名の仲間が塵と化したというのに、それでもなお散り散りになったセルたちは生き残り、炎のような意志だけを繋いでいた。

ヴァルガン、アルバルト、ナイラ、そしてチュウニ。

さらに縄で縛られたタン・サイボーを連れ、彼らは行商団セルの拠点へ向かっていた。

目的地はバグダート城の北西三キロにあるボルド市。

行軍の途中、整備の行き届かない岩場を越えた先に、ようやくボルド盆地が広がった。

三方を濃い森に囲まれ、残る一方には切り立った岩壁がそびえる。盆地の中には薄靄がかかり、夕陽の赤がゆらめいていた。

「けっ、俺を殺したところで無駄だ」

縄の音を鳴らしながら、タンが低く笑う。

「どうせお前らも、すぐに見つけ出されて殺されるさ」

ヴァルガンは鼻で笑い、誇らしげに胸を張った。

「そうなる前に、俺たちは紅の剣を手に入れる。力を手にするのさ」

その言葉に、チュウニはわずかに目を伏せた。

“紅の剣”――その名を聞くたびに、心のどこかで何かがざわめく。

岩場を下りながら、ナイラがふと隣に並んできた。

「チュウニ・ビョウカンジャさん」

柔らかな声が、春の風に溶ける。

「こうして話すのは久しぶりですね。あの士官学校の頃を思い出します」

「……ああ、そうだな」

チュウニは短く答える。

目を細めると、記憶の中に古びた校舎と青い制服が浮かんだ。

彼とナイラが出会ったのは、士官学校時代。

貴族の子弟が集められるその場所で、平民の身でありながらともに優秀な成績を収めていた二人は、異物のように浮いていた。

傲慢な貴族の息子たちにとって、能力で自分を上回る平民の存在など屈辱そのものだった。

味方も友もいない。だが、孤独ゆえに二人は次第に惹かれ合った。

やがてチュウニは生徒会長に、ナイラは副会長に就任する。

――あの日のことを、今も忘れられない。

チュウニの鞄が教室から消えた。ロッカーには一枚の紙切れ。

「屋上に来い」

罠だとわかっていた。それでも彼は向かった。

己の“掌炎”――その力を試したい衝動があったのだ。

屋上の扉を蹴り開けた瞬間、十数人の貴族の息子たちが待ち構えていた。

冷笑と侮蔑が、空気を濁らせる。

「ここで死にたくなかったら、土下座しろ。俺たち上級貴族は、平民を殺しても罪にはならん」

チュウニはゆっくりと両手を上げた。

掌に炎を宿そうとしたが――心の奥に冷たい声が響く。

(ここで殺せば、俺は死刑だ)

拳に力を込める。

次の瞬間、貴族の一人が吹き飛び、二人目、三人目と倒れていく。

しかし多勢に無勢。ついに彼は押し包まれ、殴打を受けた。

その時だった。

「――グワァッ!」

悲鳴とともに、チュウニを殴った者が崩れ落ちた。

皆が息を呑む。

屋上の入口に、ナイラが立っていた。

陽光に照らされた赤い瞳が、鋭く輝く。

黒髪が風に舞い、唇に浮かぶのは余裕の笑み。

彼女は一歩踏み出すごとに、敵が一人、また一人と倒れていった。

その動きは流れるようで、残酷なほど美しかった。

数十秒後、屋上には気絶した貴族の子息たちと、呆然と立ち尽くすチュウニだけが残った。

――あの時の光景を思い出すたび、チュウニは鳥肌が立つ。

彼女の格闘技術は、自分の“力”など遥かに超えていた。

(やはり、呪いの子か……)

隣を歩くナイラの赤目が、今もあの時と同じ輝きを宿していた。

久々の再会に微笑む彼女を横目に、チュウニは無言で歩みを進める。

ーーーーーー

西の港――ゴールデンサンクチュアリへと続く街道には、淡い春の陽光が満ちていた。

遠くで鐘の音が鳴り、風が麦の穂をなでて通り過ぎる。

土の匂いに混じって潮の香りがかすかに漂い、道の先に港町の白い屋根が見え隠れしていた。

その道を、二人の青年が歩いていた。

一人は、新聞を片手に読みふける細身の男――フリダケイ。

学者らしい白い外套の裾を風に揺らし、歩きながらでも活字から目を離さない。

もう一人は、寡黙な少年ソラ。背中には包帯で巻かれた古びた剣を背負っている。

「……『旧地球園東部地区でヨーロッパ連合国軍が解放戦争を開始』か」

新聞をめくる音とともに、フリダケイが低く呟いた。

その言葉に、ソラの肩がぴくりと動いた。

旧地球園東部――そこは彼の故郷、テイシン村のある場所だ。

脳裏に、焦げた木の匂いと、夜空を赤く染めた火の手がよぎる。

胸の奥がきゅっと痛んだが、彼は何も言わなかった。

「ま、歴史は繰り返すってことだな」

フリダケイは紙面を軽く叩きながら、皮肉気に笑う。

「戦争も宗教も、どれも“解放”って名前をつければ正義になる。滑稽な話だ」

ソラは返事をしなかった。

ただ、風に髪をなびかせながら静かに歩き続けた。

しばらくして、フリダケイの指が別の記事の上で止まった。

「お、見つけた。これだ――闘技大会のニュース」

彼はわずかに口元をほころばせ、ソラに紙面を見せた。

「この大会、俺が出るんだ。景品は“紅の剣”。」

「紅剣……?」

ソラが低く聞き返す。

フリダケイは眼鏡の位置を直しながら、語り始めた。

「そう。伝説の名剣。君の背中にあるそれと同じ型だよ。

25世紀の解放戦争の時代、火星軍はこの剣を量産していた。

選ばれた者だけが抜け、莫大なエネルギーを得る。

結果、地球軍は壊滅し――火星神が地球に降臨した、というわけだ」

その口調は淡々としていたが、学者特有の熱があった。

理論を語る時の彼の瞳は、どこか狂気じみた輝きを帯びる。

「君の剣が本物なら、興味深い研究対象になる。

“選ばれる”とは何を意味するのか――構造的か、それとも精神的な現象か……」

フリダケイが独り言のように続ける間、ソラはただ黙って歩いていた。

彼には学術的な興味などどうでもよかった。

ただ、あの剣が燃えるような紅の光を放ったとき、何かを思い出す――

失った故郷、燃える村の中で聞こえた誰かの声。

その時、街道の先に人だかりが見えた。

「……あれ、人が集まってる」

ソラが指を向ける。

フリダケイは目を細め、眉を上げた。

「関所だな。通行証の確認だ」

ソラの顔がわずかに強張る。

通行証など持っていない。それに、彼の背中の剣を見られれば一巻の終わりだ。

フリダケイはため息をつき、苦笑した。

「まったく、君は準備という言葉を知らないのか。……まぁいい」

外套の内ポケットから金属製の装置を取り出す。

小型の水晶が埋め込まれた通信器のようなものだ。

「俺の魔導科学、試してみるか。

この装置は脳内情報に暗号波を送る。要するに――相手に“錯覚”させるんだ」

ソラが目を見開く。

「錯覚?」

「ああ、“この男は通行証を持っている”と思い込ませる。

倫理的にはグレーだが、学問の発展には多少の反則が必要なんだよ」

フリダケイは口角を上げ、歩を進めた。

関所の列に並ぶ。兵士たちの槍が陽光を反射し、空気に緊張が走る。

フリダケイは装置を掌の中で起動させる。水晶が淡く光り、彼の瞳が一瞬だけ銀色に輝いた。

「――この青年は通行証を持っている」

低く呟きながら、ソラの肩に手を置いた。

兵士の目が一瞬ぼやけ、そして何事もなかったかのように頷く。

「……通っていい。次の者!」

通り抜けた瞬間、ソラは息をついた。

背中を伝う汗が冷たい。

「ふぅ……助かった」

「研究の副産物さ」

フリダケイは淡々と言い、新聞を折り畳む。

「だが覚えておけ。錯覚で通れるのは、人間の世界だけだ」

「え?」

「神や剣には、嘘は通じない」

ソラはその言葉の意味を測りかねながら、ただ前を向いた。

港町の屋根が夕陽を受けて金色に光る。

二人の影が、ゆっくりとその方角へ伸びていった。

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その他2025/11/01 12:42:19 [通報] [非表示] フォローする
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2: 2コメさん 2025/11/02 19:27:40通報 非表示

微妙…


>>2
面白いだろ。それなりに


4: 4コメさん 2025/11/03 19:21:13通報 非表示

>>3
は?どこがやねんwww

確かに前設定はそれなりにまとまってるようだが、描写が複雑だしキャラの魅力がガイジレベル😂


>>4
は?お前が転生ご都合ハーレム系しか見れんからそういう発想になるんやろ?

描写が複雑とか思うのなら、とっとと他に駄作とーと小説のとこ行けよ障害児


6: 6コメさん 2025/11/03 19:28:54通報 非表示

>>5
ガイジがなんか言ってるwww

ネット小説なんて、所詮転生ハーレムが命だろ?

こんなところで3流ファンタジー書いたところでたかが知れてる。確かに全偽よりマシってだけで、駄作であることに変わりはないわ😂滑稽だwww


7: akechi @mituhide2025/11/03 19:30:25通報 非表示

>>6
↑俺


>>6
ナニ言ってんだ低能。

大衆はもうネット小説転生者に飽きてんだよ。だからネットでファンタジー系を書くことは何の問題でもないし、内容も良いんだからお前が文句言うことじゃない。結局お前は小説を読む知能が欠けてるんだからとっとと失せろカス


10: 10コメさん 2025/11/03 19:42:22通報 非表示

>>8
負け惜しみが止まらないね😂

ネット小説はどこでも転生だらけだよ。需要があるからね。だからこんなところで終末ファンタジー書いたって需要ないからつまらないし、全偽と同レベルやで。さすがガイジwww


>>10
転生に需要?


12: oda @ujiharu2025/11/07 07:06:56通報 非表示

>>11
ないでしょ


>>12
ないよな


レスバはやめてくれぇ


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