紅剣物語第14話「フリダケイ」

7 2025/10/19 19:18

「西には、何があるんだろうな……」

アマギ・ソラは独り言を呟きながら、第3街道を西へ向かって歩いていた。

遠く地平線の向こうに、かすかに丘陵が見える。旅の終わりはまだ見えないが、彼の足取りは軽い。

チュウニとヒロトに見捨てられ、宿に取り残された日のことは、もう遠い記憶だ。今では、西へと少しずつ前へ進んでいる。

日が暮れはじめ、周囲が薄闇に包まれる。

「そろそろ食料を調達しないとな」

ソラは街道を外れて、森の小道へと入った。風が葉を揺らし、獣の気配が時折聞こえる。狙いは、ウサギやイノシシ、うまくいけば川魚でも良い。

しばらく歩くと、耳に心地よいせせらぎの音が届いてきた。

「川がある……よし」

剣を抜き、水音のする方へと慎重に近づく。

やがて草の間から視界が開け、小さな川が現れた。透明な水の中では、魚たちがのんびりと泳いでいる。

「いただきます」

ソラは呼吸を整え、剣を一閃。水面が割れ、銀色の魚が刃先に跳ねた。

焚き火を起こし、魚を串に刺して炙る。香ばしい香りが立ち上り、腹の虫が鳴いた。

そのときだった。

「──その魚は食べない方がいい」

不意に、背後から男の声がした。

ソラは驚いて振り向いた。そこにいたのは、肩まで伸びた髪を後ろで束ねた若い男。

白衣を着ており、どこか学者か医師のような雰囲気をまとっていた。

「驚かせてごめん。急に声をかけるのは失礼だったね」

男は頭を掻いて、苦笑した。

「俺の名前はフリダ・ケイ。歴史学者をしているよ」

「……アマギ・ソラです」

警戒しながらも、ソラは自己紹介を返す。

フリダケイは微笑んだ。

「アマギ・ソラ。いい名前だ。響きもいいし、火星史に刻まれる名かもしれない」

「火星史に……?」

「そう。君が持ってるその剣、見せてくれるかな」

驚いてソラは剣に視線を落とす。

「この剣が……何か?」

フリダケイは焚き火のそばに歩み寄り、目を輝かせた。

「それは伝説の“紅の剣”だよ。旧火星時代から伝わる逸物だ。正確には、地球支配を正当化するための神話体系と深く結びついている」

「伝説の……? これが?」

フリダケイは堪えきれず、剣にそっと手を触れる。

「本物だ……本当に巡り逢えるなんて……!」

その表情は、長年の夢が叶った少年のようだった。

「君は選ばれし者だ、ソラ。剣を通じて、火星と地球に隠された真実を暴く鍵を持っている」

ソラは返す言葉を失っていた。まさか、自分がそんな役割を担っているなどとは……。

「ところで」

フリダケイが剣から目を離し、周囲に目をやる。

「さっきから、誰かの気配がする──」

その瞬間、森の闇が揺れた。

「本物だって? 笑わせるなよ、エセ学者」

低く、男とも女ともつかない声が響く。

現れたのは、紫のワイシャツを着た中性的な人物。

顔立ちは曖昧で、目元だけが異様に冴えていた。その手には、黒く鈍い光を帯びた剣が握られている。

「君が本物の剣を持っている? それは違う」

そう言って、相手は自らの剣をちらつかせた。

刃は夜闇と同化するような黒。その中に、うっすらと血のような赤が走る。

紅色に輝いた。

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タグ: 紅剣物語 14話 フリダケイ

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