紅剣物語第24話「決戦1」

8 2025/11/17 19:39

 石床に倒れたソラの呼吸は浅く、胸の奥で微かな熱が揺れていた。

 斬られた場所は深く、意識は暗闇の縁でふらついている。

 手から滑り落ちた紅剣は、転がったまま静かに沈黙していた。

 だが――ほんの一瞬、刃の紋様が脈打った。

 カン……

 金属が小さく鳴る。

 紅剣は誰かに呼ばれたように震え、赤い光を刃の根元から滲ませた。

 その光はゆっくりと流れ、ソラのほうへ寄っていく。

 ソラは意識の奥で、自分を呼ぶ気配を感じた。

 眠りに引きずり込まれそうな中で、どこか赤い火が灯る。

(……ああ……まだ……)

 紅剣がソラの指先に触れた瞬間、

 刃の光が心臓の鼓動と同期するように鼓動を始めた。

 傷口に直接触れるわけではない。

 ただ、身体の奥を温めるように、魔力が静かに流れ込んできた。

 それは“命を作り直す”ものではない。

 ただ、

 沈みかけた意識を引き戻すほどの熱と

 動けるだけの生命力を底から掬い上げる力

 ――その程度の、剣に宿った古い魔術。

「……っぐ……!」

 ソラの胸が上下し、途切れていた呼吸が戻る。

 脈が強く一度跳ね、全身に微弱な力が走った。

 紅剣はなおも淡い鼓動を続け、

 ソラの掌に吸い寄せられるように収まった。

 刃の赤が一瞬だけ強く光る。

 その光は、傷を完全に癒やすわけではない。

 出血も痛みも残っている。

 ただ――

「動ける」

「倒れたままでは終わらない」

 そう思えるだけの温かさが、胸の内側に戻ってきた。

 ソラはゆっくりと目を開け、荒く息をした。

「……ふっ……まだ、行ける……」

 膝が震えながらも、剣を支えに立ち上がる。

 腹の痛みは鋭く残っているが、足は前へ運べた。

 紅剣は弱々しくも確かな光を刷く。

 まるで、主の帰還に安心したかのように。

 ソラは額の汗を拭い、薄暗い廊下を睨んだ。

「……斬ったやつ、探さないと。やり返してやる」

 ふらつく身体で一歩。

 その足元を、紅剣の赤光が淡く照らした。

ーーーーーーー

 私室に差し込む白い光は冷え切っていた。

 オーデッツは椅子にもたれ、笑みを歪ませたまま、

 天井の照明を見上げている。

 「紅の剣……紅の剣……!」

 その声はどこか乾いていた。

 「ゼノ・リードです。入ります」

 “六翼”の憤怒を司るリードが入室する。

 手にした剣には、戦いの気配だけが沈黙していた。

 「ソラという紅剣使いの少年を排除しました」

 「よくやった。紅剣は後で回収する」

 オーデッツは満足げに笑い、

 軽く指先で肘掛けを叩いた。

 「戦況は?」

 「暴食は外で敵を探索中。怠慢は非戦闘。色欲が動き出す気配があります。……そして──」

 リードの声音がわずかに落ちる。

 「言え」

 「傲慢の翼、レンファースの魔力反応が途絶えました」

 オーデッツの笑みが、ほんの一瞬止まった。

 「調子だけは一丁前の奴だったが、脆いものだな」

 その時、部屋の外に潜むかすかな気配を、

 オーデッツは逃さなかった。

 リードが扉を開け、影を引きずり出す。

 嫉妬のリュシア・エインが、力なく床へ倒れ込んだ。

「嫉妬のリュシア・エインよ。ソラに敗れて逃げ帰ったのか」

 

 床に放り出されたエインを、オーデッツは冷ややかに見下ろす。

「ち、違う! 私は負けてない! もっと準備すれば……!」

 エインは声を荒げる。

 「知ったことか」

 オーデッツの周囲に空間の歪みが生じた。

 暗闇の裂け目から現れたのは、一頭の虎。

 彼が従える“忠実な影獣”である。エインの顔色がみるみる失われていく。

 「お、お願い……命だけは……!」

 「役立たずは──処理しろ」

 酔ったような声で言い放った瞬間、虎が静かに歩み寄る。

 エインの悲鳴と、凄惨さを想像させる音が室内に満ちた。

 しかしリードは、一度も顔色を変えなかった。

 ーーーーーーーー

 桃色の魔法陣がフリダケイの足元でうねり、

 “裁き”の光が今まさに噴き上がろうとした、その瞬間。

「……やれやれ。本当にやる気かよ、クロエ」

 フリダケイはふらつきながら立ち上がった。

 足は震え、額の汗も止まらない。

 だが――その手のひらには、淡い“青白い光”が灯っていた。

 演出魔法。

 本当は人を傷つける力なんて一切ない、ただの見せかけの光。

 しかし今の状況で、強く見せるだけなら……できる。

 フリダケイはゆっくり、芝居がかった口調で言った。

「この世界は“流れ”でできている。物質も、力も、魂も。

 ぶつかり、離れ、融合し、消えていく」

 クロエがわずかに眉根を寄せた。

 「……は?」

 青白い光が、フリダケイの足元で渦を巻き始める。

 実体のない魔力の霧。

 だが暗闇の中では、恐ろしく“それらしく”見える。

「魔法陣を壊そうとすれば、そこにも“流れ”が生じる。

 そしてそれは、お前の命を流していくことにもなる」

 自分で言いながら、内心震えていた。

(言葉の意味なんてねぇよ……でも、雰囲気だけで押し切れ!)

 フリダケイは続ける。

「――《流転律》。圧搾領域《サイレント・ボイド》」

 手の中の光が一気に収束し、

 風、水、重力――そんなものが吸い込まれている“かのような”演出が走る。

 ただの光のゆらぎ。

 だが、見た目は圧倒的だった。

 クロエの瞳がかすかに震える。

(……馬鹿な。無能力者が、こんな……?)

 フリダケイは大きく息を吸い、最後の“決め台詞”を放った。

「自然の流れに、逆らうな。

 ただ――導け」

 その瞬間。

 クロエの花弁の法廷が、わずかに揺らいだ。

 魔法陣の光が、ほんの一瞬だけ“乱れた”。

 ――計算が狂ったのだ。

「っ……!」

 クロエの表情に、初めて“怯み”が浮かぶ。

 それはほんの刹那。

 だが、その一瞬を逃す者はいなかった。

「隙だ」

 低い声。

 青い光が走る。

 ニンがクロエの懐へ音もなく踏み込み、

 青刃が、扇子の影を裂いて走った。

 クロエの白い頬に、細い線がひとつ刻まれる。

「――っ……!」

 クロエが後退し、花弁の魔力が混乱したように弾け飛んだ。

 フリダケイはその場にへたり込み、胸を押さえる。

(……よし……!ハッタリが……通った……!)

 青い斬光を背に、ニンが短く言った。

「フリダケイ。今のは……」

 フリダケイは、乾いた笑いを浮かべた。

「……だから言ったろ。俺の魔法は、できれば使いたくなかったんだよ」

 本当はただの“光の演出”――

 そんなことは墓まで持っていくしかない。

 クロエは血を拭い、怒りと困惑を滲ませながら睨みつけた。

「……わたくしの計算を……外すなんて……!」

 その声は震えていた。

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その他2025/11/17 19:39:52 [通報] [非表示] フォローする
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うんだよね


>>2
サイショの裏垢ですこんちわ


>>3
え、まじで!


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