紅剣物語第11話「誘導」
「なんなんだよあの女…」
素早く階段を降り、宿入り口のドアを蹴り上げ外へ出た。
「あの女は敵だ」
ソラが握っている剣がソラに頭の中でそう呟いた。
「敵?ミノグチの仲間とか?」
ソラは口に出し、そう尋ねる。
「いや違うな。あの女は新手の組織の一員だ」
「組織?」
ソラは道路の中心で一度立ち止まり、背後を振り返った。ナイラは追いかけてきていない。
「あぁ、反火星を謳う地下組織で、この剣に秘められている莫大なエネルギーを求めている連中だ」
「この剣のエネルギーで、あいつらは何をするつもりなんだ?」
「さぁな。表向きはメソポタミア地区で圧政を敷いているオーデッツ司教を打倒するために使うだろうが、裏では私利私欲のために使う情けない連中だろう」
剣はそう決めつけた。父の意外な一面が垣間見えたとソラは思った。
「そういえばヒロトとチュウニは?」
ソラはそう尋ねた。だがなぜか剣は答えるのに数秒を要した。
「あの2人は…お前を見捨てた」
「見捨てた?」
その瞬間、ソラに心の中に黒い何かが溜まるのを感じた。
「あいつらは、怪我をして足手纏いになるであろうお前を捨てて逃げたんだよ」
剣はそう続ける。
「そんな…」
ソラはその場に立ち尽くした。出会ってから多くの時を過ごしてきたヒロトと、ソラを旅に連れ出したチュウニは、無責任にもソラを裏切ったのだ。
だが心のどこかで、わかっていたような気がする。
「なぁ剣。俺はこれから、どうしたらいい?」
無気力になり、ソラはそう言った。返答など期待していなかった。いくら剣でも、この問いには答えられないだろう。
「とりあえずバグダート城から出ろ。西門からな」
意外にも、剣はすぐさま返答した。声を聞き、ソラは少し安堵した。
「なんで西門?」
「お前の親父つまり俺のことだが、簡単に言うと西にいる」
「西?どこ?」
「そんな近い距離じゃない。船に乗ってヨーロッパ連合国に行け。その首都ローマ近辺に、父親はいる」
「でもなんでそんなところに?」
剣は少し黙り、そしてかっこよく続けた。
「世界を、変えるためさ』
その答えに、ソラは感嘆した。自分の父親が、世界を変えるべく、家族を捨ててまで行動しているというのだ。
「いいかソラ。これから先の旅は仲間がいなくなる。1人きりっているには案外辛いものさ。だが諦めるなよ。迫り来る野盗、金銭不足、寒さ、そして孤独にも勇敢に立ち向かえ。そのためにこの剣があるんだかな」
ソラの心の中に、剣の言葉が深く入り込んできた。
そしてこの時のソラは、これが洗脳であることをまだ知らない。
ーーー
バグダート城郊外に、小さな村があった。
人口67人のその村は、過剰人口に悩むバグダート城から追い出された難民が5年前に集団で家を建て始めたことでできた。
だが実際には、人口67人全員が反火星連盟の兵士であった。
ナイラ・スヴェインは項垂れながら村の入り口に辿り着いた。
初老の男がナイラを出迎えた。
「ロダリウス・ソレヴァン!久しぶりだね」
ナイラはソレヴァンに声をかける。
ソレヴァンは連盟の諜報部隊を率いる男で、連盟代表のガン・ヴァルガンに抜擢された将校である。実際に多くの結果を出しており、連盟内でも信頼されていた。赤目で嫌味嫌われているナイラのことをよく気にかけてくれている。
「お前が何を誤魔化そうとしているかは一目瞭然だ。紅の剣を奪い損ねたのだろう?」
図星である。
「そうなんだよ。剣の保有者にうまく逃げられちゃって」
がっかりそうにナイラは言う。ソレヴァンは去っていった。
畑と木造住宅しか無いこの村の中心には、周囲の木造住宅に倍する大きさの鉄製住宅が位置している。そこが、連盟の司令部だった。
ドアノブを回し、ナイラは住宅の中に入る。1階には3つに部屋の部屋があり、その中央がガン・ヴァルガンの私室だった。
「入ります」
連盟兵であるという証明書をドアにかざすと、ドアは自動で開いた。
「で、どうだった?」
早速、中年の男ーガン・ヴァルガンーが声をかけてきた。
ヴァルガンは連盟代表ではあるが、表向きにはヨーロッパ連合国軍予備役少将であり、軍異能力旅団に所属している。この異能力旅団は連合国総帥ウィリアム王が自ら指揮し、正規軍が劣勢となった時に応援に駆けつける独立遊軍のようなものだった。
「失敗しました。おまけにチュウニとも出会えませんでした」
「そうか。でもおかしいな。彼は魔法伝達カラスで俺と直接連絡を取り、あの宿にいるはずだったが」
「ですが部屋には2人しかいませんでした」
ヴァルガンは少し考えるような表情をしていた。
「この件はソレヴァンに任せろ。お前はオーデッツ司教のアジトを特定するんだ」
この連盟が発足された理由は、圧政を敷く司教をこの手で打倒するためだ。現に司教は人攫いなどの犯罪行為に手を貸し得た金を私利私欲のために使っている。
「はっ、それでは早速魔法伝達カラスで引き続き情報を収集します:
その時である。建物が悲鳴をあげ、鉄製住宅を除く辺り一体が廃墟と化したのは。
ーーーー
暗闇である。
ミノグチは、彼らのアジトに招待された。
「さてアヴィーデよ。こんな人間を連れてどうする気だ?」
黒い服で覆われた女がアヴィーデにそう尋ねる。
ミノグチは、ソラを襲った後しばらくオーデッツの護衛として近辺警護にあたっていたが、オーデッツがチュウニとやり合い深手を負ったことで、オーデッツとアヴィーデが秘密裏に計画していた「反火星連盟拠点殲滅計画」は白紙になったかに思えた。
だがアヴィーデはミノグチに目をつけると、彼を作戦に参加させれば問題ないと言ったのである。
「司教の後釜みたいなものさ。僕ら3人で連盟を奇襲するのは少しリスキーだから」
女ーセレナーがそれで納得した。セレナの隣にいる太った男ータンーも頷く。
「わかるか。地球制覇を目論む人造王と我々にとって反対派は邪魔でしかない。ミノグチをこちら側にすることで局地戦担当戦力が増えるし、司教の力も損なわれる」
「では早速連盟拠点を攻撃しよう。もう拠点の特定は済んでる」
セレナがそう言い、3人は歩き始めた。
「その前に、この人間が我々の味方であることを証明させよう。No.3号、出てこい!」
タンがそう言うと、暗闇の中からロボットのような物体が出てきた。
「こいつは俺が改造した人間だ。感情もあるし強いが、お前はこいつを殺せるか?」
タンが挑戦的な口調で問いかける。セレナとアヴィーデも笑いながらミノグチに対す視線を向ける。
試されている、と思った。自分が本当に強いのか、どんな命令でも聞ける人間なのか。
「楽勝だ。相手が誰であろうと、一撃で沈めてやるよ」
ミノグチはそう言うと、拳を強く握りしめた。重力圧縮技である。No.3号はそれで潰れた。
「たとえ人間であったとしても、火星信教の邪魔をするものは許さない。だから俺はソラと連盟を倒す」
低く、そして力強くミノグチは言った。

