紅剣物語第24話「決戦2」
ソラは服を血で染めたまま、ふらつく足取りで歩いていた。
「全く……どこへ行った? 俺を斬った奴は。リベンジマッチができないじゃないか」
わざと大きな声を出す。敵を誘い出すためだ。
不思議と、負ける気がしなかった。
手には紅に染まりきった剣。
その見えざる魔力により、彼は確かに死の淵から引き戻された。
傷口はゆっくりと塞がり、体内には力が溢れてくる。
胸の奥まで紅く染まったような感覚だった。
その時、近くの部屋から女の悲鳴が響いた。
ソラは即座に駆け寄り、壁に身を寄せながら気配を探る。
しばらくすると、室内から狂気的な男の笑い声が聞こえた。
(違うな……俺を斬った奴の声じゃない)
その場を離れようとしたが、ソラは足を止めた。
(いや……ちょうどいい。今の俺の力を試すには、うってつけだ)
ソラは勢いよく扉を蹴り上げた。
部屋には、椅子と長机。そして黒い服の男が二人。
ひとりは椅子に座り、もうひとりは血のついた剣を手にしている。
「誰だ貴様は? ……その気配、まさか。リード、お前が仕留めたのではないのか?」
狂気じみた笑いをしていた男が声を上げる。
リードと呼ばれた男は、動揺を押し隠せないまま剣を構えた。
ソラも彼をまっすぐ見据える。
(こいつだ……間違いない!)
返り血の残る剣。そして、仕留めたはずの相手が生きていることへの動揺。
「俺を斬ったのは、お前だな?」
ソラは紅剣を抜き、突きつけた。
「だったら、なんだ?」
「ふん……俺を仕留め損なった、その顔を見に来ただけだ。
お前の敗因は一つ――俺の剣を回収しなかったことだ!」
叫ぶと同時に、ソラはリードへ斬りかかった。
リードも即座に剣を抜き、斬撃を受け流す。
そして剣ごと懐へ潜り込もうとする。
「させるか!」
ソラは紅剣で懐を守り、リードの剣と交差した。
だがリードの剣力は凄まじく、ソラは胴を押し込まれ、壁まで吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられたソラへ、リードが迫る。
ソラは紅剣に防御結界を集中させ、迫る刃を弾き飛ばした。
リードの剣は宙を舞い、天井へ突き刺さる。
リードは即座に肉弾戦へ切り替え、
左手でソラの右手を、右手で襟を掴み、そのまま後方へ投げ飛ばした。
「ぐはっ!」
テーブルへ背中から落ちたソラ。
リードは跳躍し、天井の剣を抜き取ると、そのまま空中から斬りかかる。
ソラは急いで立ち上がり、テーブルを持ち上げて防ごうとした。
だが次の瞬間――机は一瞬で粉砕され、木片を裂いてリードが飛び出してきた。
ソラは慌てて剣を構え、すれ違いざまに横薙ぎを振る。
鈍い痛みが肩に走り、見ると左肩が斬られていた。
「俺の剣術は、隙への一点突破のみを追求した流派……名を“清影(せいえい)”という」
「セイエイ……?」
痛みに耐えながら、ソラは問い返す。
「あぁ。もとは東部大陸の没落王国――カナク王国の特殊部隊が使っていた技だ」
カナク王国。
ヨーロッパ連合国軍総帥ウィリアム・ウォルフワースに滅ぼされた国。
王位継承者と残党のみが行方不明――新聞で読んだ記憶が蘇る。
リードは続けた。
「俺の家族は、ヨーロッパ軍に殺された。生きたまま燃やされた……!」
その言葉とともに、リードの魔力が渦のように膨れ上がる。
(まずい……このままだと、こいつのペースに飲まれる)
ソラは即座に駆け出す。
リードが完全に力を解放する前に決着をつけるため、首筋を狙う。
その時――リードが咆哮した。
「司教……今が好機だ!」
オーデッツが狂気に満ちた声で応じる。
「神さえも掌握する強欲の怪物よ……今こそ紅の異物を叩き潰せ!」
地下から凄まじい轟音が響き、大地が崩壊した。
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「接近戦は……不本意ですが、仕方がないようですね」
クロエは花弁を集束させ、強大な魔法陣を展開する。
「抗うか、愚かな」
ニンは地を蹴り、疾走した。
花弁の列が反応し、刃の軌跡を封じるように展開する。
「遅い!」
ニンは跳躍し、空中で一回転しながら花弁列を切り裂き、着地した。
(……すげぇ。ガチの戦闘じゃねえか)
フリダケイは息を呑む。
ニンはそのままクロエへ踏み込み、短刀を首筋へ突き出す。
クロエは花弁列の最後尾を握り、防御に回る。
埒が明かないと判断したのか、ニンは体勢を変え、
クロエの胴へ蹴りを叩き込んだ。
クロエは壁まで吹き飛ぶ。
ニンは追撃へ。
クロエも花弁列を槍のように構え、刺しに来る。
ニンは踏み込みを止め、一瞬で後退。
空振りした花弁列を置き去りにし、その隙を短刀で断ち切る。
「……っ!」
クロエの目が見開かれた瞬間――
ニンの短刀が、彼女の首を貫いた。
「終わりだ」
短刀が抜けると、クロエは静かに、優雅に崩れ落ちた。
フリダケイには、それが貴族としての最期に見えた。
「おい、フリダケイ」
ニンはクロエの亡骸を見下ろしながら言う。
「な、なんだよ……」
険しい視線が向けられ、フリダケイは狼狽える。
(まさか……俺が嘘つきだってバレたのか……?)
そこへ、轟音。
土煙が舞い、天井に巨大な穴。
ニンが振り返る間もなく、新たな男が現れ、顔を掴んだまま壁に叩きつけた。
「ぐあっ!」
土煙が引き、男の姿が露わになる。
「俺は暴食の翼、グラン・ヴェルガン。よろしく――」
言い終える前に、
その胴から槍が突き出た。
槍が抜けると、ヴェルガンは崩れ落ちる。
現れたのは――ヒロト。
「お、やっと合流できたな」
金髪をかき上げながら笑った。
フリダケイは気付く。
状況がとんでもない方向へ転がり始めていることに。
地面に亀裂が走る。
(な、なんだこれは……?)
ヒロトも異変に気づき、地面を覗き込む。
次の瞬間――大地が崩れ落ちた。

