紅剣物語第24話「決戦2」

6 2025/11/19 16:45

ソラは服を血で染めたまま、ふらつく足取りで歩いていた。

「全く……どこへ行った? 俺を斬った奴は。リベンジマッチができないじゃないか」

わざと大きな声を出す。敵を誘い出すためだ。

不思議と、負ける気がしなかった。

手には紅に染まりきった剣。

その見えざる魔力により、彼は確かに死の淵から引き戻された。

傷口はゆっくりと塞がり、体内には力が溢れてくる。

胸の奥まで紅く染まったような感覚だった。

その時、近くの部屋から女の悲鳴が響いた。

ソラは即座に駆け寄り、壁に身を寄せながら気配を探る。

しばらくすると、室内から狂気的な男の笑い声が聞こえた。

(違うな……俺を斬った奴の声じゃない)

その場を離れようとしたが、ソラは足を止めた。

(いや……ちょうどいい。今の俺の力を試すには、うってつけだ)

ソラは勢いよく扉を蹴り上げた。

部屋には、椅子と長机。そして黒い服の男が二人。

ひとりは椅子に座り、もうひとりは血のついた剣を手にしている。

「誰だ貴様は? ……その気配、まさか。リード、お前が仕留めたのではないのか?」

狂気じみた笑いをしていた男が声を上げる。

リードと呼ばれた男は、動揺を押し隠せないまま剣を構えた。

ソラも彼をまっすぐ見据える。

(こいつだ……間違いない!)

返り血の残る剣。そして、仕留めたはずの相手が生きていることへの動揺。

「俺を斬ったのは、お前だな?」

ソラは紅剣を抜き、突きつけた。

「だったら、なんだ?」

「ふん……俺を仕留め損なった、その顔を見に来ただけだ。

 お前の敗因は一つ――俺の剣を回収しなかったことだ!」

叫ぶと同時に、ソラはリードへ斬りかかった。

リードも即座に剣を抜き、斬撃を受け流す。

そして剣ごと懐へ潜り込もうとする。

「させるか!」

ソラは紅剣で懐を守り、リードの剣と交差した。

だがリードの剣力は凄まじく、ソラは胴を押し込まれ、壁まで吹き飛ばされた。

壁に叩きつけられたソラへ、リードが迫る。

ソラは紅剣に防御結界を集中させ、迫る刃を弾き飛ばした。

リードの剣は宙を舞い、天井へ突き刺さる。

リードは即座に肉弾戦へ切り替え、

左手でソラの右手を、右手で襟を掴み、そのまま後方へ投げ飛ばした。

「ぐはっ!」

テーブルへ背中から落ちたソラ。

リードは跳躍し、天井の剣を抜き取ると、そのまま空中から斬りかかる。

ソラは急いで立ち上がり、テーブルを持ち上げて防ごうとした。

だが次の瞬間――机は一瞬で粉砕され、木片を裂いてリードが飛び出してきた。

ソラは慌てて剣を構え、すれ違いざまに横薙ぎを振る。

鈍い痛みが肩に走り、見ると左肩が斬られていた。

「俺の剣術は、隙への一点突破のみを追求した流派……名を“清影(せいえい)”という」

「セイエイ……?」

痛みに耐えながら、ソラは問い返す。

「あぁ。もとは東部大陸の没落王国――カナク王国の特殊部隊が使っていた技だ」

カナク王国。

ヨーロッパ連合国軍総帥ウィリアム・ウォルフワースに滅ぼされた国。

王位継承者と残党のみが行方不明――新聞で読んだ記憶が蘇る。

リードは続けた。

「俺の家族は、ヨーロッパ軍に殺された。生きたまま燃やされた……!」

その言葉とともに、リードの魔力が渦のように膨れ上がる。

(まずい……このままだと、こいつのペースに飲まれる)

ソラは即座に駆け出す。

リードが完全に力を解放する前に決着をつけるため、首筋を狙う。

その時――リードが咆哮した。

「司教……今が好機だ!」

オーデッツが狂気に満ちた声で応じる。

「神さえも掌握する強欲の怪物よ……今こそ紅の異物を叩き潰せ!」

地下から凄まじい轟音が響き、大地が崩壊した。

---

「接近戦は……不本意ですが、仕方がないようですね」

クロエは花弁を集束させ、強大な魔法陣を展開する。

「抗うか、愚かな」

ニンは地を蹴り、疾走した。

花弁の列が反応し、刃の軌跡を封じるように展開する。

「遅い!」

ニンは跳躍し、空中で一回転しながら花弁列を切り裂き、着地した。

(……すげぇ。ガチの戦闘じゃねえか)

フリダケイは息を呑む。

ニンはそのままクロエへ踏み込み、短刀を首筋へ突き出す。

クロエは花弁列の最後尾を握り、防御に回る。

埒が明かないと判断したのか、ニンは体勢を変え、

クロエの胴へ蹴りを叩き込んだ。

クロエは壁まで吹き飛ぶ。

ニンは追撃へ。

クロエも花弁列を槍のように構え、刺しに来る。

ニンは踏み込みを止め、一瞬で後退。

空振りした花弁列を置き去りにし、その隙を短刀で断ち切る。

「……っ!」

クロエの目が見開かれた瞬間――

ニンの短刀が、彼女の首を貫いた。

「終わりだ」

短刀が抜けると、クロエは静かに、優雅に崩れ落ちた。

フリダケイには、それが貴族としての最期に見えた。

「おい、フリダケイ」

ニンはクロエの亡骸を見下ろしながら言う。

「な、なんだよ……」

険しい視線が向けられ、フリダケイは狼狽える。

(まさか……俺が嘘つきだってバレたのか……?)

そこへ、轟音。

土煙が舞い、天井に巨大な穴。

ニンが振り返る間もなく、新たな男が現れ、顔を掴んだまま壁に叩きつけた。

「ぐあっ!」

土煙が引き、男の姿が露わになる。

「俺は暴食の翼、グラン・ヴェルガン。よろしく――」

言い終える前に、

その胴から槍が突き出た。

槍が抜けると、ヴェルガンは崩れ落ちる。

現れたのは――ヒロト。

「お、やっと合流できたな」

金髪をかき上げながら笑った。

フリダケイは気付く。

状況がとんでもない方向へ転がり始めていることに。

地面に亀裂が走る。

(な、なんだこれは……?)

ヒロトも異変に気づき、地面を覗き込む。

次の瞬間――大地が崩れ落ちた。

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